第165話 期末テストの結果
楽しい旅行の計画を立てつつ、いつも通り浩紀と愛莉のための勉強会を経て、期末テストが終わった。
勉強会については、図書館でやらないかと提案したのだが、ほぼ全員から却下されたため、会場は今回も俺の家だった。
……まあ、仕方ないか。
テストが終わった次の日。
学校へ行き廊下を歩いていると、いつもより騒がしかった。
今回のランキングは登校前に貼り出されるらしいので、その影響だろう。
俺も瀬那も手応えはあったので、順位にそこまで大きな変動はないはずだ。
そう思いながら掲示場所まで移動すると、やたらとこちらを見る人が多いことに気づいた。
瀬那が一位なのはいつも通りだろうに。
俺たちは、その視線に促されるようにランキングを見る。
「あっ」
……二位?
もう一度、順位表に視線を戻す。何度見返しても、そこにある名前は変わらなかった。
1位 1-A(総合進学) 南雲 瀬那 995点
2位 1-D(総合進学) 東條 朔也 988点
3位 1-S(特進) 榊原 恒一 976点
4位 1-S(特進) 鷹司 綾音 969点
5位 1-S(特進) 白鳥 琴音 943点
「朔也くん! やりましたね!」
「……これは目立つわけだ」
順位に大きな変動はないと思っていたが……二位か。
確かに瀬那に教えてもらったこともあって手応えはあったし、良い点数は取れると思っていた。
だけど、ここまでいくとは思いもしなかった。
「な、なんでだー!」
叫び声の方を見ると、久しぶりに見る榊原がいた。
入学当初から、一位は瀬那、二位は榊原という不動の状態だったのが、これで崩れたことになるのか。
そういえば、最初の実力テストでも彼は叫んでいた記憶がある。
今回は俺のせいなのかもしれない。
一切悪いことはしていないが、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
とはいえ、点数は上がっているなら、彼もちゃんと勉強しているのだろう。
……彼の点数なんて覚えていないが。
「私たちのワン・ツーフィニッシュですね」
「だな。瀬那と付き合い始めて成績を落とすどころか、逆に上げたんだ。これなら誰にも文句は言わせない」
「はい、今日はお祝いしましょう! とっておきのアレを出しますか」
「アレか……いいな!」
今日の夕飯はアレに決まったわけだ。
楽しみで仕方ない!
クラスへ入ると、何人かのクラスメイトから称賛をもらった。
文化祭の時に瀬那に言われた通り、無理のない程度にクラスメイトとの交流を増やしている。
もともと仲の良かった浩紀や和人、雫たちが間に入ってくれたお陰もある。
いじめの件をきっかけに関わらなくなった奴らもいるが、それはそれで仕方ない。
ただ、邪険にされているわけではなく、どう接したらいいのかわからないまま時間だけが過ぎた、という感じだ。
そういうクラスメイトがいてもおかしくはないし、最悪、敵対さえしなければ問題も出てこないだろう。
「次は南雲さんを追い抜く番だな!」
登校してきた浩紀が、興奮気味に早足でこちらへやってきた。
人の成績でそこまで興奮する必要はないだろうに。
「瀬那を抜くのは相当頑張らないといけないからなー。あいつの努力を知っていると、簡単にはできそうにないんだよな」
「俺としては、南雲さんに勝つ奴がいるとしたら、朔也であってほしいぞ。あと腐れなさそうだし。南雲さんは何か言ってたか?」
「俺に追い抜かれる云々は言っていないな。単におめでとうって感じで……今日の夕飯が少し豪華になるぐらいだ」
そう、アレを出すわけだ。
マジで楽しみだ!
「夕飯でお祝いの時点で、おかしいカップルだよな。うーん、南雲さん的には朔也に追い抜かれても別にいいのかな。気になる!」
「瀬那なら逆に喜びそうだよね!」
続いて現れたのは、雫と斎藤だ。
部活の朝練から戻ってきたらしく、二人とも若干頬が赤くなっている。
「東條くんに負けるなら、納得しそうだよね」
「あー、それもありそうだが……表面上はそうでも、内心では悔しがりそうな気がしてる」
「そうなの?」
「あいつなら、そうだと思う」
なんだかんだ、負けず嫌いだからな、あいつは。
下手したら、今回の結果が十点差以内だったことも少し気にしているかもしれない。
◇
次の日の昼休み、いつも通りみんなで食堂へ向かった。
この時点でいくつかのテストは返却されているわけだが、みんなの成績も中間テストに比べたら上がっているらしい。
勉強会をした甲斐があったってものだ。
浩紀の母親と、その彼女経由ではあるが愛莉の母親からもお礼を言われた以上、ちゃんと効果が出ていて良かったと思う。
エレノアがメニューアプリを見ながらそわそわしている時だった。
向こうから見知った顔が近づいてきた。
……鷹司だ。
「こんにちは、東條くん、南雲さん」
「ああ、こんにちは。どうかしたか……?」
「ううん、今回のランキングのこと、おめでとうって言いたくて!」
文化祭の手伝いの件以来、鷹司とは普通に友人関係が続いている。
特進の生徒では、唯一と言っていいぐらいだ。
瀬那も彼女に関しては、『アーヴェル司書』関連以外なら特に気にした様子はない。
「じゃあ、またね!」
カサッ。
振り返ったその時、鷹司が食券を落としたので拾ってやる。
「ほれ、落としたぞ」
「あ、ありがとう!」
ガシッ!
鷹司が両手で、食券ごと俺の手を握った。
その瞬間、横から冷たい空気を感じ……気温が数度下がった気がする。
「ちょ、鷹司、何を――(ん?)」
「ごめんね、ありがとうです!」
そう言って、鷹司は手を離し、どこかへ行ってしまった。
「……朔也くん」
「俺、悪くなくないか!?」
残された俺は、瀬那の嫉妬と、友人たちからの白い目を甘んじて受けるしかなかった。
それにしても、鷹司のあの行動はなんだったのだろうか……。
「サクヤはガードが甘いです。それだと、セナが嫉妬の炎で燃えてしまいます」
「そ、そこまで嫉妬してませんよ!」
エレノアのお陰で、瀬那の怒りは霧散したようだ。
……助かった。
「鷹司さん……は、よくわからんから置いておいて。話は変わるけどさ、終業式の次の日ってみんな用事ある?」
「終業式の次の日……ああ、クリスマスだね」
空気を読んでくれたのか、浩紀が話題を変えてくれた。
和人もそれに続いて答える。
「愛莉と話したんだけど、もしよかったらさ、みんなでパーティーしないか? 朔也の家で」
「……おい、聞いてないぞ」
前言撤回。
こいつ、自分の欲望のために話を変えやがった。
「今、言ったろ。クリスマスイブって恋人同士で過ごすイメージあるけど、本番は家族で過ごすって感じもあるじゃん。この歳だと家族でって感じでもないし、俺の家も愛莉の家も特にやらないからさ……ぶっちゃけ、暇なんよ」
「暇って……まあ、俺と瀬那もどこかに行く予定はなかったけど……瀬那は大丈夫か?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
クリスマスイブ……つまり終業式の日は、夕食を食べに行く予定で、すでに店も予約している。だが、クリスマス当日は特に予定はない。
二十四日に出かけるなら、二十五日は家でまったり過ごそうということになったのだ。外が混むのは目に見えているしな。
最初は、イブを避けて二十五日にデートするのもありかという話もしていた。
だが、瀬那が「せっかくなら、クリスマスイブに二人で過ごしたいです」と言ったので、結局そのまま二十四日にしたのだ。
「オッケー。カズエレコンビはどうだ?」
「まとめるなよ……。俺は大丈夫だけど」
「……気になったのですが、日本ではクリスマスイブは恋人同士のイベントなの?」
「へ?」
浩紀の間抜けな反応はともかく、「日本では」ときたか。
「ということは、ノルウェーだと違うんだ?」
同じことを考えたのか、愛莉がエレノアに訊いた。
「イエス。ノルウェーだと、二十四日がクリスマスの本番ね。家族と一緒に過ごすよ。二十五日も家族と静かに過ごすね」
「へー、そうなんだ。それだと、二十五日は無理そう? 別の日にしよっか?」
「ノープロブレム! どっちの日もファミリーはいないの。二日ともカズトに構ってもらう予定だったのよ」
「聞いてないけど!?」
こういうところで外国とのカルチャーギャップを感じるのは、面白いものだ。
そういう意味でも、エレノアと仲良くなったのは良かったと思える。
「よし、それじゃあ二十五日で決定な! せっかくだから、プレゼント交換もしようぜ! 二、三千円ぐらいでさ!」
とんとん拍子に予定が決まった。
今年のクリスマスは、瀬那と過ごせるだけでも去年とは大分違う。それなのに、さらに賑やかになりそうだ。楽しみでもあり、不安もある。
みんなの笑い声が遠くに聞こえる中、俺は一瞬だけ、表情を消した。
……それにしても、これはなんなんだろうな。
俺は、みんなに気づかれないようポケットへしまった紙の感触を、指先で確かめた。
ノルウェー事情は、調べた限りの情報です。
もし間違っていたら申し訳ありません。
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