第161話 中央図書館へ
瀬那の方の三者面談も無事に終わったらしい。
ただ、
『変に疲れました……。これなら二者面談の方が良かったかもです』
と、瀬那が非常に疲れていたのが印象的だった。
何をしたのだろうか、相馬さんは……。
そんなことはありつつ、他の奴らも少しずつ面談をしているらしい。ただ、まだ一年なので、そこまで踏み込んだ話はしないだろう。俺と同じく、成績や学校での態度についてぐらいだと思っている。
「……げっ! 朔也!」
「『げっ!』とはなんだ、『げっ!』とは……」
明日の件で開かれた委員会の集まりが終わったあと、俺と瀬那が廊下を歩いていると、出会い頭に失礼な態度を取られた。
……浩紀だ。
その横には大人の女性もいた。雰囲気が似ているし、今日が三者面談だと言っていたから、母親だろうな。
「こら、浩紀。友達に何言ってるの!……キミが例の朔也くん?」
「(……例の?)はい、そうですが……っ!」
少し警戒しながら肯定すると、「ガシッ!」と浩紀母(予想)に手を掴まれた。
「ほんっっっっとうに、ありがとう! 浩紀に勉強を教えてくれたんだって? 成績が上がってて助かったわ!」
「え!? は、はぁ……少しは教えましたが、浩紀が頑張った結果だと思いますけど……」
「いんや、そんなことはない! こいつと……あと愛莉が無事に過ごせてるのも、キミと……瀬那ちゃんだっけ? あなたたちのお陰よ!」
彼女は瀬那の方へ向き直り、瀬那にもお礼を言っていた。
「瀬那ちゃんも、いつも二人のこと見てくれてありがとうね」
急に話を振られたからか、瀬那がびくっと小さく反応したのが、つないだ手から伝わってきた。
「さ、朔也くんの言う通り、お二人が努力した結果だと思いますよ」
「二人とも謙遜するのね。かよちゃん……愛莉のお母さんも感謝してたわよ」
「はぁ……」
浩紀と愛莉が幼馴染なのだから、母親同士も昔から付き合いがあるのだろう。この感じだと、関係も良さそうだ。
「ほら、浩紀もお礼言いなさい!」
「いつも言ってるってば! うわぁ……だから二人には会わせたくなかったんだよ……」
さっきの「げっ!」は、このことか。
親を友人に紹介するのが恥ずかしいという気持ちは理解できる。しかも、友人の前でここまで子供扱いされたら、そりゃ会わせたくもないよな。
「俺たちも浩紀たちには助けてもらっているので、お互い様です」
「そう? うちの子が何か助けることなんてあるのかしら……?」
こいつらとの友達としての付き合いは、俺にとってとても助かっている。
この場では、色んな意味で言いづらいが。
「もう、母さんはいいからさ! ほら、行こう! 二人もまた来週な!」
「ちょ、ちょっと、まだ話が……」
「おう……またな」
浩紀は母親の背中を無理やり押して、その場を去っていった。
「前川さんのお母様らしい方でしたね」
「似たもの親子だな」
俺たちは、二人の背中が廊下の角へ消えるまで見送った。
「……前川さんって、家だとあんな感じなんですね」
「今度、本人に言ってやるか」
「やめてあげてください」
◇◇◇◇◇
次の日。
土曜日だが、俺と瀬那は制服に着替え、電車に乗っている。
今日が登校日というわけではない。そもそも学校へ行くなら、電車に乗る必要がない。
十一月の頭に作成したブックガイドが中央図書館に展示された件で、図書室の司書から提案があった。
『せっかくなので見に行きましょう!』
放課後に行くには少し遠いので、わざわざ休日の土曜日に有志を募って行くことになったわけだ。
正直、俺は遠慮したかったのだが、司書に「東條くんは強制だから」と連行された。
……解せぬ。
何が悲しくて、休日まで学校関連の用事に強制参加なのだろうか。
ちなみに瀬那は強制ではなかったが、「朔也くんが行くなら私も行きますよ」と、一緒に来ることになった。唯一の救いだ。
集合場所の駅で降りると、すでに司書と委員長をはじめ、図書委員のメンバーが集まっていた。
ブックガイドの作成を手伝ってくれた人が四人、それ以外にも三人来ている。俺と瀬那、それに司書を合わせて計十人だ。
「すみません、遅れました」
「大丈夫よー。まだ集合時間じゃないでしょ」
時計を見ると、確かに集合時間の五分前だった。
ただ、なんとなく最後に到着するのって気持ち悪いんだよな……。
「よし、全員そろったことだし、行きましょうか!」
無駄に元気な司書が号令をかけ、一行は歩き出した。
図書館までは駅から歩いて十分ほどかかるので、みんなで雑談しながら向かうことになった。
「南雲さんと東條くんの二人は、今日も一緒で仲がいいねー。羨ましいよー」
話しかけてきたのは、二年生の女子の先輩。
今回のブックガイドに載せた書籍の紹介文を、率先して作ってくれた人だ。
瀬那には最初からよく絡んでいたのだが、瀬那と付き合ってからは俺にも絡んでくるようになった。
最初は警戒していたのだが、特に裏があるような感じはしない。
「家が近いので、いつも一緒に来ているんです」
「それもいいよね! 同じマンションなんでしょ? それぞれの家に行き放題だ!」
「そうですね」
「いいねー、いいねー!」
先輩は満足そうに何度も頷く。
人の恋路なり恋愛話なりが好きな人は、どの世代にも一定数いるものらしい。
俺たちもこれぐらいのからかいなら慣れたものだ。特にこの先輩には悪意がないので、こちらも負担が少ない。
「そういえば、二人って本の貸し借りもするの?」
「そうですね。朔也くんの家の本棚から選んでもらうこともありますよ」
瀬那は懐かしむように、少し目を細めた。
「へえー。東條くんが南雲さんに本を選ぶんだ。どんなの?」
「その時に瀬那が読みたそうなものをテキトーにです」
たまに自分の好みのものを押しつけることはあるが、瀬那の好きそうなジャンルもわかってきているので、それなりに適切なものを選べていると思う。
「テキトーと言いながら、いつも面白い本を選んでくれるんですよ」
「おお、惚気だ!」
「事実を言っただけです」
瀬那は何でもないことのように答えているが、先輩は楽しそうに笑っていた。
「じゃあ、今度は私にも選んでよ。今回のブックガイドで、東條くんの選んだ本も気になってたんだよね」
「先輩の好みを知らないので、まずはそこからですね」
「おっ、断らないんだ。優しいじゃん」
からかうような視線を向けられ、少し居心地が悪い。
「本を選ぶぐらいなら別に」
そんな話をしているうちに、図書館へ到着した。
自宅近くにも図書館はあるが、その三倍ぐらいの大きさだ。
「結構、大きいですね」
「なんか、県内で一、二を争うぐらいの大きさらしいよ」
「へー」
委員会のメンバーが話しているのが聞こえてくる。
「それでは、入りましょうか」
そして、司書の号令とともに図書館へ入った。




