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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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幕間 梅沢の誤算

 バタッ!


 私は鞄を投げ捨て、部屋のベッドの上に倒れ込んだ。

 ここ数日、何もかも上手くいかないのが悔しくて、泣きそうだ。


 文化祭で出会った、鳴鷹さん。

 彼女から東條の中学時代のことを教えてもらい、それを利用して彼を貶める作戦を考えたのはいいけれど、まったくと言っていいほど効果がなかった。


 私の予定では、過去のことが広まれば、みんな東條の情けない本性を知るはずだった。

 それに、同級生相手に弁護士を立てるような恐ろしい奴だとわかれば、周りは東條から離れ、最後には孤立するはずだった。


 東條の彼女である南雲も、文化祭の時には気にしていない様子だったけど……そんな過去があることを周りに知られれば、情けない奴が彼氏なんて恥ずかしくなって、距離を置くはずだった。


「それが、まったくと言っていいほど何も変わらなかった」


 いつも通り一緒に登下校をして、昼食を一緒に取るのも変わらない。

 それに加え、隙を見た男子が南雲を横取りしようと告白しても、すべて一蹴していた。

 しかも、東條のことで悪意のあることを言った相手を、冷静な声で説き伏せているところまで見てしまった。


「あれは、少し遠くから見ていた私でも、ちょっと怖かった……」


 そこまでするくらい、東條に惚れているのがわかった。

 やっぱり、彼女は和人くんのことを恋愛方面では何も思っていない。

 もしかして、私が最初から間違えて――


 頭の奥で、小さくノイズが走った。


『南雲瀬那は敵よ』

「痛っ!」


 急に頭が痛くなり、私は床へ投げ捨てた鞄を引き寄せた。

 中に入っているペットボトルのジュースを取り出し、すぐに一口飲む。ついでにしまっておいたスマホもベッドへ放る。


 今のはなんだったのだろうか。

 ……あれ、私、何を考えていたんだっけ?


 どうしてか、頭が痛むと、なにかを飲まなければならない気がした。

 もう一口飲むと、締めつけられていた頭が少しずつ楽になっていく。


 ……味が、以前と少し違うかも。


「まあいいわ。それに、和人くんも和人くんよ。前川はどうでもいいけど、クラスメイト相手に弁護士を立てるような奴を、なんで庇うの!」


 和人くんが、同級生や先輩から東條のことを聞かれているのを見たことがある。

 ただの世間話なら何もなかったけど、いじめの件をネタにして笑い話にした瞬間、彼は表情を変えた。


 ……文字通り、空気が変わった。


「あの表情は、あの時、私に見せたものよりも怖かった……」


 明らかに雰囲気が変わったことに気づいたのか、話しかけた人たちは平謝りし、その場から逃げ出していった。


「それに、柊先輩に天童くん……あの演説は……」


 噂を広めた私を、糾弾しているように聞こえた。

 まるで、私を悪者にしているみたいだった。


 悪いのは、東條なのに!


「どうせ、東條に丸め込まれたに違いない!」


 柊先輩も天童くんも、和人くんみたいに東條に騙されているんだ!

 そう、そのはず。


「それに……なんなのよ、婚約者って!」


 ボスッ!


 近くにあったクッションを壁へ投げつけた。

 けれど、軽いクッションは壁にぶつかると、何事もなかったように床へ落ちる。


「あり得ない。あり得ない、あり得ない……」


 そんなはずがない。

 和人くんに婚約者なんて、いるはずがない。


「あり得ないって言ってるでしょ!」


 もう一度クッションを拾い、壁へ叩きつける。

 何度投げても、何も壊れない。それが余計に腹立たしかった。


「ありえない……ありえない、ありえない……アリエナイ……」


 文化祭の時にも、その話は少し聞いていた。

 でも、みんなの聞き間違いか、何かの勘違いだと思っていた。


 ――違う。

 勘違いだと、思い込もうとしていた。


 鳴鷹さんから聞いた新しい情報に浮かれていたこともあり、私は信じようとしなかった。

 だって、和人くんは、今までそんな素振りを一度も見せなかったんだ。


 それに、文化祭で様子を見ていた友達は、「和人くんは困っていた」とも言っていた。今日だって、ずっと苦笑いをしていた。喜んでいなかった。

 だったら、あの女が勝手に言っているだけだ。


「そうよ……。あの話は、ウソニ、チガイナイ」


 もう一つ、嫌なことがある。

 東條を孤立させる予定だったのに、逆に親しい人間が増えているのが気に食わない。


 今日のエレノア(あの女)だってそうよ。

 初めから自然に和人くんのグループへ入り込んだ。そのせいで、結果的に東條と南雲の仲間まで増えたんだ。


「だから――」


 床に転がっているクッションを拾う。


「私が流した噂に、効果がなかったのも」


 両手で掴み、力いっぱい引っ張る。


「あの女が、婚約者を名乗っているのも」


 ミシミシと、クッションが悲鳴を上げている。


 南雲が東條のそばにいるから、和人くんまで東條から離れない。

 和人くんが東條たちと一緒にいるから、あの女まで同じ輪の中へ入り込んできた。


 だったら、全部の始まりは東條と南雲だ。


「あれもこれも……全部、東條と南雲が悪いのよ」


 耐え切れなくなったクッションの縫い目が裂け、中の綿が部屋に舞った。

 白い綿だけが、場違いなほど静かに宙を舞っていた。


 和人くんの前にあの女が現れたのも、南雲のせい。

 和人が私に振り向かないのも、東條のせい。

 カズトが嫌な思いをしているのも、全部あの二人のせい。


 床に落ちた白い綿を見下ろす。


 不思議だった。

 さっきまであれほど苦しかった胸が、嘘のように軽くなっている。


「そうよ……最初から、二人がいなければよかったのよ」


 口にすると、それは驚くほど自然な答えに思えた。

 その時、ベッドの上へ放り出していたスマホが震えた。


『まだ終わってないよ。次は、もっと上手くやろう』


 鳴鷹さんからだった。


「……そうよね」


 散らばった綿を踏みながらスマホを手に取った。足元の惨状には、もう何も感じない。部屋の中は、さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返っていた。

 暗くなった画面に、わずかに笑っている私の顔が映っていた。

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