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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第1話 朔也くんは平穏に過ごしたい

 何事もなく一日が終わるなら、それで十分だと思っていた。

 あの日から他人は信じられないし、友達なんて作るつもりもない。


 地元から離れた黄隆こうりゅう学園高等学校に入学して、一ヶ月が経とうとしていた。一人暮らしや授業にも慣れつつ、東條とうじょう朔也さくやとしての立ち位置にも、ある程度は馴染んできたと思う。


「ひそひそひそ……」


 登校して廊下を歩けば、同級生や先輩から遠巻きに見られ、囁かれる。人によっては、あからさまに道を開けられることもあるくらいだ。

 進学校であるこの学園に、暴力を振るうような典型的な不良はいない。無駄に暴れるような連中もいない。

 ——だからこそ、俺は余計に浮く。もちろん悪い意味で。


 メガネ越しでも分かる目つきの悪さに加え、左耳に五つ、右耳に四つのピアス。どう見ても近寄るなオーラ全開だ。

 ……まあ、外見だけなら完全に不良だろう。


 廊下ですれ違う一年生が、俺のジャラつく耳元を一瞥して、ひきつった笑顔で視線を逸らす。二、三歩通り過ぎてから「……あれ、絶対ヤバいよね」という小声が背中に刺さった。

 そんな周囲の反応を、どこか冷めた心地で受け止めている自分がいる。

 中身? ただの人見知りの陰キャだ。


(あと、目つきが悪いのは、単に目が悪いだけなんだけどな)


 内心でツッコミを入れつつも、わざとやっていることなので反応は想定通りだ。


(他人と関わりたくないからやっている、これでいい)


 ——本当は、それでよかったはずなのに。


 教室に入ると何人かがこちらを見て、少し気まずそうに目をそらす。クラスメイトは俺に慣れてきたのか、廊下ほど露骨に気にするやつはいない。

 ただ、今日はいつもより騒がしい感じがした。


「あの人がまた告白されたらしいよ」

「えー、まじで?入学してから一ヶ月ぐらいなのに何人目よ」


 誰のことかは分からないが、告白イベントがあったらしい。

 あまり興味がないので聞き流しながら席に着くと、こちらに近づいてくるやつがいた。


「おはよう! 相変わらず耳がジャラジャラしているな!」

「……」


 近づいてきたのは前川浩紀(ひろき)。この学園で俺に話しかけてくる数少ない生徒――つまり友人だ。

 そう、ぼっちを貫く俺の覚悟を、入学式の当日に砕いた奴だ。人当たりも良く、友達も多い陽キャなこいつが、あの時なぜ話しかけてきたのか未だに分からない。


「な、なんだよ?」

「……いや、べつに。おはよう浩紀」


 覚悟を砕かれた無念を思い出し、少し睨みつけてしまう。

 だが浩紀は気にした様子もなく、そのままテンションを上げて話し始めた。


「例のあの人がまた告白されたらしいぞ!」

「例のあの人って、ヴォル〇モートじゃないんだから……さっきもそんなこと言ってたヤツがいたな。誰の事?」

南雲(なぐも)さんだよ! 南雲さん! 今度は 3年生の先輩らしいぞ!」

「あぁ南雲か。先週もそんなこと言っていたけど、昨日もか」

「それを言ったら一昨日もだよ」

「まじか、すげーな」


 話に挙がっている南雲とは、南雲 瀬那せなと言う名の同級生の女の子。

 金色を帯びた亜麻色の髪。眉目秀麗。

 一見すると日本人離れした容姿だが、生粋の日本人らしい。

 スタイルも良く、アイドルやモデルにスカウトされているんじゃないかという噂まである。

 俺とは住む世界が違う人だな。


「ちなみにその三年生はバスケ部のキャプテンらしい。顔も結構良いってさ。見たことないけど」

「見たことないのかよ」

「バスケ部じゃないからわからん!」


 と、悪びれもなく言い切った。浩紀らしい。

 バスケ部と言えば、クラスに浩紀のほかに数少ない友人もバスケ部なのを思い出した。まだ席にはいないようだな、と確認すると、ちょうどよく朝練から戻ってきたのか、教室に入ってきた。

 目が合うとそのままこちらに歩いてきた。


「おはよう二人とも。何かあった?」

「おはよう、和人かずと。浩紀がバスケ部のキャプテンが格好いいと言うから、気になってな」

「おはよう、和人。そしてどうよ?」

「あはは……」


 森田 和人。

 身長は180を超え、爽やかなイケメン。

 そして性格も良いときたら、もちろん女子に人気も高い。

 俺は和人とA組の同級生を、密かに「学年の二大イケメン」と呼んでいる。


「昨日、結構へこんでたから、あまり言わないでやってくれ」

 

 和人は苦笑しながら、部活での出来事を話してくれた。

 女子の視線を独占する爽やかイケメンと、遠巻きにされる俺。共通点なんて一つもなさそうなのに、こうして気さくに接してくれる彼の懐の深さには、時々気まずさすら覚える。


 どういう人なのか話を聞くと、リーダーシップもあり多少熱苦しいところがあるが、同級生や後輩からも信頼が厚いらしい。

 ちなみに顔は「ザ・スポーツマン!」って感じらしい。どんなだよ、それ。

 バスケの実力も相当で、プロになるんじゃないかという噂まであるらしい。今までバスケ一筋だったので恋人はいなかった。そんな人が急に告白とは、何かあったのだろうか。

 そう思っていると、同じことを考えたのか浩紀が口を開いた。


「そんな人がまた告白なんて、思い切ったことしたんだなー。何かきっかけがあったんかね」

「あ……まあ、そうなんじゃないかな」


 歯切れが悪い感じで和人が答えたので、言いづらいことがあるのだと察する。言いづらいことって何だよ、と余計に気になってしまうのは人間の(さが)か。

 人の良い和人が、人のことをあれこれ無断で話さないだろう。そもそもそこまで興味ないので、スルーしていると……


「告白したバスケ部の部長、一目惚れだったらしいよ!」

「へぇー、何で知ってるのさ」

「バスケ部の友達から聞いたんよ。練習前にそう話しているのを聞いたって。しかも、本当は連絡先を聞こうとして、勢いで告白したらしいよ」


 近くの女子の会話が耳に入ってきた。やらかした感じか……。隣では、同じく聞こえていたであろう浩紀と和人が苦笑いしている。


「仲良くなる前に告白してもそりゃだめだわな」

「はは……まあ、そういう事だからあまり噂しないであげてね」

「わかった」

「りょーかい」


 誰かに話すつもりもないし、そもそも話す相手もいない。

 和人の頼みに素直にうなずく。

 ……まあ、ここまで広まっている時点で、俺一人が黙っていても変わらないだろうけど。


 少し雑談をしていると、ホームルームの時間になり担任の三波みなみ先生が入ってきた。若い女の先生で、良い意味で少し天然。進学校の教師らしくないゆるさだが、なぜかクラスには妙に馴染んでいる。


「おはようございます~、皆さん。朝のホームルームを始めますね~。連絡事項ですが、実力テストの返却が始まります。また、成績上位を廊下に張り出しますので、気になる人は見てみてくださいね~」


 入学直後にあった実力テストの話に、教室がざわついた。この学校では上位五十位までが張り出されるらしい。とはいえ、大半は特進クラスの名前で埋まると聞いている。まあ、そのためのクラスなんだろう。


 ◇


 ホームルームが終わり休み時間になると、廊下が騒がしくなった。どうやらホームルーム中に順位が張り出されたらしく、皆が見に行っているようだ。


 「すげー!」「あ、名前あった!」そんな声に混じって、

 「嘘だ!」「ありえない!」という叫びまで聞こえてくる。

 ……どういうことだ?「ありえない」って、順位でそんな反応あるか?


 気になる。でも人が多そうで行きづらい。


「何か騒がしいな。面白そうだし見に行こうぜ、朔也!」


 人の気持ちを知ってか知らずか、浩紀が誘ってくる。

 うーん、悩む。悩むが――好奇心に勝てない。


「しゃーない。一人じゃ寂しそうだからついて行ってやろう」

「なんでいきなり上から目線なの!?」


 ……なんだかんだ、こういうやり取りは嫌いじゃない。

 ぼっち宣言はどこへ行った、って感じだけどな。


 廊下に出ると、いかにも勉強ができそうなメガネの男子が頭をかいていた。「嘘だろ……」と小さく呟いている。


 ……たぶん、さっきの発言の主だな。名前も知らないし初対面なので、そのままスルーする。

 そんなことを考えていると、隣の浩紀が近くの女子に話しかけた。


「どったの?なんか騒がしいけど」

「え?」


 振り返った女子は、俺を見て少し驚いたが、すぐに浩紀へ向き直る。


「順位を見てみて!」


 妙にテンションの高い声に促され、順位表へ目を向けると――


 1位 1-A(総合進学) 南雲 瀬那   498点

 2位 1-S(特進)   榊原 恒一   475点

 3位 1-S(特進)   鷹司 綾音   473点


「まじか……」

「ほぼ満点じゃん……」


「すごいよね! 特進クラスに勝っちゃったんだよ! それに驚いて、あの人が叫んでたの!」


 指差された先には、さっきのメガネの男子。反応からして特進の生徒らしい。


「確かあの人、新入生代表の挨拶してた人だよ。主席入学だったはず」

「なるほど。それが入学早々に抜かれて、ああなったと」

「しかも二十点以上差があるからね」


 入学直後の実力テスト。勉強量の差がほとんど出ないタイミングでこの点差は――きついだろうな。順位に興味が薄い俺でも、ショックの大きさくらいは想像できた。

 そんなことを考えていると、再び周囲がざわつき始める。


 視線の先には――


 金色を帯びた亜麻色の髪の少女が、順位表へ歩いてきていた。

 ただ、それだけの光景のはずなのに、絵になるのはなぜだろうか。


 順位表の前で立ち止まった彼女を眺めていると、

 ふと、一瞬目が合い――


 ――なぜか、こちらに微笑んだ。


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