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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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SS 東條 朔也:寝起きの彼女

 瀬那は規則正しい生活をしている。

 朝起きる時間は平日や休日関係なしに、いつも同じだ。

 夜寝る時間も特に何もなければ、大体同じ時間に布団に入る。


 それもあって、俺も同じようなリズムになるのは必然だと言って良いだろう。

 俺が作業していて先に寝てもらうことはあるけど、それはたまにあるぐらいだ。


 昨夜はシリーズ物の面白い映画を見始めてしまい、次の日が休日ってこともあり、いつもより遅くまで起きていた。

 無理に付き合わなくていいのに、瀬那も隣で最後まで一緒だった。

 ……途中から舟を漕いでいたのは可愛らしかった。


 そのせいだろうな。いつもより少しだけ遅い時間に目が覚めた俺は、隣にいる彼女がまだ寝ているのに驚いた。


「瀬那にしては遅くまで観ていたからな」


 小さな寝息を立てている彼女を見て、微笑ましく思いながら、起こさないように静かにベッドから降りようとしたが……。


 ガシッ!


 まるで起きているのではないかと思うぐらいの力で俺の腰に抱き着いてきた。ご丁寧に、両手の指を絡めている。


(朝はその位置は駄目だ)


 とにかく、その手を外そうと、俺に比べたら遥かに華奢な手の指を、折れないように優しく、一本ずつ外していく。


 ……人差し指。

 ……中指。

 ……薬指。


 ガシッ


「……」


 もう一度だ。


 ……人差し指。

 ……中指。

 ……薬指。

 ……小指。


 ガシッ!


「……瀬那、実は起きているのか?」

「……すぅ……すぅ」


 反応は無いし、寝息のリズムも変わらない。……どうやらまだ寝ているようだ。

 もう一度、手を外そうと彼女の手に触れた。


 がばっ!


「おぉう!」


 急に手が離れたと思ったら、瀬那が上半身を起こした……びっくりした。


「おはよう、瀬那」


 俺の呼びかけに、彼女はまだ眠たげな目を瞬かせる。


「……」

「どうした?」


 じっとこちらを見つめてくる彼女の顔が、次第に緩んでいった。


「……へにゃ」

「!?」


 いつもの瀬那なら、絶対に見せない顔だった。

 警戒心も、遠慮も、優等生の仮面も、全部布団の中に置き忘れてきたみたいに、ふにゃりと屈託のない笑顔を浮かべている。

 無防備すぎるその表情は、寝起きの頭には刺激が強すぎた。


 一気に激しくなる動悸に戸惑いながら、俺は瀬那に悟られないよう、こっそりと深く息を吸い込んだ。


 彼女をよく見ると、いつもよりぼーっとしているようだ。

 熱でもあるのではないかと心配になり、俺は手を彼女の額へと伸ばした……が、寸前のところで彼女に捕まった。


「瀬那?」

「……さくやくんのお手ては、いつも暖かくて安心しますねー」


 そう言った彼女は俺の手のひらを、自分の頬に当てて微笑んだ。

 そして、そのまますりすりと自分の頬に擦り付ける。

 俺の手のひらで、瀬那の頬がふにゃりと沈む。その柔らかさに、俺の思考も一緒に沈みかけた。


「……お前、寝ぼけているだろ?」

「……寝ぼけていませんよ……そう言えば、さっきまで着ていたライオンさんはどうしたのですか?」

「何を言っているんだ!?」


 頬をすりすりしたまま、おかしなことを言う瀬那。

 当たり前だが、さっきどころか、俺はライオンの着ぐるみなんて着たことは一度もない。

 俺は彼女の言葉をどう受け取っていいかわからず、思わず瀬那の顔をまじまじと見た。真剣な顔をしているのが、余計に困った。


「夢でも見たんじゃないか?」

「そんなことはないですよー。ライオンさんのさくやくんは、私をギューって抱きしめてくれました。こうやって――」


 そう言った瞬間、瀬那が俺の胸へと文字通り飛び込んできた。

 細い両腕で俺の背中に回され、思いきり抱きしめられる。ダイレクトに伝わる瀬那の柔らかい体温と、ふわりと鼻をくすぐる彼女特有の甘い匂いに、俺の頭は一気に混乱した。


「――さくやくんの匂いがします」

「そりゃそうだろ」


 自分から突撃しておいて何を言っているんだ、この子は……。

 普段の優等生っぷりはどこへやら、こんなふにゃふにゃに溶けた瀬那は初めて見るかもしれない。

 俺の胸元に顔を埋めたまま、瀬那が小さく鼻を鳴らした。


「……(くんくん)」

「……なに、匂いを嗅いでいるんだ?」

「安心します。大好きな匂いです」

「……っ」


 俺の動揺を無視して、尚も匂いを嗅いでいる瀬那。

 それだけに留まらず、彼女の顔は俺の胸元から少しずつ這い上がってきて、ついには首元へと至る。


 はむ。


「!?」

「はむ……はむ……はむ」

「な、何やってるんだ、お前っ!?」

「良い匂いがするのでしたら、良い味がするのかと思いまして……」


 小刻みなリズムで俺の首筋を甘噛みしてくる瀬那。

 衣服越しではない生身の感触に、俺の理性が秒読みで消し飛ぶ音が聞こえた。これは本気で危険だ。

 どうにか穏便に彼女を剥がそうと思考を巡らせた――その瞬間。


 ぺろ。


 刹那――思考が白く塗り潰された。


(な、舐めただと……っ!?)


 俺は反射的に彼女の両肩を掴み、バッと引き剥がした。


「何をするんですかっ」

「そのセリフは俺のセリフだ。……とりあえず、落ち着け」

「むぅー……わかりました。さくやくんは抱きしめたいのではなく、抱きしめられたい気分なのですね」

「は?」


 なぜそうなる。

 こちらの困惑など一切お構いなしに、瀬那は俺の頭を両手で包み込むと、そのまま手前に引き寄せて――


「!?」


 ――彼女の、豊かな胸元へと容赦なくダイブさせた。

 まずい。これは、起きている時の瀬那の比じゃないくらいに危険すぎる。

 押し返そうにも、柔らかすぎる感触と「無理に力を入れて怪我をさせてはいけない」という考えが邪魔をして、俺の手は虚空であたふたと泳ぐことしかできない。


 そんな俺の内心のパニックを知ってか知らずか、瀬那は俺の頭を優しく撫でながら、心地よさそうに目を細めた。


「さっきみたいに私に甘えて良いのですよ?」

「さっきっていつだよ……」

「……いつでしょうか?」


 ダメだ、この子、早く何とかしないと……。


「こうすると安心するでしょ? 私もさくやくんにこうしてもらうと、すごく安心します。だから、いつでもしてあげますから、いつでも言ってくださいね」

「……あぁ」


 寝ぼけているのはわかる。

 それはわかるがこの魅力には逃れられない。

 この優しさと甘い匂い、そして頭を包み込む最高に心地いい感触から、どうしても逃れられない。

 いや――逃れたくないと思ってしまっている自分がいた。


「さくやくん、しゅきです~」


 常に礼儀正しい言葉遣いのいつもとは違う、幼い感じで言葉を出す。

 そのギャップに俺は言葉が出なかった。


 寝ぼけた瀬那は反則だ。

 あんな顔、俺以外に見せるなよ――そんな、意味のわからない独占欲まで湧いてきた。


 頭を撫でるのをやめた瀬那は、そのままぎゅーっと先ほどより強く胸元に抱き寄せる。

 しばらくの間、その姿勢が続いたわけだが……いい加減、俺も限界だ。


「さくやくん、さくやくん……朔也くん?」


 なんとなく、本当になんとなくだが、瀬那のスイッチが入った感じがした。


「はい、朔也くんです。俺も好きだよ。いや、『しゅき』と言った方がいいか?」

「……えっ」


 しばしの沈黙。

 その間、瀬那は完全に固まっていた。


「えっと……」


 それから、記憶が順番に今の状態に追いついてきたのだろう。

 瀬那の体温が上がってきているのがわかる。今の俺からは見えないが、たぶん、白かった綺麗な頬が、赤く染まってきているのだろう。


 バッ!


 今度は瀬那の方が俺の両肩を掴んで引き剥がしてきた。

 やっと、彼女の顔が見えると思ったら、やっぱり頬も瞳も赤かった。

 目が泳ぐようにあちらこちらに視線が移動しているのがわかる。

 そして、両手で顔を隠した彼女は、


「今の全部忘れてください!」


 と、叫んだ。


「無理だな」


 すかさず俺は言う。


「お願いですから!」

「正直、録音したかった。録画ならなおいいな」

「朔也くん!」


 完全に限界に達したのだろう。彼女は勢いよく掛け布団の中に隠れてしまった。全身とはいかず、お尻から下は出ている状態だ。


(これはこれで、面白い状態だな)


「先に部屋を出て行ってください!」

「俺の部屋なんだけど?」

「今だけお願いします!」

「はいはい」


 これ以上は可哀そうに思った俺は、そのまま彼女の言う通り部屋から出た。

 扉の閉まる音が聞こえたのだろう。中からバタバタとベッドの上で足を動かしている音が聞こえる。


 俺はやり返したくなって、とっさに、


「俺も同じことしたいよ」


 と、瀬那に聞こえるくらいの声で言った。

 すると、彼女は「もう!」と大きな声をだして、さらにバタバタが強まった。


 俺は扉の外でそれを聞きながら、小さく笑う。

 ……正直、もう一回くらい見てみたい気持ちがある。今夜も、映画を観ようかな。




 ― 東條 朔也:寝起きせなちー 完 ―



 こちらは、コメントでリクエストをいただいたので書かせていただきました。

 少しやり過ぎたかも?

 ※ コメントをくださった方のお名前は、念のため伏せさせていただきます。


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