SS 文化祭の写真流出事件:前編
― 注意 ―
本編の流れを考えると少し矛盾が生じますが、
SS という、少し別物と言うことで許してください。
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俺の知らないところで、後夜祭のスクリーンに俺の(断じてコスプレではない)衣装姿の写真がデカデカと映し出されたらしい。
他の連中の衣装姿も晒されたようだが、瀬那と俺の写真に対する会場の反応が特に凄まじかったと、後から浩紀と和人に聞かされた。
瀬那はわかる。
彼氏という身内のひいき目を抜きにしても、学年一……いや、学校一の美少女だと言って差し支えない。
そんな彼女が普段は見せない非日常的な格好をしていたのだ。お祭り騒ぎになるのは容易に想像がつく。
内心、あんまり良い気持ちはしないがな……。
だが、なぜ俺の写真でそこまで盛り上がるのかが本当に意味不明だ。
浩紀たちの証言によれば、黄色い悲鳴が多かったらしい。
例の乙女ゲームのせいなのだろうが、あのゲームはいつの間にそこまで広まっていたんだ。
「……解せぬ」
「まだ言っているのですか、朔也くん」
「だってよ……」
今日は文化祭が終わってから二日目。
俺は隣を歩く瀬那に、朝からずっと女生徒の視線を浴び続けている現状について愚痴っていた。
入学当初の『忌避の目』でもなければ、瀬那と付き合い始めてからの『羨望の目』とも明らかに違う。
なんと言うか……。
『次はどんな姿を見せてくれるの?』
そう言いたげな、期待に満ちた目なのだ。
……頼むから勘弁してくれ。
「はっきり言って、入学してから一番居心地が悪い」
「わからなくはないですが、大丈夫ですよ。一時的なものです」
「そうだと良いんだが……」
「ですが……」
瀬那が何かを言いかけ、そのまま口を閉じた。
気になって横を見ると、彼女はわずかに唇を尖らせていた。
「なんだよ?」
「いえ。朔也くんの良さを他の方にも知ってもらえるのは、喜ばしいことだと思っています」
「良さなのかわからんが……思っている割には、不満そうだな」
「……少しくらい、複雑な気持ちになっても良いではありませんか」
瀬那は俺から顔を逸らし、繋いでいた手に少しだけ力を込めた。
「私しか知らなかった朔也くんの姿を、大勢の方に見られてしまったのですから」
「いや、あれを瀬那だけに見せた覚えはないぞ」
「そういう意味ではありません」
即座に否定された。
どういう意味なのかは、なんとなくわかったので、それ以上は訊かないでおく。
俺としても、瀬那の袴姿を他の奴らが騒いでいたと聞いて、あまり面白くはなかった。つまり、お互い様ということなのだろう。
もっとも、その期待は別の方向から裏切られることになる。
校舎へ入り、廊下を歩いていると、すれ違った女子生徒たちの話し声が耳に入った。
「昨日言ってた写真、手に入った?」
「まだ。司書の方、人気らしくて全然回ってこないんだよね」
「女学生姿の南雲さんとのツーショットもあるらしいよ」
「それ、絶対欲しい!」
俺が足を止めると、二人は露骨に顔を逸らし、早足で去っていった。
「……瀬那」
「はい」
「今の、俺たちのことじゃないよな?」
「残念ながら、私たちのことだと思います」
俺は一つため息をついた後、疑問に思ったことを言う。
「司書の写真が回ってこないって、どういう意味だ?」
「さあ……?」
瀬那は首をかしげているが、その表情は少しだけ引きつっていた。
俺の聞き間違いであってほしい。
そう思いながら教室へ向かったが、嫌な予感は消えてくれなかった。
◇
さらに、その日の昼休み。
教室の隅で、数人の女子が一枚の写真を囲んでいた。
「ちょっと、折らないでよ。それ、保存用なんだから」
「保存用ってことは、観賞用もあるの?」
教室の隅で、数人の女子が一枚の写真を、まるで宝物でも扱うように囲んでいた。
「当然でしょ」
「布教用は?」
「それは今度追加する予定」
「何を布教するつもりなんだよ……」
思わず呟いた俺の声が届いたのか、女子たちが一斉にこちらを見た。
俺が視線を向けた瞬間、写真は教科書の間へと隠される。
「……何を見てたんだ?」
「な、なんでもないよ?」
「そうそう、普通の写真!」
「普通の写真なら隠す必要はないだろ」
「乙女には秘密の一つや二つあるんだよ、東條くん!」
強引に押し切ると、女子たちは教科書を抱えたまま、逃げるように教室を出ていった。
……まさかな。
「俺も聞いたぜ。朔也の写真、下手なアイドルより入手困難らしいぞ」
近くで様子を見ていた浩紀が、妙に楽しそうな顔で言ってきた。
「嬉しそうに報告するな」
「いや、親友としては誇らしいじゃん?」
「じゃあ、お前の写真と交換してこい」
「俺のは需要がないんだよなー。世知辛いぜ」
「お前なら普通にありそうだけどな」
「慰めが逆に刺さる!」
浩紀の戯言を無視し、嫌な予感を覚えながら席へ戻る。
すると、和人が難しい顔をして俺を待っていた。
「なあ、こんな写真を手に入れたんだけど」
そう言って、和人は俺の机に数枚の写真を置いた。
そこには文化祭での瀬那と俺が――要は、売り子の衣装を着た『大正浪漫風の女学生袴』の瀬那と、『クラシカル司書風』もとい『アーヴェル司書』状態の俺が写っていた。
後夜祭のスクリーンをスマホで撮影したようなものではない。
どれも画質が良く、被写体である俺たちにしっかりと焦点が合っている。
一枚目は、俺が部誌を購入した客に袋を渡しているところ。
二枚目は、瀬那が袴の裾を押さえながら、来客へ頭を下げているところだった。
そして三枚目。
俺が商品棚を整理している横で、瀬那がこちらを見つめている。
客に向けていたものとは違う、随分と柔らかい笑顔だった。
不覚にも、一瞬だけ見入ってしまった自分に舌打ちしたくなる。
「……なんで、こんな瞬間まで撮られてるんだよ」
「良い写真だと思うけどね」
「そういう問題じゃない」
思わず写真を裏返す。
こんなものを知らない奴らに見られていると思うと、衣装姿を晒される以上に落ち着かない。
「ちなみに、それが一番人気らしいよ」
「今すぐ全部回収してくれ」
「俺に言われても困るんだけど……」
和人は苦笑いを浮かべながら、裏返した写真をもう一度表に戻した。
「……なんだこれ? なんでこんなもんを和人が持っているんだよ?」
「やっぱり知らなかったんだね」
「それ、和人が買ったのか?」
慌てて手を振って否定する和人。
「違うよ。バスケ部の知り合いが持っていたんだ。俺が朔也と仲が良いと知っているから、見せてきた」
「そいつは、どこで手に入れたんだ?」
「同じクラスの生徒から買ったらしい。ただ、その生徒も別の人から買ったと言っていたよ」
すでに何人もの手を渡っているということか。
「値段は?」
「一枚三百円。南雲さんとのツーショットは五百円だったらしい」
「勝手に人の写真で商売するなよ……」
呆れを通り越して、頭が痛くなってきた。
俺の知らないところで、俺の肖像権が勝手に商品化されている。
文化祭とは、いつからこんな無法地帯になったのだろうか。
「それで、心して聞いてほしいんだけど……どうやら、この写真が裏でかなり出回っているらしい」
「はぁ!?」
俺は教室中に響くくらいの大きさの声で叫んだ。
学校でこんなに叫ぶのも、入学以来初めてかもしれない。
クラス中から視線が集まり、その中の何人かが露骨に顔を逸らした。
お前ら、まさか持っていないだろうな。
「い、意味がわからん!」
「まあ、そうなるよね……。調べてみようか?」
「ああ、頼む。できれば早急に。俺も調査してみる」
こういう悪ノリを嬉々として実行しそうな人間に、一人だけ心当たりがある。
俺はとにかく、この件に関係していそうな彼女へ問いかけに行くことにした。
そう、規格外生徒会長の元へ!
もう、聞くだけ野暮な気もしたが、確かめないわけにはいかない。
興がのって長くなったので、前後編です。
後悔はしていません!
22026.07.21 誤字というか、和人の朔也と瀬那の呼び方を修正。ストーリーの変更はありません。




