第135話 文化祭:二日目⑤
Side:南雲 瀬那
クラス数からすると、出し物は少ないイメージがありますが、予想以上に部活や同好会の方々が、宣伝目的で出店していたりイベントを行っています。
その中でも異彩を放っている一つが『摩訶不思議研究会』です。
金森さんにチケットをいただいたことに加え、私が興味があるのを朔也くんが気づいているらしく、『摩訶不思議研究会』なる同好会が出店している、占い屋へと足を運びました。
入り口の看板に『摩訶不思議研究会・占い屋』と、チケットと同じく達筆な文字で目立つように書かれています。
もっと『摩訶不思議』感を出した方が良いのではないでしょうか。見る人が見れば、どちらかと言うと書道関連に見えなくもないです。
思っていたよりは人気らしく、列は十人ほどです。文化祭の出し物にしては、なかなかの盛況です。
私たち二人も並ぶと、訝しげな目で見られました。……どういうことなのでしょうか?
しばらくして順番になり、空いている席に座ります。
前にはフードを被った方が座っていました。
私たちの間の机には、大きな水晶球がひとつ。表面に何か模様が彫られているようです。
「……帰れ!」
フードの奥から低い声が飛んできた。思わず朔也くんと顔を見合わせる。
「どうしてでしょうか?」
「ここは恋愛占い……片思い専用のな! だから、今話題のお前たちは関係ないところだよ!」
フードを深く被っているので性別はわかりませんでしたが、声から察するに女性のようです。
ただ、それは聞いていませんよ。いただいたチケットには『占い』としか書いていないのですが……。
「すみません、それは知らなかったです」
「もらったチケットには『占い』としか書いてなかったのだけど」
そう言った朔也くんは、金森さんからいただいたチケットを渡しました。
それを見たフードを被った方が「くっ……!」と何か悔しそうに言っています。
チケットをじっと見て、フードの方は何かを堪えるように黙っていた。
「誰から貰ったかは知らないが、このチケットがあるなら仕方ないな。なんでも占ってやる」
(何でしょうか、この裏メニューみたいな流れ……)
「あぁ……ありがとうございます? 瀬那、何か占ってもらいな」
投げやりに朔也くんから言われましたが、これは彼が面倒になったに違いありません。
「分かりました。でしたら、私たちの相性を占っていただけますか?」
「まじか」
「へぇ〜南雲さんって思ったより度胸あるのね。怖くてできない人の方が多いのに。いいわ、面白そうね」
なぜか面白がられています。
私と朔也くんの相性が悪いとは思っていません。いませんが、占いでどう見られるのか気になっています。
「相性が最悪という結果が出ても、忖度しないわよ?」
「えぇ、大丈夫ですよ。もし、最悪だったとしても、それに関係なく仲良くするだけですから。最悪なら、これより悪くはならないでしょ?」
「……ふふっ、意外にも変な子だったのね南雲さんって。いいわ、やりましょう……とりあえず、そのメガネを外して東條くん」
「なんでさ?」
予想外の言葉だったのでしょうね。怪しむような目をしてフードの方を見ています。
私には分かります。あの目は納得できないから従いたくないって目です。
「なんでかそれがあると、ちゃんとあなたの目が見えないのよ、フィルターがかかっているみたいに」
「?」
朔也くんのメガネのレンズは無色透明です。 UV カットくらいはついているかも知れませんが、人間の目で違いがわかるようなものではないです。
当事者の朔也くんは少し目を細めて思案しているようですね。
だけど、フードの方は「ほれ、早く。取らないとできないよ? 彼女さんが可哀想よ」と引かないので、仕方なくメガネを外していました。
「……っ」
ほんの少し、ほんの少しです。普段の彼を知っているからこそわかる、そのくらいの変化でした。彼の表情が、かすかに揺れたのです。
……何があったのでしょうか。
「それじゃあ、始めるぞ。……うーん、ぬーん」
フードの方は目の前の水晶に手をかざして何か唸っています。ここだけ見ると本格的な感じがします。
「うーん、おーん、どぅー」
そんな風に唸り続けてたっぷり三分。
「ふぅ……出たわ。あんたたち、心配しなくても相性は抜群にいいわよ。切っても切れないぐらいの強い絆の線が繋がっているわ。それも最近じゃないかしら。お互いに強く繋がろうとしてる感じ。……ムカつくけど」
「やった!」
思わず声が出てしまい、私は小さくガッツポーズを取りました。『強い絆』、いいですね。さっきは『最悪でも』とは言いましたが、それは本心です。でも、相性が良いならそれはそれで良いのです!
「喜ぶじゃない。さっきの威勢はどうしたのかしら?」
「良い分には嬉しいですよ」
「それもそうね。……でもね、あと何度も試練が二人の邪魔をしてくるって出てるわ。それを超えてこその相性ってね」
「……試練ですか」
朔也くんの試練らしきことは何度も乗り越えてきた感じがします。ストーカーに始まり、変な噂、それに茶々を入れてくる学校関係者。そして、実家の人たち。……これ以上、増えるのはご遠慮してほしいですね。
「ま、仲良い近くの人も手を貸してくれるってでてるし、あなたたち次第でしょ」
「そんなこともわかるのですね」
「そうなのよ。この水晶使うと、なんかビビッとくるのよね」
「ビビッと……」
この方が言っていることはよくわかりませんが、いい結果が出たので良しとしましょう。
ただ、隣の朔也くんが何かを気にしている様子なのが気になります。
「朔也くん……嫌でしたか?」
「何が? ……あぁ、相性のことか、嫌なわけないだろ。……ただ、ここで俺が大喜びをしていたらおかしいだろう」
「くすっ、そうかもです」
私たちはフードの方にお礼を言って部屋を後にしました。
列は私たちが来た時よりも増えている状態です。
「ここも人気があるのですね」
「ここまで人気なら、同好会じゃなくてもいいじゃないか?」
「確かにそうですね」
取り留めのない会話をしながら、他のクラスの出し物へと向かうことにしました。
「たしか、軽音部がバンドをするらしいです。バンドって一度も見たことが無いので行ってみても良いですか?」
「もちろん。俺も見たことないから少し興味あるよ」
「朔也くんの見た目でないのもおかしなものですね♪」
「おまえな……」
ふふっと笑うと、彼が苦笑いを返してきました
ただ、単にこのどうでも良い、けれどちゃんと楽しい会話が、私にとってすごく素敵だと思っています。試練があると言われましたが、ただそれだけの、この時間が、私には何より尊いのです。
この幸せが、ずっと続けばいいと思っていました。
そう考えていました――
「久しぶりね、鳳くん」
――冷たい、されどはっきりとした女性の声が、朔也くんの旧姓を呼んだのは、その時でした。
私たちは同時に声がした方へ振り返ると、そこにいたのは少し茶髪の混じった、長い髪の女の子です。
その人を見た瞬間に、繋いでいる朔也くんの手にギュッと力が入ったのがわかりました。それに加え、空いている手でピアスを触っています。
……私はすべてを察しました。
「久しぶりって言っているじゃない。会いたかったわよ鳳くん」
「……久しぶりだな、俺は会いたくはなかったよ、鳴鷹」
鳴鷹……!?
……朔也くんの因縁の相手。
「まさか、こんな進学校に通っているとはね、不良のあなたが。しかもそんな可愛い彼女まで作って。……彼女さんは知っているのかしら、あなたが中学の時の情けない姿って」
(……朔也くんの、過去)
「それに、同級生を退学まで追いやった酷い奴だって」
勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべ、私の反応を値踏みするように見てくる鳴鷹さん。
動揺のあまり——朔也くんの口調に、かすかな迷いが滲んだ。
「それは――」
迷いは、ありません。言いかける彼の前に、私は迷うことなく一歩、踏み出した。
繋いだ手の力をそのままに、冷徹な視線を鳴鷹さんへと突き刺す。
「もちろん存じていますよ。何があったかのすべてです。――そして、あなたが私と違って、朔也くんに無様に振られたってこともです」
「……なっ!」
みるみるうちに顔を真っ赤に染め、絶句する鳴鷹さん。
残念でしたね。そんな言葉で、私と彼の絆が揺らぐとでも思ったのでしょうか。
朔也くんの敵は、私の敵ですから。一歩も引くつもりはありません。




