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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第156話 時期外れな彼女①

 生徒会選挙が終わり、期末テストまでは大きな学校行事はない。そのため、生徒たちも少しゆっくりしている雰囲気だ。


 何もないわけではなく、細かいところでは三者面談と、芸術鑑賞会として演劇鑑賞がある。だが、どちらも一日で終わることだし、特に準備もいらない。

 ……三者面談に関してはいくつか問題はあるが。


 例の噂だが……もうほとんど話題に挙がらない。

 実は虎真以外にも絡まれたことはあったのだが、それに関しては「暇人だな」って感想しかなかった。


 話に挙がらなくなった理由はいくつかある。

 一番大きいのは、そもそも長続きするような話題ではないからだ。


 たまたま『進学校の(見た目は)問題児』で、『学年で一番目立つ瀬那の彼氏』というポジションだった俺だから余計に広まっただけで、今もいじめられているならともかく、過去のいじめのことなんて、持続するような話題ではない。


 それに加えて、選挙時の演説だ。

 暗にこの噂のことを指摘してくれた、現生徒会の会長と副会長のおかげだ。生徒の中では影響力が強い二人に睨まれるのは、何かと嫌なのだろう。


 そんなこんなで、俺の日常は平穏へと戻っていった。

 ……短い間だけ。


 選挙が終わった次の月曜日に、想定外のことが起きる。

 事件ではないが、俺の平穏はまたしばらく遠のきそうな内容だ。


 朝のホームルーム。

 三波先生が教卓に立つ彼女は、いつもよりテンションが高い。

 それに加えて、朝から少しソワソワしているクラスメイトが数人いた。


「はい、皆さん席につきましたね。いつもの朝の連絡事項の前に、嬉しいニュースがあります。なんと! 時期外れですが、このクラスに転入生が来ます!」

「おおー!」

(転入生……? 時期外れにもほどがあるだろ。それに、この学校に……?)


 ソワソワしているクラスメイトは、このことを事前に入手していたのだろうな。


「それでは、エレノアさん。入ってきてください」

「えっ!?」


 名前を聞いて俺も驚いたが、それ以上に声を上げて驚いているのは和人だ。

 つまり、そういうことなのか!?


 ガララッ。


 扉を開けて入ってきた少女は、銀髪――いや、光の加減によって銀色にも見える、淡いプラチナブロンドを揺らしていた。

 教壇の横まで歩いてこちらを向くと、三波先生が「自己紹介をお願いします」とエレノアを促した。


「Hei!……初めまして。エレノア・ルンド・ヴェストリです。ノルウェーから来たよ。英語はもちろんだけど、日本語もある程度話せるので、気軽に話しかけてね」


 やっぱり、俺たちが知っている『エレノア』で間違いなかった。

 和人を見ると唖然としていたので、彼も転入のことは聞いていなさそうだ。


「うぉー! かわいいー!」

「すごっ、髪綺麗!……あれ? でも、彼女って確か……」


 徐々に和人にも注目が集まっていくのがわかった。

 注目の和人は、苦笑いをしながらエレノアを見ている。そして、当のエレノアは和人を見て、してやったりといった表情を浮かべていた。


 その空気に気づいてはいるのだろうが、何のことかわかっていない三波先生。


「えーと、何かあったの? あ、急な転入ですが、海外の学校と、ご両親の仕事の都合でこの時期になりました。国際コースのクラスに入ることも検討したのですが、エレノアさんたっての希望で総合進学コースに決まりました。皆さん、仲良くしてくださいね」

「……三波ちゃん、そういうことじゃないんだよ」

「三波『先生』でしょ!……どういうこと?」


 クラスメイトの一人が先生に説明しようとした。

 ――が、それよりも早く、


「ミナミ先生。ワタシはカズトのフィアンセよ」


 彼女――エレノアがにこやかに言った。


「キャー!」

「そうそう、文化祭でもそう言ってた!」

「あー! あの少し噂になったの、この人だったんだ!」


 一瞬の静寂を置いて、教室が爆発した。


 文化祭の時は、みんな店の対応でごたごたしていて、そこまで騒ぎにはならなかった。落ち着いたあとも、不思議と話題に挙がっていなかった。


 だけど、今は違う。

 時期外れの転入生という前振りからの、和人の婚約者宣言。一部を除いたみんなのテンションが、上がらないわけがない。


 和人が、助けを求めるように天井を仰いだ。残念ながら、天井は何も答えてくれない。

 ……諦めの境地だな。このタイミングで誤魔化しても意味がないだろうし、しないんじゃないかな。


 浩紀は、ニヤニヤと和人を見ていた。

 そういう俺も、にやついているのを悟られないよう、口元を手で隠していた。


 逆に、テンションが上がらない人もいる。主に女子だ。

 多分、和人に本当に惚れていたのだろう。ショックを隠し切れていない。文化祭の時に物を落としていた子も、やっぱりショックなようだった。


(学校ではライバルが多いとはいえ、エレノアがいないのは、ある意味アドバンテージだったからな……)


 そして、俺としては関わりたくないが、意識して気をつけなければならない人物。


 ――梅沢。


 横目で様子を窺うと、梅沢は顔から血の気を失っていた。


 唇だけが小さく動き、ここからは聞こえないが、たぶん「うそ……」と何度も繰り返しているようだ。

 机の上に置かれた手は固く握られ、指先が白くなっていた。視線はエレノアと和人の間を行き来しているが、目の前の状況を理解したくないのか、瞬きすらほとんどしていない。


 文化祭の時に話は聞いていたと思ったが、本気にはしていなかったのかもしれない。

 たしかに、エレノアと和人が一緒に教室へ来た時、梅沢は教室にいなかった。もしあの場にいたら、もっと早く何かしら反応を見せていただろう。


 やがて梅沢は、縋(すが)るような目で和人を見た。

 だが、和人の視線はエレノアへと向けられている。


 その瞬間、梅沢の表情から驚きが消えた。浮かれた声が飛び交う教室の中で、そこだけ温度が違って見えた。

 でもそれは、恋に破れた女子が浮かべる顔には見えなかった。


 代わりに浮かんだものが何だったのか、俺にはわからない。

 ただ、平穏な感情ではないことだけは確かだ。


「えっと……婚約者……? えっ!? 婚約者!?」

「ミナ先、驚きすぎー」

「だから、三波ちゃん……いやいや、三波先生でしょ。本当なの、森田くん?」

「はは……」


 和人は、頬を掻きながら苦笑いを深めた。先生からの問いに、和人は否定しない。


 本当のところは俺もちゃんとは訊いていないが、正式な婚約ではなくても、将来は結婚する約束をしている――そのくらいの関係だと思っている。


 どちらにしろ仲がいいのはわかっているので、俺としてはそれで十分だ。

 ……隙を見て、詳しく訊くけどな。


「そうなの……最近の子は進んでいるのですねー」

(先生も、そんなに歳は違わないでしょ……)


 さすがに口には出せず、心の中に留めておいた。

 先生は少し考えたあと、和人を見てからエレノアに言った。


「そういうことなら、学校のことは森田くんに訊いてくださいね」

「イエス! むしろ離れないよ」

「仲がよくていいですね。それでは席ですが、後ろの、水野さんと前川さんの間に用意しましたので、そちらに座ってね」


 わかりやすく手を上げて答える雫と浩紀。

 今朝、浩紀が「隣に席が追加されているんだけど……これは心霊現象か!?」と意味のわからないことを言っていたが、単純に転入生用に用意した席だったみたいだ。


「イエス。ヒロキの横ですね。あとは……あ、サクヤもちゃんといますね」


 ちゃんとってなんだよ。


「あら、前川くんや東條くんとは、すでにお知り合いですか?」

「先生、俺たちは文化祭で会っているんですよ。あとは E 組の倉木愛莉とか、A 組の南雲さんとか」

「ああ、そういうことなのね」

「イエス。勉強会にも参加したわ。その時、サクヤが作ったクッキーはとてもグッドだったわ」


 そう言ったエレノアは自分の席へと移動し、雫と挨拶をしていた。

 教室は、まだ興奮冷めやらぬといった様子でざわついていた。

 隣が雫なら和人も安心だろうな。色んな意味で。


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