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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第157話 時期外れな彼女②

 エレノアが転入してきた話は、昼休みを待たずに学園中へ一気に広まった。もちろん、『イケメン森田和人の婚約者』という装飾も含めてだ。


 どうでもいいが、この学校はどんな噂でも広まるのがめちゃくちゃ早い気がする。

 それだけゴシップネタに飢えているのだろうか。噂の当人は困るだけなのだけど。


 昼休み前の授業が終わり、移動教室から自分の教室へ戻る途中、廊下の端々でエレノアの噂をしているのが聞こえてきた。それを聞いた俺の感想が、これだ。


「これが学園七不思議の一つ。『噂を広めるスズメ』か」

「……朔也、何言っているんだ、お前」


 どうやら、考えていたしょうもないことが口から出ていたようだ。隣にいた浩紀に聞こえてしまったらしい。

 ……めっさ、恥ずかしい。


 ちなみに和人は、エレノアに連れられて早々と学食へ向かっている。俺と浩紀は、弁当を取りに教室へ向かっていたわけだ。


「学園七不思議ってなんだよ。気になるじゃないか! 他には何があんだよっ」


 無駄に食いついてきやがった。

 今テキトーに作っただけの一発ネタを引っ張らないでくれ……。マジで恥ずかしいから。


「……気にすんな。俺がテキトーに作っただけだ」

「いやいや、お前がそんなことをするはずがない! ずるいぞ! そんな面白いネタ、教えてくれよ!」

「そんな信頼はいらん!」


 俺が不用意に口にしたせいで、ここまで話を広げる浩紀。

 あーだこーだ言いつつ教室へ向かうと、瀬那と愛莉がすでに教室の前にいた。


「何を騒いでるの、二人とも」

「聞いてよ、愛莉! 朔也が『学園七不思議』のことを教えてくれないんだよ!」

「えー! 何それ! 知りたーい!」


 これまた面倒な奴に聞かれた。相乗効果で、四倍くらいうるさく感じる。


「お前、無駄に広めんなって……だから、俺がテキトーに妄想しただけのネタだっての。意味はねーよ」

「いや、嘘だ! 親友の俺に、なんで嘘つくんだよ!」

「……はぁ、駄目だこいつ。瀬那、先に行こうぜ」

「えっ!? は、はい」


 手に持っていた和人とエレノアの教科書やノートを、それぞれの机の上に置いた。

 そして、自分の鞄から弁当を取り出し、食堂へ行く準備をする。今日も瀬那が作ってくれた弁当だ。


「そういえば、エレノアさんが転入してきたと聞いたのですが、本当ですか?」

「本当だ。今日の和人は彼女に振り回されて大変そうだったな。今も彼女に連れられて、先に食堂へ向かっているよ」


 俺は、手に持っていたエレノアのノートと筆記用具を指さした。

 二人がそのまま食堂へ向かうというので、荷物を教室まで持ってきたのだ。……決して、テンションが高いエレノアから離れたかったわけじゃないぞ。


「本当だったのですね。それにしても、時期が中途半端なのは理由があったのでしょうか?」

「うーん、先生は家庭の事情とは言ってたなー」


 同じく準備をしていた浩紀が、瀬那の問いに答えた。

 俺としては「家庭の事情ねー」って気持ちだが、多分、和人に関係しているのではないかと考えている。


「まあ、人には色々と事情ってものがあるんだろ」

「そりゃそうか。とりあえず、これからさらに学校生活が面白くなりそうで、俺は嬉しいけどな!」

「そうね! エレノアにタジタジな和が見られるだけでも、私は……うふ」


 「イエーイ」とハイタッチしているこのカップルは、楽しければ何でもいいと思っている節がある。らしいっちゃらしいが、この件についてはクラスではやめておいた方がいいぞ。……女子の数名が肩を落としているじゃないか。少しは自重してほしいものだ。


 ◇


 食堂へ着くと、一角だけ人がはけている場所があった。

 その中心にいるのは、和人とエレノアの二人。多数の生徒が、遠巻きにその二人を見ている感じだ。


 少しその中に入るのを躊躇したが、浩紀と愛莉は気にせず入っていく。こういう時、この二人の度胸……というか、周囲を気にしない性格は羨ましいと思う。単に優先順位が違うのかもしれないけど。


 では、なぜみんなが遠巻きに見ているのかは……近くへ行かなくてもわかった。


「カズト、ランチ楽しみね!」

「あぁ……そうだね。ごめんだけど、少しだけ離れてくれないかな」

「ノー!」


 エレノアは、和人の腕をがっしりと抱え込んでいる。

 和人の腕が埋もれているほど、ぴったりと密着していた。

 事情を知らなければ、明らかにバカップルのそれである。


(確かにこれは、意味もなく二人に絡みに行くのはきついな……)


 たまに周りの様子を窺っているところを見ると、別の意味もあるのだろう。

 ……俺は知っている、この行動の意味を。瀬那がたまにやっているから。


(和人は女子に人気が高いからわかるが、瀬那は過剰なんだよな)


「よう、和人。ラブラブだな!」

「はいはい、うるさいよ」


 ニヤニヤしながら言う浩紀を、和人は雑にあしらった。その気持ちはよくわかるぞ。

 俺は気づかれないように「うん、うん」と頷いておいた。横にいる瀬那から腕をつつかれてしまったが。


 荷物を置いた浩紀と愛莉は、そのまま学食の給水コーナーへ向かっていった。俺たちの分も取りに行っているのは、ここに来る前にじゃんけんをして、二人が負けたからだ。


「正直、来てくれて助かったよ。……この状態は居心地が悪くてね」

「だろうな」


 俺と瀬那は苦笑いをしつつ、和人へ同情の目を向けた。

 当事者でもない俺たちでさえ居心地が悪いと感じるんだ。和人ならもっとだろう。


「どういうこと、カズト? ワタシといるのが嫌なの?」

「そういうことではなくて」


 周りの状況はわかっているだろうに、本当に牽制のつもりはなかったのだろうか。

 ……解せぬ。


「そういうことを言うなら、牽制もほどほどにしておけばいいだろ」

「マーキング……? ノー。ワタシは当たり前のアピールをしていただけよ。ねぇ、セナ。あなたならわかるでしょ、この気持ち」

「え? 私ですか……黙秘します、とだけ言っておきます」


 ……逃げたな。


 ここで「もちろん、朔也くんにマーキングしています!」なんて言うようなキャラではないし、言われても困る。

 どちらにしろ、浩紀と愛莉がいなくて助かった。


 エレノアはそわそわしながら、自分のスマホを眺めていた。

 その視線を何気なく追ってしまい、画面が目に入る。開いていたのは食堂の注文アプリだった。表示されたメニューを、楽しそうに眺めている。


「そんなに食堂が珍しいのか?」

「ウーン、そうね。もちろん前の学校にもあったわ。でも、こんなにメニューが豊富ではなかったから、とても新鮮よ」


 海外――しかも、エレノアが暮らしていたノルウェーやイギリスの学校に、どのような学食があったのかはわからない。

 ただ、ここの食堂には和洋中、さまざまなメニューが揃っている。これが日本で一般的かと言われると微妙なところだが、エレノアにはそれが新鮮で、見ているだけでも楽しいのだろう。


 しばらくして浩紀と愛莉が戻ってきた頃、エレノアと和人の注文が出来上がったという通知が来た。

 それを取りに行くエレノアの足取りは軽かった。


「いただきます」

「いただきます。……日本のこの挨拶、ワタシは好きよ」


 和人とエレノアが戻ってきたので、俺たちも食べ始めることにした。

 時折、エレノアが瀬那の方へ視線を向けているのが気になる。視線がやや下を向いているので、瀬那自身を見ているのかは微妙なところだ。


 俺と瀬那の弁当は、彼女が作ってくれているので、当たり前だが構成は同じで量が違うだけだ。

 エレノアは、以前の和人と同じく、その共通点を目ざとく見つけて笑った。


「微笑ましいとは、このことを言うのね」

「今更だから、いじられてもなんとも思わん」

「いじる……?」


 日本語が上手なので気にしていなかったが、まだこういうニュアンスはわからないらしい。隣の和人がフォローしている。


「――こんな意味かな」

「フーン、そうなのね……それよりもカズト、それも美味しそうね。……アーン」


 エレノアは、和人が注文していたハンバーグを指さして要求した。

 ……学食でやるとは……エレノア、恐ろしい子!


「あげるのはいいけど、それはやらないよ」

「……どうして? セナはやっていたわよ?」

「えっ!? こ、ここではやっていません……よね?」

「なんで瀬那が自信ないんだよ……」


 瀬那は目を泳がせ、両手をわたわたと動かした。


「……ここでは、していません。ここでは」


 周りの連中がニヤニヤし始めた。

 言い出しっぺのエレノアまで楽しそうに笑っているのは、どうにも納得がいかない。

 うかつなことをポロッと言った瀬那は、「あぁ……」と恥ずかしそうに顔を隠していた。


 この空気はどうにかしないと、しばらく言われる!


「まあ、それはいいとして、和人はエレノアにやってあげるべきだな」

「グッドなことを言いますね!」

「なんでだよ……朔也と浩紀がやったら、俺も考えるよ」

「……『考える』なら条件にならないな。『やる』と言うなら、俺もやってやってもいい」


 和人のことだ。定番の逃げ道は潰しておかないといけない。

 それに、そう答えれば本当にやることには――


「えー、俺もやるのー? ほれ、愛莉ちゃん。あーん」

「あーん。んぐ……うん、あんがと!」

(なんで一切ためらわないんだよ!? 普通、そこは少しくらい恥ずかしがるだろ!)


 俺と和人は目を合わせ、言葉に出さなくても「困ったことになった」と意気投合する。


 和人が浩紀まで巻き込んだのが悪い……と言いたいところだが、逃げるために和人へ話を振った俺にも連帯責任があるのだろうか。

 ……どちらにしろ、このあとの展開は予想できている。


「はい、俺たちはやったよ。次、朔也たちなー」

「待て。なんで勝手に条件が成立したことになってる」


 俺はとりあえず拒否の姿勢を見せるが……。


「和人が言ったじゃん」


 まあ、そう言うよな。

 浩紀に視線を向けられた和人は、苦笑いを浮かべた。


「俺は二人を逃がさないために言ったんだけど……逃げなかったね」


 呆れたように言っているが、もう俺たちも逃げられない。


 最初に言い始めたエレノアは、目をキラキラさせながら和人を見ている。瀬那は少し顔を赤くしているが、その目は期待に満ちていた。


 もう逃げることは……できない。

 顔の温度が一気に上がるのを感じながら、俺たちは観念して、それぞれの相手に「あーん」をするのだった。

 恥ずかしい……。


 ピポ♪


「なっ!?……金森!? 今、何を撮った?」

「青春の記録」

「あぅ……」


 ドヤ顔で胸を張って言い放つ金森。

 ……憎たらしいとはこのことか。

 さすがに瀬那も恥ずかしいらしく、俯いてしまった。


「消せ」

「嫌だ。安心しろ。今のところ、拡散する予定はない」

「『今のところ』をつけるな!」


 俺が立ち上がるより先に、小柄な体形を生かした彼女は、テーブルの間を縫うように逃げていった。

 ……一緒に来ていたはずの木内を残して。


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