第167話 クリスマスイブ②
Side:南雲 瀬那
「ふぅー、もう満足です」
約一時間。
小分けに取ってきては、ゆっくり食べるのを繰り返していました。
クリスマスらしく、七面鳥の丸焼きまであったのには驚きましたが、美味しかったので良しとしましょう。もちろん、丸々一羽食べたのではなく、切り分けられたものです。
「思ったより、食べたな」
「昨日からセーブしてましたからね」
「まじかよ!?」
「冗談ですよ。品数は多いですが、量はそこまでですよ」
どうしても目移りしてしまうため、少量をたくさん取ってきたので、朔也くんには多く見えたのかもしれませんね。
いろんな味を楽しめたので、とても満足です。
「朔也くんは、同じ品を何度も取ってきていましたね」
「あぁ、俺ってこういう時、気に入ったものを何度も取るタイプらしいな」
「らしいなって、ご自分のことでしょう?」
「ビュッフェ自体、数えるくらいしか来たことないからな。特に何も考えずに取りに行ってたら、こんな感じだったんだよなー」
こういうところは、私にはまだ読み切れない、朔也くんです。
たまに変……面白い行動をとります。自分を実験台にしているようなことをするので、意図がわからないのですよね。
……そういうところも嫌いじゃないですが。
「あとはスイーツですが……取ってきてもいいのですか?」
「あー、少し待って……ちょうどいいな」
「?」
すると、私からは死角になっていたところから店員さんが現れ、その手には……ケーキプレートがありました。
一つはチョコレートをメインにしたもの。もう一つはフルーツをメインにしたものです。
プレートには、チョコペンで「 Merry Christmas 」と書かれています。
「わぁ、可愛いですね」
「そうだな。どっちがいい? どっちも好きそうだったからさ、両方頼んだんだ。ささやかなクリスマスプレゼントってとこだ」
「……お互い、買わない約束でしたよね?」
諸事情により、お互いにプレゼントは用意しないことにしていました。
ただ、それには理由があります。
初めてのクリスマスだからこそ、プレゼントとして用意するものを、あらかじめ二人で決めていたのです。
「買ってない。頼んだだけだ」
「それ、言い換えただけですよね?」
「そうとも言う」
「もう……ありがとうございます。それでしたら、フルーツの方にしますね」
私の前に、フルーツを主役にしたタルトのプレートが置かれます。
マスカット、イチゴ、キウイなど、たくさんの種類の果物が乗っています。
タルトだけではなく、横には少し小さめのプディングがあり、これも可愛いです。
朔也くんの前には、二層のチョコレートケーキ。
下はしっかりとした生地のスポンジで、その上にムースが乗った直方体のケーキです。
横にはプディングではなく、丸いアイスクリームがありますが……白ではありませんし、チョコレートの色でもありません。
「そちら、何のアイスクリームでしょうか?」
「えっと……紅茶みたいだ。初めて食べたな」
「美味しそうです……ね?」
彼は意図を汲み取ってくれて、アイスを一口くれました。
我ながら、あざとい声を出しましたね。でも、恋人相手なら普通です、普通。
「……もぐ……美味しいですね! 私も初めてです」
「ケーキが甘いから、中和というか、お口直しに用意したんだろうな。アイスはそこまで甘くないし」
「そうだと思います。――はい、朔也くん。こちらのプディングも美味しいですよ」
「はむ……うん、いいな、これ。卵の濃厚な味はあるけど、甘すぎず、ほろ苦いカラメルがいいアクセントだな」
チョコレートケーキに比べれば、果物の甘さが中心とはいえ、こちらのタルトも甘いものです。
それと一緒に食べるのにちょうどいい、甘さ控えめのプディングです。
時間はまだあるので、ゆっくりとケーキを食べます。
飲み物は好きなだけ飲めるので、私も朔也くんも、今はカプチーノを飲んでいます。
「ふぅー、まだ時間はあるけど、いい感じに落ち着いたな」
「はい」
「……なら、そろそろ出すか。せっかくなら、この後はつけて歩きたいしな」
「はい!」
朔也くんは鞄から直方体の箱――蓋を開けば二つの指輪が並ぶ、小さなリングケースを取り出しました。
並んでいるリングは、少しくすんだシルバーとピンクゴールドの二つです。
そう。今年のクリスマスプレゼントを、お互いに『なし』にしたのはこれのためです。
「どうだ? デザイン通りにできているか?」
「……」
私はリングをケースから取り出さず、ケースごと動かして確認します。
だって、せっかくなら……ね。
(朔也くんの方のリング、片側の側面が内側に少しだけ凹んでいる?)
「さすがですね、朔也くん。デザイン通りです!」
お守りのピンキーリングをいただいた時に、「お互いに意見を出して作ろう」と少しだけ話したことを思い出して、私はクリスマスプレゼントに指輪をねだりました。
初めてのクリスマスプレゼントとはいえ、少しわがままを言った自覚はあります。
朔也くんは一瞬、驚いた表情をしましたが、すぐに笑いかけてくれて、一緒にどういうものにするか意見を出し合いました。
……時折、魔改造しそうな勢いだったのを止めるのは大変でしたが。
「それは良かったけど、ケースから取り出さなくてもいいのか?」
「……」
もう! こういうところは、まだ私の乙女心がわかっていないのですよね。
いつもは呆れるほど察しがいいのに。
私は右手を彼の前に差し出しました。
これで、察してくれるといいのですが……。
彼はその手を見たあと、少し考えてからケースに入っていた私のリングを取り出し、私の右手にそっと手を添えました。
触れ合った二人の手が、わずかに震えているのがわかります。
不思議と、会場のざわめきも、流れているBGMも、その瞬間だけは遠くに聞こえました。
そのまま、ゆっくりと薬指にリングをはめてくれました。
その瞬間、胸の中に温かいものが広がっていくのがわかります。
薬指に触れる金属は少し冷たいのに、胸の奥だけは妙に熱くなっていきます。
……うん。
言い表せないくらい……嬉しい。
「サイズは大丈夫そうか?」
「……はい。大丈夫です。それにしても、見事にデザイン通りです。いい感じですね」
デザインで描いた通り、表面には彫り模様が刻まれています。
私の方は『月』をモチーフにしたもので、朔也くんの方には『川』をモチーフにした彫り。
……我ながら独占欲が強いですが、後悔はしていません!
あれ?……反対側の表面にも彫りがあります。
先ほどはケースにはまっていたので見逃していましたが。
「朔也くん、こちらの彫りは何でしょうか?」
鳥のような彫りがあります。
ですが、少しだけ形が歪に見えます。
「実はな!」
私は思わずリングを両手で持ち直し、彫りに顔を近づけました。
「ま、まさか、魔改造したのですか!?」
「失礼だな……魔改造ってほどではないぞ。せっかくはめたのに悪いが、貸してくれ」
私は一度リングを朔也くんに渡しました。
彼もケースから自分のリングを取り出し、二つのリングの側面を合わせます。
パズルのピースをはめるように位置を合わせ、そのまま軽く動かすと、小さく「カチッ」と音がしました。
「ほら。……これでっと」
二つのリングは、それぞれ単体でも成立するデザインになっていました。ですが側面の一部には、互いに噛み合うような浅い溝と出っ張りがあったようです。
合わせると、私のリングが朔也くんのリングへ、ほんの少しだけ入り込むようになっています。
先ほど凹んでいた部分は、ちょうど私のリングがはまるようになっていたようです。
寄り添うように、わずかに重なる二つのリング。
まるで、最初からそうなるために作られていたように。
そして二つがその位置に収まった時、それぞれのリングに途中まで刻まれていた彫り模様が、一つにつながります。
浮かび上がるのは、翼を並べて飛ぶ二羽の鳥――比翼をイメージしたのだと、すぐにわかりました。
一つだけでは、片翼。
二つ並んで初めて、一対の翼になる。
「普段はそれぞれ別々の指にはめてるけど、こうして重ね合わせた時だけ、一つの意味を持つように作ってみたんだ」
「鳥だとは思っていましたが、そういう意味があったのですね」
「魔改造ってほどではないだろ? まあ……俺一人じゃ、まだ飛べそうにないからな。瀬那に寄り添ってもらって、やっと飛べるって意味もある」
「……それは、お互い様ですよ。ありがとうございます。すごくいいと思います」
私は嬉しいですが――朔也くんも案外、想いが重いですよね。
私は心地いいですけどね、その重みは。
私はリングをはめ直し、その指を眺めて……にやけてしまいます。
もちろん、ひいおじいちゃんたちからプレゼントをもらったことはあります。
ですが、クリスマスプレゼントは初めてです。
大事にしたいですね。
「うふふ……」
「喜んでいただけたようで良かったよ」
それは嬉しいに決まっています! 意図はどうであれ、ピンキーリングの方をいただいた時だって、嬉しかったのですから……あ。
「……そういえばですが、こちらのリングにも、このお守りリングみたいに何か……付与? みたいなことをしているのですか?」
私は小声で朔也くんに問いかけます。
ここまで来たら、このピンキーリングの仕掛けが、魔法や魔術に由来するものだと言い始めても驚きはしません。
……いや、驚きはします。
ですが、私の瞳のこともあるので、そういったものがあると聞けば、納得できる気がします……たぶんですが。
「……そこに気づいたか。でも、こっちはそこまでだよ。不壊ってほどではないけど、壊れにくくしたような感じかな。……俺たち以外が壊そうとしたなら、相当な衝撃が必要になるはず」
「……朔也くん、隠さなくなってきましたね」
「もう、今更だろ。いつか、効果自体も見せるよ」
「それは、見てみたい気持ちがあります」
予想はしていたので、衝撃というほどではありませんが……朔也くんの言葉を使うなら、『摩訶不思議』な何かがこの世にはあるのですね。
……非常に気になります。
朔也くんは何も言わず、ただ悪戯っぽく笑って、私の頭をぽんと撫でました。
プロットの段階でわかっていたけど……お互いの気持ちが重いw
2026.08.21 15:00 ごろ、追加補足
コメントで「婚約!」って皆さんが反応しているから補足を……。
右手なのでただのペアリングです……ごめんなさい。
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