第155話 生徒会選挙:当日③
投票は、その日のうちに行われる。最後の演説を聞いたあと、そのまま席に座った状態で投票を行うわけだ。集計と結果発表もすぐに行われ、新生徒会長の挨拶で締めくくる流れになっている。
投票は、開票作業を簡略化するため、紙ではなく学校が契約しているアプリで行われる。
念のため補足すると、このアプリは学校からの日々の連絡や、生徒からの欠席・遅刻などの届け出にも使われている。生徒会選挙だけのために用意されたものではない。
スマホを持っていることが前提の仕組みだが、持っていない生徒には元々端末の貸し出しがあるため、問題はない。
今の時代、それに該当する生徒がどれくらいいるのかは知らないが。
俺は柊先輩と天童のどちらに入れるか悩んだ末――天童を選んだ。
もちろん、柊先輩の演説内容や能力に問題があると思ったわけではない。
ただ、俺は天童の考え方も嫌いではなかった。
普段のあいつを見ていると、和人が言っていたとおり、人を引っ張っていけるのではないかと感じた。それに、卑怯な手を使わない誠実さがあることも知っている。
だからこそ、あいつが公約をどこまで実現できるのか、純粋に見てみたいと思った。
周りでは、誰に投票したのかと皆が騒いでいる。
俺も浩紀に聞かれたが、黙秘を貫いた。こういうものは、わざわざ言うべきではないだろう。
投票時間は約十五分。
ある程度時間が経つと、選挙管理委員会の代表が壇上へ上がり、話し始めた。
「あと五分で投票を締め切ります。まだ投票を済ませていない方は、時間内にお願いします」
その説明から、きっちり五分。
再び代表が壇上へ上がり、「それでは、投票を締め切ります」と宣言した。それと同時に、アプリの投票ページが閉じられる。
そして、壇上の奥にあるスクリーンへ映像が浮かび上がった。
トランジションが無駄に凝っていて、格好いい。周りの生徒たちも、思わずといった様子でスクリーンに見入っていた。
だが、果たしてそこまで力を入れる必要があったのだろうか。
「何かすごいですね。何がとは言えませんが、凝っていることだけは分かります」
「本当にな。絶対、テンションが上がって作った感じだろ、これ」
一分弱に及ぶトランジションが終わると、画面に大きく『結果発表!』と表示された。某芸人を思い出したのは、言うまでもない。
『結果発表』の文字がフェードアウトすると、三位から六位までの立候補者の名前が表示される。
2-C ―― ―― 6%
1-I ―― ―― 5%
2-B ―― ―― 3%
2-F ―― ―― 1%
表示されたのは、演説は聞いたとはいえ、ほとんど知らない候補者たちだった。
つまり、柊先輩と天童は、その中に入っていない。
「残りはお二人ですね。予想はしていましたが、圧倒的です」
瀬那が言っているのは、各候補者の横に表示された得票率のことだ。
四人の得票率を合計すると、十五パーセント。残る八十五パーセントを柊先輩と天童の二人で分けていることになる。
この流れで、どちらかが一桁ということはまずないだろう。
そんなことを考えていると、ドラムロールが流れ始めた。
トランジションといい、この効果音といい、選挙管理委員会の中に妙にはっちゃけている奴がいるのではないだろうか。
周囲からも笑い声が聞こえるため、俺の感性がおかしいわけではなさそうで、少し安心した。
「投票の結果、新生徒会長に選ばれたのは――」
選挙管理委員会の代表がマイクを持ち、宣言する。
その流れに引き込まれ、講堂にいる生徒たちが一斉に息を呑んだのが分かった。
講堂にいる千人近い生徒の意識が、スクリーンの一点へ吸い寄せられていく。
……司会がうまいじゃないか。
ドゥルルルルルル!――バン!
ドラムロールの効果音とともに、隠されていた二人の名前が表示された。
2-D 柊 菫 44%
1-A 天童光輝 41%
一瞬、講堂の音が消えたような錯覚があった。
「おぉーーー!」
「すごーーい! 僅差じゃん!」
講堂内に大きな歓声が上がった。
その勢いで、室内そのものが揺れているような錯覚さえ覚える。
結果は僅差だった。
わずか三パーセントの差で柊先輩が勝利したわけだが、一年生でここまで票を集めた天童も、十分健闘したと言えるだろう。
「投票の結果、新生徒会長は二期連続で、柊菫さんに決定しました!」
講堂内に拍手が鳴り響く。
その拍手に迎えられ、柊先輩が壇上へ上がった。
天童は少し悔しそうな表情を浮かべていたが、あれほどの僅差なら無理もない。
「改めまして、生徒会長に選ばれました、柊菫です」
そして、新生徒会長となった柊先輩の挨拶が始まった。
内容には、いつものようなおちゃらけた部分もあれば、素直に尊敬できる先輩らしい言葉もあった。
ただ――
「あと、ボクに投票しなかった人たちも、ボクが当選して良かったと思わせるから、覚悟しておいてねー」
最後を締めくくったのは、そんな柊先輩らしい言葉だった。
……やはりこの人は、最後まで型破りだった。
◇
柊生徒会長の挨拶が終わり、生徒会選挙は終了となった。
時間は四限目の途中まで食い込んだため、残りの時間は自習らしい。
――そう、自習のはずだ。
「と、いうことで、ボクが生徒会長になったから、ピアスくんは庶務をやらないかい?」
「なんで柊先輩がいるんですか……。ここ、一年生の教室ですよ? あと、やりません」
「えー!」
なぜか、俺のクラスに柊先輩がいた。新生徒会長は、当選から一時間も経たずに一年生の教室へ不法侵入していた。
相方兼保護者である桐生先輩も、もちろん一緒だ。ただし、すでにげんなりした様子で疲れていた。
「なんでー?」
「なんでって……興味がないからですよ」
「キミが入ったら、新プロジェクト『ピアス革命――俺たちは装飾品の自由のため、退学を懸けて戦う!』が始動できるのに……!」
「そんなことで革命を起こすなよ!」
アホな話になっているが、結局のところ平行線だった。
少しだけ……本当に少しだけ、俺を生徒会へ誘う展開を予想していたのだが、まさか当たるとは……。
「先輩は、俺が少し見直した途端、すぐに評価を落とさないとやっていけないんですか……」
「え? 見直してくれていたの?」
「……忘れてください」
「いや、忘れないね! 嬉しいことだもん。……待って。見直すってことは、それまでの評価はマイナスだったのか!」
そこにお気づきですか。さすがです、新生徒会長様。
一部始終を見ていた桐生先輩が、「はぁ……」とため息をつきながら口を開いた。
「東條。悪いが、せめて生徒会補助員くらいはやってもらえないか?」
「生徒会補助員とは?」
聞いたことのない言葉だった。
ただ、名称から大体の役割は想像できる。
「事務作業や行事運営で人手が必要になったとき、優先して手伝いを頼むサポートメンバーみたいなものだな」
あとで調べたところ、文化祭や体育祭などで人手が必要なときに、一般生徒から協力者を募る制度らしい。
「なるほど。たまに手伝うくらいの立場ですか……それなら、いいですよ」
「なんで尊のときは素直に応じるのさ!?」
それは人柄と信頼の差です、とはさすがに言えない。
正確には、求められている仕事の範囲がまったく違うため、当然の反応だと思うのだが。
「桐生先輩も、引き続き副会長なんですか?」
「いや、俺は会計だ。副会長は天童だな」
「え?」
「ボクが四十四パーセントで、天童くんが四十一パーセント。ほとんど同じ人数の生徒が、それぞれボクたちを支持したことになるからねー。だったら、彼の考えも生徒会へ取り入れたほうが、より多くの生徒の期待に応えられると思ったのさ」
確かに、ほとんど同じ人数の生徒が、それぞれ二人を選んでいる。
どちらか一人ではなく、二人が生徒会の先頭に立つことには、大きな意味があるのかもしれない。
「それに、元々、来年のことを考えて、後進を育てる意味でも副会長は後輩にするつもりだったしね」
当然だが、来年、柊先輩は生徒会長へ立候補できない。
会長と副会長の両方が三年生で、そのまま同時に引退すれば、ノウハウをうまく引き継げない可能性がある。
卒業前に話を聞くことはできるかもしれないが、三年生は受験も近くなる。そう何度も頼るわけにはいかないだろう。
だからこそ、副会長に後輩を入れて経験を積ませ、来年は会長か、別の役職として生徒会を引っ張ってもらうつもりなのだ。
きちんと考えているんだな。
天童のことだ。おそらく、来年も生徒会長へ立候補するだろう。
……そのとき、どれだけ柊先輩に毒されているか、少し気になる。なかなか面倒な組み合わせになりそうだ。
「その話をしたら、正義番長は素直に了承してくれたよー」
「……正義番長?」
「天童のことだ。どうしてそうなったのか、こいつの思考回路は俺にも分からん」
「えー! 尊なら分かってくれると思ったのにー」
正義番長……まあ、分からなくもない……か?
だが、天童本人が聞いたら、就任初日に辞任を考えそうなあだ名だった。
また変なことを言い始めてはいるが、桐生先輩が生徒会に残るのなら、今までどおり柊先輩の手綱を握ってくれるだろう。
「ところで、補助員としての初仕事なんだけどねー」
嫌な予感がした。
「もうあるんですか?」
「新生徒会の顔合わせで出すお菓子を作ってほしいなーって」
「それは生徒会の仕事ではなく、俺を便利に使いたいだけですよね?」
「ばれたかー」
俺は小さくため息をつき、弁当の準備を始めた。
どうやら選挙は終わっても、俺の面倒事は終わらないらしい。
この回で長かった選挙パートは終わります!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ最下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして評価していただけると、毎日の執筆の大きなモチベーションになります!
ブックマークへの登録も、ぜひよろしくお願いいたします。




