↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/280

第130話 文化祭:一日目の夜

 二日目の開催はないと思っていた。

 少なくとも、誰もがそう考えていたはずだ。


 けれど最終的に、文化祭二日目は条件付きで開催されることになった。


 ・事故の原因となった特進コースのデモンストレーションは即時中止。

 ・五階渡り廊下と、高所に関わる展示はすべて使用禁止。

 ・校内の装飾や案内板も、足場になりそうなものは撤去。

 ・各階に教師と生徒会役員、文化祭実行委員を増員し、巡回を強化する。

 ・赤口先生の謹慎。


 そこまで対策を取った上で、ようやく二日目の開催が決まったらしい。

 これには理由がいくつかある。


 まず、もし二日目を全面中止にすれば、事故の当事者である男の子やその家族が、必要以上に責任を感じることになる。

 場合によっては、周囲から「あの子のせいで文化祭がなくなった」と見られてしまうかもしれない。

 それを避けたい、という考えもあったらしい。


 俺としても、これが原因でいじめに繋がるようなことだけは嫌だった。


 それから、俺自身の怪我が擦り傷と軽い打撲程度で済んだことも大きかった。

 もちろん、教師陣からは危険行為としてきつく注意されたが、あの場で俺が動かなければ、男の子がどうなっていたかは誰の目にも明らかだった。


 だから処罰という形にはならず、校長からは形式的な注意と、非公式な感謝を受けることになった。


 そして、もう一つ。

 これが一番大きい。


 今回の事故は、特進クラスのデモンストレーションそのものというより、そのために置かれていた備品の配置が問題だった。

 手すりの近くに物資が置かれていて、それが子どもの足場として機能してしまったのだ。

 しかも、その配置を指示したのは赤口だったらしい。


 教師側の判断ミスで起きた問題の責任を、文化祭ために準備してきた生徒全員に負わせるのは違う。

 そう主張したのが、生徒会長だった。


「赤口先生の見栄でやらかしたことを、一般生徒の努力で支払わせるのは違うでしょ」


 そう言って、事故原因になった企画の中止と、危険箇所の封鎖。さらに巡回の増員まで含めた妥協案を作成し、校長たちに直談判したらしい。


 凄いのは、あの事故の後にすぐこの対応を取った判断の早さと、頭の回転だ。


 ……初めて、彼女を生徒会長として素直に尊敬できた気がする。

 普段はふざけた人だと思っていたが、こういう時に動けるから、あの人は生徒会長なのだろう。


 文化祭の継続開催の連絡が来たのは俺たちが家に帰る時だった。この連絡があった時、文化祭実行委員たちは忙しく働いていたらしい。

 このことは浩紀から届いたメッセージでわかったことだが、赤口の愚痴がついでに送られてきたのが、何とも浩紀らしかった。


「ただいまー。お疲れ様、瀬那」

「……ただいまです」


 俺にしては元気よく帰宅してみたが、瀬那はテンションが低い。

 まだ、俺が落ちたショックを引きずっているようだ。


(どうしたら良いものか)


 とりあえず瀬那に着替えるように諭すが、動こうとしない。それどころか、リビングに入ったタイミングで、抱き着いてきた。


「まだ、落ち着かないのか?」

「……はい」

「……悪い。俺、何すればいい?」

「……わかりません。とりあえず、このままじっとしていてください」


 瀬那が落ち着くまでは、このままになりそうだ。

 俺は空いている手で瀬那の頭を撫でる。少しでも落ち着くなら、何でも試してみることにした。


 瀬那の体温が、じわじわと腕から伝わってくる。……妙に落ち着く。

 俺も俺で、まだ気持ちが高ぶっていたのかもしれない。


 十分ほど経ってやっと、俺を抱きしめる瀬那の腕の力が弱まった。

 胸に額を預けたまま、いつもの調子で彼女は話し出した。


「……ちゃんと心音が聞こえます。いつもの音なので落ち着きます」

「そりゃ良かった」

「はい、ちゃんと生きているのがわかりました」


 どうやら、俺の心臓は瀬那の精神安定剤たらしい。

 心音を確かめるのに十分もかける必要があるのかわからないが、瀬那としては大事な行為だったのだろう。

 確か赤ちゃんも、そういう音で落ち着くって言うしな。


「……何か失礼なことを考えていますね」

「……ソンナコトナイヨ」

「……まあ、いいです。そろそろ着替えましょうか」


 瀬那がやっと俺から離れたので、俺は自分の部屋へと入る。


「……」

「……」


 瀬那は当然のように一緒に入ってきた。

 あまりにも自然すぎて、一瞬こちらがおかしいのかと疑いかけた。


「……瀬那さん。俺着替えるから出て行ってくれる?」

「?」


 俺の部屋に一緒に入ってきた瀬那に向かって言うが、彼女は首を傾げてこちらを見ていた。いかにも俺がおかしいことを言っているような表情だ。


「俺、半裸になるけど?」

「気にしないでください。今の朔也くんは監視対象です」


 監視……?


「何のだよ」

「また、窓の外に飛び出さないかの監視です」

「やるかよ……。そんなことする必要がないだろ」


 俺は瀬那の肩を掴み、彼女を反転させて部屋から押し出した。

 不服そうな表情をしながらこちらを見て、


「ぶー」


 子供みたいな声を出して、そのまま渋々ながら自分の部屋へと入って行く。

 不満そうな声だけは子どもみたいなのに、さっきまで俺を抱きしめていた力は妙に強かった。


 ◇


 着替えと食事を済ませた俺たちは、風呂が沸くまでリビングのソファに座っている。

 特にやることも無かったので TV を点け、ニュース番組へとチャンネルを合わせる。


(今日のことがやっていないといいが……)


 SNS をざっくり見る限りでは、投稿がいくつか上がってはいた。そう、上がってはいたのだが……


『やばい、今日の黄隆学園の文化祭で子供落ちた!? って思ってマジで焦ったんだけど、生徒の1人が飛び降りて助けてて鳥肌立った……! しかもパルクールみたいな動きで着地して無傷とかどこのアニメだよ! #黄隆学園 #文化祭』

『今日黄隆学園の文化祭行ってたんだけど、

 五階から子供落ちる→終わった……

 生徒が飛び降りて助ける

 →!?!?

 パルクールみたいな動きで無傷

 →現実???

 マジであれなんだったの、かっこよすぎて幻覚かと思った』

『私も見たけど、うちのスーパーに良く来る人だった!』


 という内容に対して、


『はいはい、嘘乙。そんな高校生はいません』

『同じような内容がいくつかあるけど、宗教か何か? こわー!』


 と、俺の取った行動が嘘っぽく感じるらしく、信じている奴はほとんどいなかった。とりあえず、騒がれていないので良かったとしよう。


 ニュース番組では特に取り上げられておらず、こちらも安心した。ただ、こちらに関しては、誰かが手を回した可能性もありそうだ。


「特に何も騒がれていないようで良かったな。これで明日も問題なく開催できそうだ」

「……朔也くんの勇姿が嘘扱いされているのは気に入りません」

「そこか? まあ、普通は嘘だと思うから仕方ないだろ。五階から落ちてほぼ無傷なんて、冷静に考えると意味わからんし」


 瀬那は俺のスマホから視線を外し、少しだけ俺を睨んできた。


「……その意味がわからないことをした本人が、一番冷静なのは納得いきません」

「それは……まあ、悪かった」

「反省してください」

「……はい」


 ちょうどその時、


『~♪ お風呂が沸きました』


 浴室からお風呂が沸いた合図のアナウンスが鳴った。


(助かった……このままだとまたお説教が……)


「瀬那、沸いたみたいなので先に入ってくれ」

「話を逸らそうとしていますね。……まあ、良いです」


 バレてしまったか。こういう誤魔化しは瀬那に通用した試しがないな。

 俺が頭の中で苦笑いをしていると、彼女は頬に手を当てて考え事を始めた。


「……瀬那? どうかしたか?」

「……今日は一緒に入っては駄目ですか?」


 心臓が変な跳ね方をしたのを隠すように、俺は即座に却下する。だが、瀬那は引き下がるどころか、俺のシャツの裾をぎゅっと掴んできた。


「いきなり何言っているんだよ、ダメに決まっているだろ」

「今日は離れたくないのです」


 この調子だと、俺が飛び降りたショックがまだ抜け切れていないらしい。……とは言っても一緒に風呂に入るのは駄目だ。


「み、水着を着ます! だから、お願いします」

「……」


 必死に赤面しながら『水着』と言い張る彼女を前に、俺の思考が数秒フリーズした。水着ならプールと同じ……いや、自宅の狭い浴槽に二人きりで水着は逆にハードルが高すぎるだろ。


「……ダメですか?」

「ダメです。風呂から外に出ることはないんだから、心配する……なっ」


 ペシ。


「いたっ!」


 俺はほとんど力を込めずに、瀬那の鼻にデコピンをした。痛くはないはずなのに、彼女は鼻を押さえてジト目をよこした。


「むー」

「『むー』じゃありません! ほら、さっさと入って」


 瀬那を起き上がらせて、またぶーぶー言っている彼女を洗面所まで押し込んで、扉を閉めた。

 扉の向こうから、まだ不満そうな気配がした。

 落ち着くの待って、部屋にある姿見で自分の上半身を確認する。


「何度見てもまだ青いよな。こんなもの見せたら、また瀬那が不安定になる未来しか見えない」


 そこに映った俺の肩と背中に、痛々しい青い痣が広がっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ最下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして評価していただけると、毎日の執筆の大きなモチベーションになります!


ブックマークへの登録も、ぜひよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。