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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第144話 詩織のお泊り④

 石田が去ったあと、俺たちは予定どおりお店へ向かった。


 さすがに、瀬那のバイト先であるムーンバックスへ戻るのは気まずいので、別の店だ。やってきたのは、和菓子を使った甘味を中心に扱っている店で、店員の制服も和風だった。


 ……少しだけ、文化祭で文芸部を手伝っていたときの瀬那を思い出した。

 制服の雰囲気は全然違うのに、なぜだろうな。


「そういえば、訊くタイミングがなかったので、ここで聞いちゃいますけど……どうして文芸部でコスプレしてたんですか?」

「コスプレじゃない。……着せられたんだ」

「ふふっ。朔也くん、とても似合っていましたよ」

「そこは聞かれてないだろ」


 瀬那は楽しそうに笑ってから、改めて説明を始める。


「文芸部には、生徒会長が所属しているんです。その方が以前から朔也くんを面白がって、よく構っていまして」

「生徒会長が?」

「はい。それに、文化祭では図書委員が文芸部を手伝うのが伝統らしくて、私たちも売り子を頼まれたのです」


 瀬那の説明は、実際に起きたことなので間違ってはいない。

 ただ、事情を知らない人には、これだけでは分かりづらいだろう。


「最初に指名されたのは瀬那だ。瀬那は断るつもりだったんだけど、生徒会長が俺まで巻き込んできた」

「巻き込んだというより、朔也くんの名前を出して、私が断りにくい状況を作ったのです」

「それを巻き込んだって言うんだよ」


 生徒会長は、俺をだしにすれば瀬那が断らないと分かっていたのだろう。

 そもそも、最初から俺まで売り子にするつもりだった気がする。


「それで、引き受けたあとに、あの衣装があると知りまして……」

「そのころには、今さら断れる雰囲気じゃなかった。要するに、二人そろって嵌められたんだ」


 口にしてから、この説明も微妙に分かりづらかったなと気づく。

 だが、それくらいテキトーな流れで売り子をすることになったのは事実だ。


「まあ、なんとなく分かってきたかも。とにかく、コスプレするつもりはなくて、無理やり着せられたってことね」

「そうだ」


 分かってくれて良かった。

 とにかく、自分の意思で着たわけではないと伝われば、それでいい。


「それにしても、二人とも似合っていましたよ! ツーショットなんて、何かのドラマのワンシーンみたいでしたし! ね、詩織ちゃん?」

「うん、良かったよ! だから、そんなに嫌がらなくてもいいと思うよ、義兄(にい)さん」

「……ほかの奴には広めてないだろうな?」

「も、もちろん」


 少し不穏な反応だったが……もう、あとの祭りか。


 この際、深く考えるのはやめよう。

 無駄に精神をすり減らすだけだ。


 俺は、運ばれてきた団子の三種盛り合わせに手をつけた。


 ここの売りの一つは、串団子を卓上の電気式焼き台で、自分好みに焼けることだ。

 焼いたあとは、セットのきな粉やあんこを好きなようにつけて食べるらしい。

 

 団子を焼き台に並べたあと、俺は焼き方の説明パネルを隅々まで読み込む。こういうものは、全部に目を通さないと気が済まないのだ。


「結構、焼けてくると香ばしい匂いがするな」

「……朔也くん」


 瀬那は、あんみつを頼んでいた。

 いくつかの果物と、ソフトクリームが乗っているタイプだ。


「……分かった。しょっぱいものも食べたくなるよな。焼けたらやるよ」

「……義兄(にい)さん」


 詩織は、かき氷を食べていた。

 この時期だと、少し寒いだろうに……仕方ない。


「少し温かいものも食べたほうがいいから、詩織にもな」

「……お兄さん」


 麻里ちゃんは、わらび餅と温かい抹茶のセットを頼んでいた。

 甘いものも温かいものも、すでに目の前にある。


「お前はなんだよ。もう足りないものはないだろ」

「いえ、そうではなくて……お団子、焦げていますよ」


 三人分の視線が、俺ではなく焼き台へ集中していた。

 そこでようやく、香ばしいを通り越した匂いが鼻に届く。


「先に言ってくれ!」

「三人とも、ずっと言おうとしていました」


 なんだと!?

 俺は三人の呼びかけを勘違いして、勝手に団子を振る舞うつもりになっていたのか……。


 減った皿と、黒く焦げた団子を見比べる。

 仕方なく、追加の団子を注文することにした。


 ◇


 ルナポートで過ごした時間は、いい気分転換になったようだ。

 家へ帰ると、中学生の二人は勉強を再開した。


 夕ご飯までは、まだ少し時間がある。短時間だけ集中して取り組むには、ちょうどいいのかもしれない。


 今日の夕飯は、朝から仕込んでおいたチャーシューと麻婆豆腐の予定だ。副菜にはナムルと冷ややっこ。それから中華スープ。


 うん、いいと思う。

 こういう、献立を決める瞬間が地味に好きだったりする。


 パシャ。


「……なんだよ」

「朔也くんが、また得意げな顔をしていたので、記念に♪」

「消せよ?」

「嫌です♪」


 瀬那は、スマートフォンをルームウェアのポケットへ入れた。


 無理やり取り返せば嫌がられるだろうし、そもそもロックを解除することもできない。

 ……つまり、詰みだ。


「変なところへ横流しするなよ」

「変なところでなければ、いいのですか?」

「……どこにも送らないでください」

「仕方ないですね。分かりました。私だけで楽しみます♪」


 たぶん俺は一生、瀬那に言葉では勝てない気がする。

 ……まあ、それで困ることはないだろうが。


「お兄さんたち……仲がいいのは分かりましたけど、できれば私たちのいないところでやってください。……いや、部屋に行かれると余計に気になるので、やるならここで!」

「……意味が分からんが、そういえば二人がいたな」

「ひどい!」


 麻里ちゃんは、俺と瀬那のやり取りに呆れていた。


 自分で言うのもなんだが、確かに少しバカップルじみたやり取りだったかもしれない。

 部屋へ行かれると気になる、という気持ちも……まあ、分からなくはない。


 対照的に、詩織はこちらを気にすることなく、勉強に集中していた。

 俺たちの会話も耳に入っていないのか、一心不乱にノートを書き進めている。


 ペン先が、普段より少しだけ強く紙を叩いているように見えた。気合が入っているということだろうか。


 ここまで集中している詩織を見るのは、初めてかもしれない。何か、気持ちの変化でもあったのだろうか。


 俺は勉強の邪魔をしないように気をつけながら、瀬那と夕飯の準備を進めた。


 ◇


 翌日、昼まで勉強した二人は、家へ帰ることになった。

 明日は学校なので、少し早めに帰宅したほうがいいからだ。


 せっかくなので、黄隆学園の近くを通って駅へ向かうことにした。


 学校のそばまで来ると、運動部が活動している声が聞こえてくる。

 詩織は校舎を見上げながら、ぽつりと呟いた。


「……私、この学園に入れるでしょうか」


 たぶん、誰かに答えを求めたわけではないのだろう。

 それでも、俺は答えることにした。


「詩織の学力なら、よほどのことがない限り大丈夫だよ。総合進学コースなら、なおさらな。……もちろん、麻里ちゃんも」

「ありがとうございます。お兄さんと瀬那さんは、学校、楽しいですか?」


 俺にとっては、少し答えにくい質問だった。

 ……でも、変に取り繕っても仕方がない。


「俺はこんななりだから、学校で浮くこともある。最初のころは、それでいいと思って、特に人と関わるつもりもなかったんだけどな」


 入学したばかりのころを思い出しながら、校舎へ目を向ける。


「それでも、いつの間にか、それなりに友達ができたよ」

「可愛い彼女さんもできたもんね」


 詩織は、瀬那のほうを見ながら言った。

 その瞳は、穏やかで優しいものだった。

 瀬那も、それに応えるように柔らかく微笑む。


「ま、まあ、それもあって、最近は楽しいと思えるようになってきた。入学したときには、考えられなかったくらいにな。俺でもこうなんだから、二人なら、きっと楽しく過ごせると思うぞ」

「そうですね。私も、入学当初には考えられないほど、楽しい学校生活を送っています。もちろん、朔也くんがいるから、というのもありますが……思っていた以上に、委員会活動や行事も楽しいものですよ」


 瀬那の言葉を聞いて、詩織と麻里ちゃんは頷いた。


「そうですか……。それなら、私もここで学校生活を楽しんでみたいです」

「私も!」

「はい。そのためにも、あともうひと頑張りです!」

「「はい!」」


 二人の元気な返事を合図に、俺たちは駅のほうへと歩き始めた。

 詩織の声には、さっきまでの不安げな響きはもうなかった。


 次に二人がこの家へ泊まりに来るときは、受験の前日だ。

 そして、その次は――黄隆学園の制服を着たあとであればいい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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170~173話の感想。 詩織ちゃんと麻里ちゃんのお泊まり会を長い話数で書いて頂ありがとうございます。 楽しみにしてた事でより一層おもしろかったです。 女子トークで過去の経歴で三人がより仲良くなったり…
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