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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第148話 噂と前に進むための一歩②

 クラスへ入っても、このしょうもない騒動は収まっていなかった。

 廊下で別れる際、瀬那が、


「もし、体調がつらくなったら、一緒に早退しますから」


 と、心配してくれた。

 恋人同士がそろって早退となると、サボりを疑われそうではあるが、その気持ちはありがたかった。


 それにしても、俺がいじめられていたことが、それほど気になるものなのだろうか。俺には理解できない。

 俺だったら、『誰がいじめられていたか』より、『誰がいじめていたか』のほうが重要だと思うのだが。


 ただ、今の俺が一番気になっているのは、『誰が広めたのか』だ。


 そもそも、中学時代の同級生たちは知っている。全員を口止めすることなど不可能なので、そんな交渉自体していない。

 だから、いつか知られるとは思っていたし、心のどこかでは覚悟もしていた。


 問題は、なぜこのタイミングなのか。


 普通なら答えが分からず悩むところだが、よく考えてみれば、文化祭にはあいつが来ていた。

 俺がこうなった原点にして、元凶でもある鳴鷹。

 あいつが誰かに話したか――


(そもそも、あいつとの会話を誰かに聞かれていたのかもしれない)


 別に、誰も近づけないよう、マンガみたいに結界を張っていたわけではない。

 近くに生徒がいたり、当番をサボって隠れていたりしても、おかしくはなかった。


 そこまで考えたところで、俺は思考を打ち切った。


 誰が広めたのかを推測したところで、今は意味がない。すでに校内へ広まった事実は、どうにもできないのだから。


 それに、今朝の虎真先輩との一件で、分かったこともある。


 この程度なら、『どうでもいい相手』から何を言われても、大丈夫そうだ。

 軽い症状は出そうになったが、瀬那が隣にいて、手をつないでくれているだけで安定できた。


 それは、俺にとって確かな自信になった。


 ――だから、残るのは『どうでもよくない相手』だ。

 どれだけ他人の視線に耐えられても、大切な相手から拒絶されれば、たぶん俺は簡単に崩れる。


(どうでもよくない相手といっても、それほど多くはない。一番大切な瀬那が気にしていないことは、もう分かっている。あとは――)


「朔也っ……大丈夫か?」


(こいつらだけだ)


 登校してから、どこかへ行っていたのだろう。浩紀が教室へ戻ってきた。

 俺がいることに気づくと、早足でこちらへやってくる。本気で心配しているようで、少し申し訳なくなった。


「お前も聞いたのか」

「そりゃな。学校じゃ、俺とお前が仲いいのは、みんな知ってるだろうし。……事情を訊きに来る奴や、面白おかしく教えに来る奴もいたよ。……まさか、あんな奴らだとは思わなかったけどな」


 浩紀は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 交友関係が広いこいつのことだ。それなりの人数から声をかけられたのだろう。


 中には、それまで仲が良いと思っていた相手もいたはずだ。

 そんな奴らが、嬉々として事情を訊きに来たことが、何より嫌だったのだと思う。


「どういう話になっていたんだ?」

「……えぇ、お前がそれを訊くのかよ」

「今朝、あのクソ野……虎真先輩に絡まれて聞いたくらいで、それ以外の情報がないんだ。対処するにも、情報は必要だろ」

「朔也……」


 浩紀が、少し悩みながら口を開こうとした、そのとき――


「朔也、浩紀。その話、俺も一緒に聞こうかな」


 和人がやってきた。

 朝練を終えたばかりなのだろうが、その顔には珍しく怒りがにじんでいた。急いで教室に来たのだろうな、汗がしたたり落ちている。


「和人、大丈夫か?」

「……それを訊くのは、俺のほうだと思うよ。……でも、いつもどおりの朔也を見たら、少し毒気を抜かれたかな。とりあえず、大丈夫そうで良かった」

「なんか、二人とも心配をかけたみたいだな。……昼休みにでも、ちゃんと話そうか。そろそろ朝のホームルームだし」


 時計を見ると、予鈴までほとんど時間がなかった。このまま話すには、時間が足りなさすぎる。


「そうだな。……お前が大丈夫なら、そうしよう」

「分かったよ。無理はしないでね」

「大丈夫。二人が思っているより、だいぶ平気だと思うぞ」

「……つまり、南雲さんの愛の力ってか!?」


 俺は無言で、浩紀の脛を軽く蹴った。


「いてー!」


 和人が、こらえきれずに小さく噴き出した。

 場の空気を和ませるために言ったのは分かる。分かるが、タイミングを考えなさい。


 ……ありがとう。


 ◇


 午前の授業中も、居心地の悪さは続いていた。


 移動教室で廊下を歩けば、遠慮のない視線を向けられる。

 クラスの中にも、腫れ物を扱うような妙な緊張があった。


 文化祭をきっかけに、それなりに話すようになった奴らも、どう接したらいいのか分からないようだった。


 雫や斎藤は、いつもどおりに挨拶をして、話しかけてくる。

 聞きたいことがある様子ではあったが、直接訊くのはためらっているようだった。


 ただ、それは奇異の目ではない。

 純粋に心配してくれているのだと感じられたため、悪い気はしなかった。


 その反面、梅沢(あの女)がにやにやしているのも分かった。

 俺が窮地に陥ったり、教室で孤立したりするのを期待しているのかもしれないが……たぶん、それは無理だ。


 少なくとも、俺を完全に孤立させることはできない。


 予定どおり、昼休みは教室から避難した。以前お世話になった、校舎の片隅にある告白スポットだ。

 ……今日ここで告白する予定だった奴がいたら申し訳ないが、延期してくれ。


 今日は一緒に昼食を食べられないことを、瀬那にはすでに伝えてある。

 浩紀と和人に、きちんと事情を話すことになるだろうとも、一言添えておいた。


 瀬那からは、


『頑張ってください。でも、お二人なら問題ないと思います』


 と、メッセージが返ってきた。


 俺たち三人は弁当を広げ、昼食を始めた。

 いつ、どのタイミングで話せばいいのか分からない。考えても仕方がないので、俺は弁当を一口食べたところで話を切り出した。


「……中一のときに、いじめられていたのは本当だ」

「っ、ごふっ……!? っ、ごほっ、ごほっ! な、何を急に言って……げほっ!」


 箸を進めていた浩紀は、咀嚼(そしゃく)するのも忘れて完全に固まった。

 次の瞬間には、顔を真っ赤にして激しくむせ返る。


 慌てて弁当箱を置き、胸元を押さえながら、涙目でこちらをにらんできた。


「何むせてるんだよ。ほら、水だ」

「……ん……。くっはぁ~、死ぬかと思った……。何ってお前、もう少し前振りしろよ! びっくりしたじゃねえか!」

「……大変だな、お前」

「お前なぁ……」


 顔を真っ赤にしたまま水を飲み、ようやく落ち着いた浩紀が俺をにらんだ。


 どうやら、切り出すタイミングが悪かったらしい。

 少し申し訳ない気持ちはある。


「悪い、悪い。狙ったわけじゃないぞ」

「狙ってたら、さすがにキレてるわ……」

「二人とも落ち着いて。朔也、俺もタイミングは考えたほうがいいと思うよ」

「ごめん」


 和人にまで叱られてしまった。

 これは素直に謝っておこう。


「まあ、どう切り出せばいいのか分からなかったんだよ。……それで、本題に入っていいか」

「ああ」

「二人がどんな話を聞いているのか分からないから、とりあえず、俺のほうから一通り話す。噂と違うところや、気になる点があったら、その都度言ってくれ」

「分かった」


 今度は、きちんと前置きをしておく。

 噂の内容を知らない以上、初めから説明したほうがいいだろう。


 俺たちは、そろって箸を置いた。

 さっきまでの冗談めいた空気が消え、風の音だけが妙にはっきりと聞こえた。


「以前、二人に『気持ちの整理がついたら話す』みたいなことを言ったのを覚えているか?」

「あぁ、南雲さんと付き合い始めた頃だったか。……まさか」

「そう。その内容が、さっきも言った中一の頃の件と関係している。……お前らに幻滅されたくなくてな」


 これは本心だ。

 今も、あのときも二人が俺に幻滅して離れていくとは思っていなかった。それでも、どうしても不安はあった。


 こんな形で背中を押されたことは癪だが、せっかくの機会だ。二人には、きちんと話しておきたい。


「そんなことで、俺たちがお前に幻滅すると思ったのかよ」

「それは、俺たちを軽く見ていることになるよ」

「ごめん。そういうつもりじゃないんだ。……ただ、過去に実際、それで人が離れていったことがあった」


 俺は二人に、瀬那へ話したのと同じように、過去の出来事を話した。


 偽の告白をきっかけに、いじめが始まったこと。

 それまで友人だと思っていた奴らが、次々と離れていったこと。

 親が、まったく頼りにならなかったこと。


 ……そして、限界を迎え、命に関わる行動に出たことまで……。


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