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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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SS 東條 朔也:夏休みに幼女を預かる話・前編

――――――――

はじめに。

ちょっと……ではなく、大分、長いのでお気を付けください。

――――――――



 ― 夏休み某日 ―


 近くの卸市場でイベントがあり、朝から家を出ていた俺たち二人は、帰宅するとエントランスで館山親子に会った。

 母親の恵美さんが笑顔で会釈し、その隣では恵麻ちゃんが手を振っていた。俺と瀬那も手を振りながら挨拶を返した。


「どこ行ってきたのー?」

「市場の朝市ですよ。イベントをやっていたので、お魚をお安く買えました」

「へー」


 恵麻ちゃんはよくわかっていなさそうな反応を返していた。小学生が市場に興味を持たなくてもなんらおかしくない。


「また、高校生らしくないところに行ってきたわね。二人の場合は『らしい』と思ってしまうのがまた面白いわ。それで、いいのはあったの?」

「新鮮な魚がたくさんありましたね。たまに行くには楽しいかもしれません」


 面白かったのは事実だが、市場の盛況具合は凄まじく、圧倒されたのでしばらくはいいやと思う。


「お二人はどこに?」


 二人の格好は軽装だったので、遠出という感じはしない。

 恵美さんが娘の方を向いた。


「こうえん!」

「まだ涼しいうちに行かないといけないから」


 八月の半ばだ。昼頃には三十度後半になることもある。屋根がない公園では致死量の日差しだろうな。


「行ってらっしゃい。楽しんできてくださいね、恵麻ちゃん」

「うん!」


 二人を送り出してゲートを潜ろうとしたときだった。


「えっ!? 今からですか?」


 振り返ると、スマホを持った恵美さんが誰かと話しながら、驚きの声を上げているのが見えた。

 俺と瀬那は、なんとなく気になって彼女を見つめてしまった。


「その案件ですか……たしかに私でないとダメですが……。娘の学童が――」


 とりあえず、トラブルが発生したのは確実だろう。


 ◇


 今、俺と瀬那は恵麻ちゃんを連れて、近くの公園に来ている。


 あの後、話を聞くと、どうやら恵美さんが担当している案件で問題が出たらしく、出社しないといけなくなったらしい。わざわざ有給休暇中の恵美さんに出社要請が来るほどだ。相当な問題なのだろう。


 有給休暇はずらせるが、問題は恵麻ちゃんだ。

 今日は一日休みの予定だったため、夏休み期間の学童も休みにしていた。当日の急な利用は難しく、恵麻ちゃんを預ける場所がないのだ。

 家に一人にするのは心配なのだろう。


(学童って、当日の急な利用は難しいんだな)


 その話を聞いた俺たちは、これも何かの縁だということで恵麻ちゃんを一日預かることにした。


『もしよろしければ、私たちは用事がありませんので、夜までお預かりしましょうか?』

『……助かるけど、本当に良いのかしら?』

『恵麻ちゃんがよければ、俺たちは大丈夫ですよ』


 幸いと言って良いのかわからないが、今日は朝市以外に予定はなかったのだ。


 一度家に戻り、公園で遊んだ後の着替えを受け取って、アレルギーなどの注意事項を聞いてから預かった。

 そして、そのまま俺たちは公園に来たわけだ。


(公園でまともに遊ぶなんて何年ぶりだろうか。それにしても、午前中なのに暑いな)


 朝なのに日差しが強い。

 どちらかといえばインドア派の俺では溶けそうだ。


「恵麻ちゃん、何をしますか?」

「うーん、滑り台!」


 ここの公園には長い滑り台がある。

 全長五十メートルほどあるローラー型の滑り台だ。


「すげー……近くにこんなに長い滑り台があったのか」

「……私、ここまで長いのは初めてです」

「いこー!」


 手を引かれた瀬那は「あぁ……」と言いながら連れていかれた。

 ……もしかして、少し怖がっているのか?


 滑り台の入り口に着くと、恵美さんから渡されたヒップスライダーを取り出した。これは滑り台や雪の斜面で使うプラスチック製のもので、尻に敷けば、服が擦れたり汚れたりするのを防いでくれる。


「瀬那。多分これを使った方が速く滑れるから面白いぞ」

「……朔也くん、わかって言ってますね?」

「あぁ、もちろん」

「?」


 恵麻ちゃんはよくわかっていないようだが、俺は察した。瀬那がびびっていることを。

 もしかして、瀬那は絶叫系が苦手なのかもしれない。自転車の練習でも騒いでいたしな。


「これって安全なのですよね」

「小学生が普通に滑っているんだから、大丈夫だろ」

「うん! 恵麻、よく滑るけど、けがしたことないよ!」

「えぇ……そうですよね」


 それでも、遠くを見る瀬那の目はどこか納得していなさそうだった。

 瀬那と恵麻ちゃん……というか、女子高生と小学三年生では体格が違う。それを同じ条件として考えるのは、少し無理があるかもしれない。


(運動量は p = mv だから――)

「朔也くん、何か変なこと考えていますね」

「ソンナコトハナイヨ」

「むぅー!」


 瀬那が唸っていると、番が回ってきた。

 実は、俺は少し楽しみだったりする。


「先に恵麻がいくね!」


 そう言った恵麻ちゃんは、ヒップスライダーに乗り、勢いをつけて飛び出していった。

 思ったより速度が出ているが、本人は「わぁー!」と声を上げており、とても楽しんでいるのがわかる。


「……次は私ですね」


 恵麻ちゃんが滑り終わったのを確認した後、瀬那は準備を始めた。明らかに緊張しているのがわかる。


「無理しなくても良いんだぞ?」

「いえ、恵美さんに頼まれたのですから、ここで逃げたらダメだと思います!」


 断じて、そんな決死の思いをするようなことではない。

 意を決してヒップスライダーの上に座った瀬那は、少しずつ前に進み始めた。


 トロトロと。


「……」

(ごめん、瀬那)


 トン。


「え!? 朔也く――きゃあぁぁぁ!」


 あまり遅いと後ろがつまるから仕方ないんだ。

 急に押されて勢いのついた瀬那は、その後も「きゃー!」と叫びながら滑っていった。

 ……あれでも恵麻ちゃんより速度が出ていないのだけどな。


 その後、俺も続いて無難に滑った。

 思ったより速度が出て、大人でも楽しめるから良いな、これ。……まだ俺は未成年だけど。


 ちなみに、滑り台から降りたら、そこには笑顔なのに凍えるようなオーラを纏った瀬那がいたのは言うまでもない。


 ……ごめんなさい。


 ◇


 その後も何度か滑ったわけだが、三回目には瀬那も慣れたようで、勢いよく滑っていた。

 もともと運動能力が高い方の彼女だ。慣れるのも早かったようだ。

 怖がっている瀬那は面白かったので、少し残念に思ってしまった。


 他の遊具にも恵麻ちゃんに付き合って遊んでいたら、


「あー! えーちゃんだ!」


 と、女の子の声が聞こえた。そちらを向くと、恵麻ちゃんと同じぐらいの年頃の女の子と、その子の母親らしき女性がいた。


「きーちゃん!」


 お互いに名前を呼び合いながら、ハイタッチをしていた。どうやら友達らしい。

 なんとなく、きーちゃんの母親と軽く会釈を交わす。その人にじっと見られているのがわかる。もし、親同士のつながりがあったら気まずい。

 ……瀬那がいなかったら、事案になっていたかもしれないな。


 きーちゃんは俺と瀬那を見てから、自分のお母さんを見て、少しだけ首を傾げた後に言った。


「えーちゃんのパパとママってわかーい!」

「……!」


 一瞬、その言葉の意味が公園の空気に溶け込んで、動きが止まった。

 瀬那は意味を理解するまでに少し時間がかかっていたが、顔を赤くしたかと思うと、両手を目の前に出して振っていた。


「ち、違いますよ! 私たちは恵麻ちゃんのお友達で、恵美さん……恵麻ちゃんのお母さんから頼まれて、一緒に遊んでいるのですよ」

「へー」


 きーちゃんはよくわかっていないような顔をしていたが、まあ大丈夫だろう。

 きーちゃんがそうなら、親御さんは恵美さんたちに会ったことがないはずだ。つまり、さっきの反応はきーちゃんと同じようなことを考えていたに違いない。


「申し訳ありません。何か勘違いさせてしまったみたいで」

「そんな、気にしないで。……私も若いなぁって思ったけど」

「はは……」


 やっぱり同じような誤解をしていたようだ。

 変に誤解が続かなくて良かったと思う。……マジで。


 その後、恵麻ちゃんときーちゃんがメインで遊び始めたので、それに加わる形で俺と瀬那も一緒に遊んだ。


 定番の鬼ごっこや遊具遊びを一時間もすれば、十分な運動量だ。


「……子供の体力って凄まじいですね」

「ああ、これに付き合っている親の根性がすごいよ……」

「適度に遊ばせるのがコツよ」


 人生の先輩がそう言うなら、今後に生かしたいものだ。

 その後も小学生二人に混ざって遊んでいるときだった。


 ポツポツ……。

 ポツポツポツポツ……。


 予報にあった通り、雨が降ってきたようだ。


「二人とも、今日はここまでにしましょうか。……では、失礼します」


 親御さんに一礼して、三人でマンションに戻る。

 恵麻ちゃんもそのまま俺の家に来て、汗を流すために瀬那と一緒にシャワーを浴びている。

 俺はその間に、お昼ご飯を用意し始めた。


 今日は暑いので素麺だ。

 トッピングのささみや野菜、卵などを用意して、セルフで乗せていくスタイル。


 準備も食べるのも簡単だ。


『えー! すごーい!』

「?」


 恵麻ちゃんが何かに驚いている。

 何かあったのだろうか? 瀬那が一緒にいるので、危ないことなら『呼出』ボタンを押すはずだ。それがないのなら、驚いただけだろう。


「さて、仕上げるか」


 タレは白だしとごま油。俺の中では定番の組み合わせだ。

 俺はこれが普通だと思っていたのだが、最初にこの組み合わせを瀬那に見せたら驚かれた。実はマイノリティだったらしい。


「たいへん! 朔也おにーちゃん、たいへん!」


 あとは麺を茹でるだけになったところで、いつの間にか出てきた恵麻ちゃんが、騒ぎながらリビングへ入ってきた。

 その姿はちゃんと着替えてはいるが、髪はまだ湿っていた。


「どうした! 瀬那に何かあったのか!?」


 その慌てぶりに、俺も瀬那に何かあったのではないかと焦ったが、


「え、恵麻ちゃん! 言わなくて良いですから!」


 すぐに、慌てた調子ではあるものの、瀬那の声が聞こえたので安堵する。

 ……それなら、何があったのか?


「えっと、どうしたの、恵麻ちゃん」


 俺は軽くしゃがみ、恵麻ちゃんと目線の高さを合わせて問いかけた。


「瀬那おねーちゃんの……お、お、おむ――」

「おむ?」

「――お胸が、ママより大きいの!」

「……っ!」


 突然だが、当初、恵麻ちゃんは俺が『南雲』と紹介したので、それが名前だと思っていたらしく、「なぐもおねーちゃん」と呼んでいた。しかし、最近になって『瀬那』という名前だとわかり、「瀬那おねーちゃん」となっている。


 説明終わり。


 現実逃避の回想が終わったことで、少し冷静になった。正直に言うと、瀬那の胸が大きいのは知っているので、今更の情報である。

 ただし、比較対象まで追加されたせいで、返答には困る。


「へ、へー……そうなんだ」

「うん! すごいよね!」


 何が凄いのかわからないが、とりあえず頷いておく。


「もう、恵麻ちゃん! ダメですよ、変なことを言っては。それに、まだ髪が乾いていません」


 恵麻ちゃんはえへへーと笑った。


「そうだよ、髪を乾か……は?」


 瀬那の方を向くと、バスタオルを巻いた状態の瀬那がいた。さっきの恵麻ちゃんの言葉が頭の中でリフレインしそうだったが……耐えた。

 すぐに顔を逸らして、瀬那に言う。


「お前はお前で、なんて格好をしてるんだよ!」

「き、着替えを忘れてしまって……」

「マジかよ……」


 呆れて言葉も出なかった。

 俺はしばらく、顔を逸らし続けることになった。


 ◇


 お昼ご飯は恵麻ちゃんにも好評だった。

 アレルギーや苦手なものは、恵美さんから事前に聞いてある。


「お野菜も食べてくださいね」


 瀬那は小さい子供と接するのが好きなのか、甲斐甲斐しく世話をしていた。

 休日の昼にこういう光景を見ると、ほのぼのするものだ。


 何事もなく昼食を終えた俺たちは、そのまま宿題をすることとなった。

 恵美さんからの指令で、恵麻ちゃんは宿題をある程度しないといけない。俺も瀬那も夏休みの課題はさほど残っていないので、恵麻ちゃんの宿題を手伝う……というほどではなく、答え合わせと、わからないところを教えるぐらいだ。


 久しぶりに小学生の内容を見ると、X や Y を使わずに説明するのが意外と難しい。


(こういうときは、□を使うんだっけ? でも、それって結局未知数だよな……)


 と、どうでも良いことを悩みつつ説明した。

 そのかいあってか、恵麻ちゃんに今日予定されている宿題は、三十分もしないうちに終わった。


 問題はこれからだ。

 雨で外では遊べないので、家の中でしか活動できない。だが、俺の家に子供が遊ぶおもちゃなんてあるわけがない。ギリギリ、パーティーゲームやレースゲームならできるが。


 そんなことを考えていると、


「瀬那おねーちゃんの足の爪、かわいー!」

「これですか?」


 恵麻ちゃんは、瀬那の足の爪に塗られたペディキュアを見ていた。

 さすが女の子。この歳でもそういうところをよく見ているんだな。これが俺だったら、この歳で見たとしても「ふーん」で終わっていそうだ。


「ママもたまにぬりぬりしているけど、こんなに可愛くないよー!」

「ふふっ、ありがとうございます。これは朔也くんが塗ってくれたんですよ」

「えー! すごいー! 恵麻にもやって、おにーちゃん!」


 無茶ぶりが来た。

 当たり前だが、水性の子供用ネイルはうちにはない。

 それに、ジェルネイルや除光液は、子供の爪や皮膚には負担が大きいとどこかで読んだことがある。刺激やアレルギーの心配もある。


(これを、保護者の同意なしにやるのは駄目だな)


 ということで、俺はどう説明するか考えた。

 これまた膝を曲げ、恵麻ちゃんと目の高さが同じになるようにする。子供と話すときは同じ高さにするのが良いと、これまた聞いたことがあったからだ。


「ごめんね、恵麻ちゃん。これは、子供の爪にはまだ塗らない方がいいものなんだ」

「……そうなんだ」


 恵麻ちゃんの眉が、しゅんと下がる。

 泣き出しそうではないが、このまましょんぼりさせるのも忍びない。


 それは瀬那も感じ取ったのか、頬に手を当て、代わりになるものはないか考え始めたようだ。

 恵麻ちゃんのしょんぼりした顔を見ながら、頭の中でぐるぐると選択肢を回していたら――あっ!


「そうだ! 恵麻ち――」

「そうです。いいものがありますよ、恵麻ちゃん」


 瀬那と同時に声をかけてしまったので、俺は言葉を止め、視線で『先にどうぞ』と譲った。

 瀬那はそれを見て、理解してくれたのか軽く頷いてから言葉を続けた。


「足の爪に塗るのは難しいですが、これと同じようなものを使って、アクセサリーをつくるのはどうでしょうか?」

「……アクセサリー?」

「はい。少々お待ちくださいね」


 そう言って、瀬那は自分の部屋へと入っていった。どうやら、俺と同じことを思い出したようだ。

 恵麻ちゃんはそんな瀬那を見送り、きょとんとしていた。何が始まるのかわからないのか、俺を見て首を傾げる。


「大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから」


 俺が安心させるように声をかけたのとほぼ同時に、瀬那は部屋から出てきて、いくつかのアクセサリーを恵麻ちゃんに見せた。

 これは少し前に、愛莉と一緒に作ったものだ。


「はい、こちらがそのアクセサリーです。爪に塗っているものと似た材料を使って、こういうキーホルダーが作れます。やってみたいですか?」

「むずかしい?」

「いえ、簡単ですよ。それに、私と朔也くんがいますから、大丈夫です」

「なら、やってみたい!」


 さっきまでの悲しい顔はどこへ行ったのか、ぱっと笑顔の花を咲かせた。


(よかった……)


 これでしばらくは持ちそうだ、と少し安堵した。

 あとは楽しんでもらえるかどうかだな。さて、どんなものが出来上がるのやら。


 個人的に重い話が続いて疲れたので、一旦 SS を挟ませてもらいました。文化祭で話していた件になります。


 また、こちらもコメントでリクエストをいただいたので、書かせていただいております。

 ※ コメントをくださった方のお名前は、念のため伏せさせていただきます。


 それにしても、またしても SS なのに長くなってしまったので、前編・後編に分けました。しかもいつも以上に長い……少しやり過ぎたけど、後悔はしていません!


 あと、補足すると、今の小学校では、学校内であだ名を使わず、下の名前の呼び捨てをルールにしているところもあります。いじめ防止のためらしいです。

 ……なんの補足なんだ?

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