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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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SS 舘山 恵美:ジム

 私は定期的に、マンションの設備のジムへ行く。気候に関係なく、いつでも使えるので便利なのよ。

 最近、そこで顔見知りが増えた。うちの隣に住んでいる朔也くんと、その彼女の瀬那ちゃんの二人。


 朔也くんは、最初は見た目で少し距離を置こうと思っていたのだけど、恵麻が物怖じせずに話しかけているのを見ていたら、不良どころか好青年なのがわかって驚いたわ。


 瀬那ちゃんは、最近の子にしては随分と礼儀正しく、所作も綺麗で可愛らしい女の子。恵麻も懐いていて、うちの子も彼女のように育ってくれたら嬉しいと思うぐらい。


 二人から付き合っているとは聞いていないけど……付き合っているのよね、きっと。

 瀬那ちゃんがどこに住んでいるのかは知らない。以前、朔也くんが「友達にシャワーを貸していた」と言っていたから、少なくとも最初は別のところに住んでいたはずなのよね。


 それなのに、最近はよく朔也くんの家から出てくる。

 ……やっぱり、付き合っているのよね?


 そんな彼女が今日は一人でトレーニングしていたので、近づいて話しかけた。


「こんにちは、瀬那ちゃん。……今日は一人?」

「あ、恵美さん、こんにちは!」


 瀬那ちゃんは、どこの誰だかわからない男性に話しかけられ、迷惑そうにしていた。

 ところが私が声をかけると、さっきまでの無表情が嘘のように、ぱあっと花が咲いたような笑顔をこちらへ向けてくれる。


 私に助けを求めていることが伝わるよう、わざとわかりやすく笑ったのだろう。

 それにしても、この笑顔は女の私でもイチコロになりそうな破壊力があるわ。


 ……朔也くんも、この笑顔にやられたんじゃないかしら。


 私が話しかけたことで気まずくなったのだろうか、男性はそそくさとジムから出ていった。


「改めて、助かりました。ありがとうございます」

「いいわよ。私は挨拶しただけなんだから。それにしても、わざわざここでナンパしなくても」

「本当にそうですね……困ったものです」


 ジムでナンパをする人はいるらしいけど、マンションに備え付けられたジムでやるのは、さすがにどうかと思うわ。

 相手もここの住人なのはわかりきっているのだから、問題を起こして困るのは自分なのに。


「そういえば、いつも一緒にいるのに朔也くんはどうしたの?」

「今日は制作があるからって、早めに上がっていました。……その後、すぐにあの人が来ましたね」

「えぇ……」


 どう見ても彼氏がいるのにナンパしていたの……。

 瀬那ちゃんに声をかけたくなる気持ちはわからなくもないけど……。


 そのまま、お互いに好きなようにトレーニングを始めた。

 私も瀬那ちゃんも筋肉質になりたいわけではなく、身体のラインを整える程度のトレーニングが目的だ。

 だから高負荷ではなく、低負荷で適度に身体を動かしている。

 ……これで合っているのかは、よくわかっていないけど。


 しばらくして、予定していたメニューを終えたらしい瀬那ちゃんがこちらへ歩いてきた。


「恵美さん、私は終わりましたので失礼しますね」

「はーい、お疲れさまー」


 軽く挨拶をして、瀬那ちゃんはジムから出ていった。


 その後ろ姿を見るたびに思う。

 背はともかく、相変わらずプロポーションが良いわよね、あの子。


 ◇


 瀬那ちゃんがナンパされていた日から数日後。

 今日も私はジムへ向かった。


 中へ入ると、息の荒い男たちの声が聞こえてきた。


「兄ちゃん! まだいける! あと三回!」

「いや、俺は別に筋肉つけたいわけじゃ……」

「一! 二! あと一回!」

「話聞けよ!」


 一人はわからないが、もう一人は聞き覚えのある男の子の声。

 ……朔也くんだ。


 気になってそちらを見ると、いかにも鍛えていますと言わんばかりの筋骨隆々の男性が、腹筋をしている朔也くんの横に立っていた。

 少し前傾姿勢になり、両手で某熱血漢なテニス選手がやりそうなガッツポーズまでしている。


(……何しているのかしら?)


 気になってしまった私は、トレーニング用のマシンに隠れるようにしながら、その様子を観察することにした。


 予定していた回数が終わったのか、朔也くんは腹筋ベンチから降りて、次の空いているマシンへ向かった。

 ……それに続く筋骨隆々の男。


「なんでついてくるんだよ?」

「気にするな。俺もこちらに用がある」

「……」


 見え透いた嘘をつく男性を怪しそうに見ながら、朔也くんは今度は腕を鍛えるマシンへ座る。


「……」

「……」


 横には先ほどの男性が立ち、設定された重りをじっと見ていた。

 朔也くんは重さを調整し、二、三回動かして確認した後、一度水分を取って汗を拭った。


「兄ちゃん、その体格ならもっと重くできるだろ!」

「いや、できるかどうかじゃなくて、重くする必要がないんですけど」

「もったいない!」

「何が!?」


 まだ何か言っている筋肉男を、朔也くんは「やれやれ」と言わんばかりの仕草で無視し、そのままトレーニングを始めた。

 それでも男は横から何か言い続けていたが、朔也くんが完全に無視しているうちに、次第に静かになっていった。


 ギシ……ギシ……ギシ……。


 二十回ほど動かしたところで、朔也くんが一度手を止める。

 それを見ていた筋肉男は「ふむ」と頷いた。


「すみませんが、ここにいないでください」

「……やっぱり、もう二目盛りは上げるべきではないか!?」

「無視かよ!」


 この間の瀬那ちゃんといい……。

 このカップル、別々に来ると何かしら知らない男に絡まれる呪いでもあるのかしら。……二人が揃っている時は、お互いが抑止力になっているのかもしれないわね。


 そんなやり取りを何度か繰り返した後、筋肉男は急にスマホを確認した。


「しまった! あれの時間じゃないか!」


 何の時間かは知らないけど、そう叫ぶと早足でジムを出ていった。

 男性が完全にいなくなったのを確認してから、私は朔也くんの近くまで歩いていく。


「お疲れさま、朔也くん。……さっきの人、知り合い?」

「あ、恵美さん。見ていたんですか……。今日、初めて会いました」

「えぇ……」


 初対面で、あそこまで話しかけることなんてそうそうないと思う。


 あの筋肉男は、朔也くんの何に反応して構い始めたのだろうか。

 言うかどうか悩んだけど……でも、やっぱり言ってしまいたい。


「あなたたちカップルって、ここでナンパに遭う運命でもあるのかしら」

「……どういうことですか?」

「あれ、聞いていないの? この間、瀬那ちゃんもナンパされていたわよ」


 朔也くんの動きが、ぴたりと止まった。


「……そうですか。恵美さん、ありがとうございます。ちょっと用事を思い出したので帰ります」


 あら。いらないことを言ってしまったかも。

 「しまった」と思う気持ちもあるけど……まあ、大したことにはならないわよね。


「私が話しかけたら、すぐに退散したから。あまり瀬那ちゃんを問い詰めないであげてね」

「なんのことかわかりませんが、わかりました。それでは、また」

「はい、またね」


 ……今の返事、絶対わかっている人の返事よね?


 瀬那ちゃんが悪いわけじゃないことぐらい、朔也くんもわかっているでしょうし……大事にはならないでしょ。


 たぶん。……きっとね。


 ◇◇◇◇◇


「瀬那。この前、ジムでナンパされたんだって?」

「……恵美さんですね!? もう、言わなくて良いのに……」

「別に瀬那が悪いとは言ってないだろ」


 瀬那が言う通り、朔也は少し顔をしかめていた。


「それなら、その怖い顔をやめてください」

「……そんな顔してるか?」

「しています」


 朔也は自分の顔をペタペタと触っている。

 それを見た瀬那は、呆れたようにため息をついた後、少しだけ頬を膨らませた。


「それに、ちゃんと断りましたよ」

「それは心配していないけど……気を付けてな」

「はいはい」


 気の抜けた返事をしながらも、瀬那の口元は少しだけ緩んでいた。




 ― 舘山 恵美:ジム 完 ―



 ――――――――――――


補足すると、


舘山親子 → 瀬那が朔也と住んでいることを知らない。

瀬那 → お隣さんなので、すでにバレていると思っている。

朔也 → 今はばれていないが、ばれるまで話す必要はないと思っている。


と言う関係性です。


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