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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第146話 生徒会選挙:立候補②

 柊先輩は、翌日には立候補届を出していた。

 応援代表を務める相方は、もちろん桐生先輩だ。


 ただ、宣言どおり、公約の一つに『ピアス自由化』を掲げているのは、マジでアホなのかと思う。

 ほかの公約がしっかりしているだけに、それだけが異質だったのがまた……。


 すでに、校内には選挙ポスターまで貼られている。

 それも、テキトーに作ったものではなく、しっかりとデザインされたものだ。写真まで完璧な角度で撮られている。


 昨日の今日で、誰がここまで完成度の高いポスターを作ったのだろうか。相当な技術だと思うぞ。


「本当に立候補したな、生徒会長……と言うか柊先輩。それに、マジでこの公約でいくのか?」


 昼休み、そのポスターの前で浩紀が唖然としていた。

 俺と同じ疑問を持っているようで安心した。どうやら、俺の感覚は間違っていないらしい。


「本当にな。規格外だとは思っていたけど、ここまでとは……」

「今日も朝から、校門前で張り切ってたぞ。しかも、耳元にイヤーカフまでつけてな」

「はぁ!? マジかよ……」

「さすがに穴を開けるのは、親に止められたらしいぜ」


 昨日の今日で、本当に耳へ穴を開けようとした行動力はすごい。

 すごいのだが……やはり、アホだ。


 今も、候補者たちの演説が校舎の外から聞こえてくる。

 俺自身は、生徒会にそこまで魅力を感じていない。だが、立候補者たちにとっては、それだけの魅力があるのだろう。


 こういうことに努力できるのは、素直に感心する。


「和人も大変だな。朝早くから活動して、昼休みまで潰れるんだろ」

「あぁ。今度、差し入れでも持っていってやるか」

「いいな、それ!」


 そんなことを話しながら教室へ戻っていると、前から梅沢たち三人が歩いてきた。


 俺を見つけるや否や、梅沢はにやにやしながら、こちらを見て通り過ぎていく。

 しかし、残りの二人は、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。


 ……どう考えても、嫌な予感しかしない。


「なんだったんだ、あいつ。いつも以上に嫌な感じだったな」

「……分からんが、面倒なことになりそうな予感がする」

「奇遇だな。俺もそう思うわ」


 俺は左手で耳元のピアスに触れながら、梅沢の背中を目で追った。

 一抹の不安を覚えたものの、今の俺にできることは何もなかった。


 ◇


 どれほど一般に知られているのかは分からないが、十月末から約二週間にわたって、『読書週間』というものがある。


 この学校の図書委員会でも、その大きな流れに乗り、少しでも本に触れてもらおうと、『読書の秋、促進計画』なるものを行うことになった。


 とはいっても、おすすめ書籍を紹介するブックガイドや、POP を作成する程度だ。


 せっかくなので、生徒会選挙を利用できないかと提案した。

 立候補者のポスターは嫌でも目に入る。その近くに貼っておけば、ブックガイドにも少しは目を向けてもらえるのではないか、という魂胆だ。


 学校からの許可も、比較的あっさり下りたため、実行へ移されることになった。

 ただ、一つ想定外だったのは、図書室の司書から、


「ちょうど図書委員絡みで東條くんが目立っているんだし、発案者でもあるんだから作って♪」


 と、名指しされたことだ。

 ……どこまで引っ張るんだよ、そのネタ。


 図書委員のミーティング中、皆の前で宣言されてしまったため、断れる雰囲気ではなかった。

 結局、渋々引き受けることになったわけだ。


 隣にいた瀬那と雫から、気の毒そうな目を向けられたのがつらい。


 幸い、おすすめ書籍の紹介文は、ほかのメンバーにも作ってもらえることになった。さすがに何冊分も一人で用意するのは難しいので、正直に言って助かる。テーマごとに担当を振り分け、それぞれで作成することに話が決まった。

 それに、家で作業する際には、瀬那も手伝ってくれたので完全に一人で作成にはならなかった。


 複数人が、それなりの時間をかけて作ったブックガイドだ。

 せっかく完成させた以上、実際に見てくれている人がいるのか、気になってしまう。


『どう思う?』

『俺は見たよ。候補者のポスターの左右に堂々と貼ってあるから、気になったね』

『朔也が準備したって言うから、軽くは見てやったぜ!』


 少なくとも、和人と浩紀は見てくれたらしい。

 多少なりとも狙いどおりになったのなら、本望だ。


 そんなやり取りをした日の放課後、図書室の当番だった俺と瀬那は、いつもどおりカウンターに座っていた。

 もう慣れたもので、小声で雑談を交わしながら、POP の作成や貸し出しなどの仕事をこなしている。


 半年ほどこの仕事をしていて面白いと思うのは、図書室を利用する人間の半分ほどが、いつも同じ顔ぶれだということだ。

 すでに顔なじみと呼べる利用者までいる。


 机で黙々と勉強する奴。

 本を返し、そのまま別の本を借りていく奴。


 そして、なぜか読んだ本の感想や解釈を、延々と俺へ語ってくる奴。


 利用の仕方は多種多様だ。


「でな、ここは作者が、こういう意図で書いたと思うんだよ。どう思う?」

「読んだことがないので、分かりませんよ。……先輩、いつも思っていたんですが、なんで俺に本の感想を話すんですか?」

「いい感じに相槌を打ってくれるから」

「えぇ……」


 三年生の男子生徒は、図書室へ来ると、いつも三十分ほど本について語り、満足して帰っていく。

 最初は瀬那に話しかけていたのだが、俺が、


『図書室でナンパはしないでください』


 と間に入ったところ、


『じゃあ、お前でいいや』


 と、俺に話しかけるようになったわけだ。

 単に見た目が話しかけやすそうだったから瀬那を選んだだけで、ナンパではなかったらしい。


 感想というか、独自の解釈自体は面白いのだが、毎回となると、さすがに面倒だったりする。


「ふう、今日は満足したわ」

「……そりゃ、良かったですね」

「受験前じゃん? こういう時期だからか、特進にいると息が詰まるんだよ。周りもピリピリしてるから、教室じゃこんな話できなくてさ。助かるよ」

「はぁ!? 先輩、特進だったんですか!?」


 あまりにも衝撃的な事実に、思わず叫んでしまった。

 隣の瀬那から、


「朔也くん、しーっですよ」


 と注意され、俺は立ち上がる。

 見える範囲にいた利用者へ軽く頭を下げ、騒いだことを詫びた。


「何をしてるんだ、朔也は」

「……先輩が特進だったことに驚いたんですよ。あと、いきなり朔也呼びですか」

「いや、お前の名前を知らないから、隣の女子が呼んだまま言っただけ」

「左様で」


 そう言って、先輩は図書室を出ていった。

 そういえば、俺もあの人の名前を知らない。


 ……それにしてもこの学校って、思っていたより変人率が高いな。


「朔也くん、たぶん、その『変人』の中に朔也くんも入っていますよ」

「……なんで俺が考えていることが分かるんだよ」

「ふふっ、なんででしょうね。とりあえず、勘ということにしておきましょうか」

「なんだそれ……」


 ……解せぬ。


「あ、いたいた!」


 先輩と入れ替わるように図書室へ入ってきたのは、この図書室の主である司書さんだった。

 俺と目が合うと、こちらへ小走りでやってくる。


「図書室では静かにしないと駄目ですよ」

「……朔也くん」


 先ほどのことは棚に上げ、俺は司書さんへ注意した。

 瀬那は呆れたように俺を見ていたが、スルーしておく。


「ごめん、ごめん。東條くんが作ったブックガイド、あるでしょ? あれが思ったより好評でね。付き合いのある図書館から、読書週間の展示に使ってもいいかって聞かれたのよ。どう?」

 

 司書同士のネットワークでもあるのだろうか。


「俺だけが作ったものではありませんが、評価してもらえたのは嬉しいですね。俺は構いませんけど、ほかの図書委員にも確認したほうがいいのではないでしょうか?」

「それは大丈夫。もう全員に訊いてきて、最後が東條くんだったのよ」

「左様で。それなら、問題ありません」

「ありがとう!」


 司書さんは、来たときと同じように、せわしなく図書室を出ていった。

 そんなに慌てなくてもいいだろうに。

 俺と瀬那は顔を見合わせ、少し笑ってしまう。


「どこに展示されるのでしょうね?」

「どこだろうな。有力なのは、ここから近い図書館だと思うけど……近くだと、どこがあったっけな」


 そんな軽い気持ちで考えていた俺たちだったが、実際に展示されたのは、県内最大規模の中央図書館に設けられた読書週間の特設コーナーだった。


 校内向けに作ったはずなのに、ずいぶんと大きな話になったものだ。


 ◇◇◇◇◇


 数日後。


 瀬那と一緒に登校していると、俺へじろじろと視線を向けてくる奴が多いことに気づいた。俺たちが付き合い始めたころの好奇の目とも、文化祭の一件のあとに向けられた目とも違う。

 触れてはいけないものを前にして、遠巻きに様子をうかがっているような――そんな目だった。


「なんでしょうね」

「……分からん」


 そのとき、視線を向けていたうちの一人、二年生の男子生徒がこちらへ歩いてきた。


 一葉虎真だ。


 周囲の話し声が、不自然なほど小さくなった。誰もがこちらを見ているのに、誰一人として近づいてはこない。

 俺の前で足を止めると、ためらうことなく虎真先輩は言い放つ。


「東條。お前、中学のとき、いじめられてたんだってな」


 嫌な笑みを浮かべた先輩。その言葉だけが、周囲のざわめきから切り離されたように、やけにはっきりと耳へ届いた。


 左耳のピアスに伸びかけた手を、俺はどうにか止め、瀬那とつないでいた手を反射的に力を込める。

 彼女のぬくもりだけを、必死に意識した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
いじめていた側ならともかく、なぜいじめられていた側がとやかく言われないといけないのか。
 頭は良くても、社会不適合な奴。 上へのイエスマンとしてしか出世出来ないタイプですなー、虎真兄。  手柄は自分、失策は部下。
感想一覧
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