第140話 勉強会(一年二学期 中間テスト)
文化祭が終わった翌日は振替休日だ。
平日の休みとなれば、遊びに行きたいところだが、俺たちはそうはいかず、俺の家に集まって勉強している。
なぜか?
答えは簡単だ。
今週末から中間テストという現実がある。
文化祭の余韻に浸る間もなく、現実という名の参考書が机の上に積まれていた。
「なんか理不尽な気がするー」
先ほどまで数学を勉強していた浩紀が、机にぶっ倒れていた。
その気持ちはわからなくもないが……。
この時期に文化祭をするのは伝統らしいので、日程を変更することは今後もなさそうだ。
以前はもっと神事めいたこともしていたらしいが……。
なぜやめたのかは謎で、誰も知らない。
「仕方ないだろ、こればっかりは。ただ、来年は大丈夫じゃないかな。二学期制になることだし」
とにかく今年はどうしようもないので、諦めて勉強するしかない。
幸いと言っていいのかわからないが、テストは金曜日からだ。一日目を終えれば土日を挟めるので、そこで多少は巻き返せる。
用事があって雫と斎藤はいないが、代わりと言ってはなんだが、金森と木内が参加していた。
どうやら金森の勉強が追いついていないらしく、瀬那に泣きついたらしい。
……俺の家に来る人間がどんどん増えている気がする。
さすがにそろそろ、図書館や学校でやった方がいいのではないか。
それに加えて――
「テスト勉強は大変ですねー」
――エレノアがいる。
和人が休みだと知って遊びに来たらしいのだが、「勉強する必要があるから」と断ると、「こちらのテストが気になりますね」と、ついてきてしまったらしい。
今は日本語の勉強をしつつ、俺たちと同じ問題を解いている。
数学や理科だからなのか、普通に解けているのだ……解せぬ。
ちなみに、エレノアを最初に見た時の女性陣の反応はまちまちだった。
瀬那と木内は普通に挨拶をしていた。
俺は最初、木内が和人に惚れているのかと思っていたのだが、別にそこまでではないらしく、トラブルにならないようで少し安心した。
残りの女性陣は、文化祭で和人が連れてきていたという話を聞いていたためか、興味津々に質問をしていた。
エレノアはそれに気さくに答えていて、和人が何度も止めに入っていたのが印象的だった。
……和人も女性に振り回されるタイプだったんだな。
そんなこともあり、すでに打ち解けている。
ちなみに、瀬那がここで暮らしていることは、新たに教えていないのでバレないようにしないといけない。
金森あたりが知れば、嬉々としていじってくることだろう。面倒になる未来しか見えない。
「だー、疲れたよー。瀬那ー」
浩紀と同じく机にぶっ倒れた愛莉は、ごろごろと転がって、瀬那の膝の上に頭を乗せた。
そして、そのまま枕にする。
「倉木、それ良い」
それに感銘を受けたと言わんばかりに反応した金森も、瀬那の膝へ転がっていった。
……瀬那の膝を奪い合ってやがる。
だが、許さん。
「おい、そこは俺のだから離れろよ」
「独占禁止法って知っている?」
「知っているし、多分この状態には適用されない法律だ、アホ」
俺は二人の肩をつかみ、瀬那の膝からそっと引き剥がした。
二人は「セクハラー!」と抗議していたが、聞かなかったことにする。
瀬那は困ったように笑いながら、膝の上を軽く払った。
「皆さん集中力が切れたようなので、お茶にしましょうか」
瀬那は立ち上がって、お菓子の準備を始めた。
俺もそれについていって、一緒に準備を始める。
その時、金森がニヤニヤしているのが目に入った。
「……なんだよ」
「……なるほど。南雲、本当に入り浸ってる。準備に迷いがない」
「まあ、ほとんど毎日いますからね」
「……実はここに住んでる?」
俺と瀬那が一瞬……ほんの一瞬だけ、ピタッと止まってしまった。
やらかした。
そう思った時には、もう遅かった。
「え? ホントに!?」
「アホか。瀬那も一人暮らしだから、一緒にご飯を食べた方が経済的なんだよ」
「ふーん」
納得していない顔をしているが、断定できる証拠はない。
……瀬那の部屋には鍵を取り付けたから、入ることもできないしな。
俺は話題を流すように、人数分の紅茶を並べた。
茶葉の香りが広がると、エレノアがカップに視線を落とす。
「この紅茶、美味しいですね。茶葉も、私が普段飲んでいるものより良いです。けれど、それ以上に淹れ方がいい。ふふ、なかなかやりますね」
「ありがとうございます」
瀬那が少し嬉しそうに微笑んだ。
その横で、エレノアはクッキーを一つ手に取る。
「このクッキーもグッドです!」
「このクッキーは朔也くんが作りましたよ」
「……ワオ」
そんなに驚かなくてもいいではないか。
まるで信じられないものを見ているような目で見ないでもらいたい。
「エレノア。朔也は料理が上手だからね」
「……なるほど。サクヤはクラフトマンということデスネー。せっかくなので、アクセサリーも見せてください」
「何がせっかくなのかわからんが……別にいいけどな」
俺はエレノアと和人を連れて、作業部屋へ移動した。
後ろから金森もちゃっかりついてきているが、まあいいだろう。
「ここだ。機材に触ると怪我するから気をつけろよ」
「イエス。勝手には触りません」
「ほー、雰囲気がある部屋」
感心する金森を横目に、エレノアは俺の作品が置いてある棚をじっと見ていた。
金森は触っていいと言った作品をまじまじと見て、「ほー」や「なかなかの腕前」とつぶやいている。
お前は良し悪しがわかるのか?
エレノアはしばらく作品には触れず、ただ見ていた。
やがて、その視線が鍵のかかっている棚で止まる。その瞬間だけ、エレノアの目つきが変わった。
「……何か気になるのか?」
「この棚の中、見せて。気になります」
「……なんでだ?」
「フィーリングです。ここに良い物があるって、そう告げています」
察していたが、やっぱりそうなんだな。
「悪いが、ここのはまだ未完成だから見せられない」
「……どうしても、ノー?」
「ああ、どうしてもだ」
「……ふーん。なら、今はそういうことにしておきます」
とりあえず納得したのだろうか。
エレノアは棚から視線を外し、部屋を出ていった。
和人も棚を気にしているようだったが、俺から話すことではない。
「これ、かっちょいい。ちょうだい?」
俺たちのやり取りを知ってか知らずか、金森はマイペースにアクセサリーを選んでねだってきた。
手に持っていたのは、小さな棘が二つだけついたシルバーのイヤーカフ。
無駄に、俺が彼女に抱いていた印象にぴったりだったのには笑ってしまった。




