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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第127話 文化祭:一日目④

 アクシデントはあったが、何とか無事に着替えが終わり、俺たちはそのまま散策することとなった。


「それで、どこか行きたいところあるか?」

「明日もあるので、半分ぐらい見て回れれば良いですよね……まずは、お昼ご飯を買ってから、朔也くんのクラスからですね」

「なんで?」

「愛莉さんのクラスにも行きたいので、動線としてはちょうどいいのです」


 ……俺にはわかる、半分嘘だな。

 愛莉のところに行きたいのは本当だが、うちのクラスが気になっていたのを知っている身としては、わからないわけがない。

 ただし、理由がわからない。全てではないが俺が作ったものは見せているから、それが目的ではないはずだ。ヒントはスマホをチラチラと見ていることだ。

 ……気になるには気になるが、瀬那が酷いことを考えてるとは思えないので、話に乗ってあげよう。


「……なんですか、その顔は?」

「いや、別に」

「ふーん」


 道すがら、いくつかの出店を見ながら俺のクラスへと向かう。

 提案通りに食べ物系を買って行く。定番の焼きそばにフランクフルト、そしておにぎり屋。


 文化祭にはあまりないタイプのお店だけど、手で持ちやすく味もばらつきがないので、悪くないチョイスなのかもしれない。


 面白かったのは、三年の外国語・国際コースがやっている『世界のサンドイッチ屋』だ。

 ホットドッグやケバブはまだしも、バインミーやクロックムッシュなどもあった。……バインミーは初めて聞いたので、検索したぐらいだ。


 そうするうちに、俺のクラスへと着いたわけだが……めっちゃ並んでる。

 列は制作体験のものだが、そこまでのことか?


 もう一つの入り口にいる龍真に声をかけてみる。


「なあ、ものすごく並んでいないか?」

「? あぁ朔也か。南雲さんもいらっしゃい。……それがさ、なにか知らないけど、来場者の中に有名な歌手がいて、SNS にアップしたらしく、反響が凄かったらしいよ」

「そう言うことか。でもマナー違反だな」

「そうなんだよ。本人は知らなかったらしく、めちゃくちゃあとで謝ってきたよ」


 幸いにもアップした写真に写っていたのは生徒ではなく、作品だけだった。そこまでは非常識ではなかったようだ。

 また、受付の説明を一緒に来ていた他のメンツだけが聞いていたらしい。だが、どちらにしろ違反は違反だ。

 ただ、本人は悪気があったわけではなかったので、すぐに投稿を削除していた。

 ……ただし、反響が出たあとだったので、時すでに遅し。


 もう一つ幸いしたのは、入場にはチケットが必要だったことだ。

 お陰で、ファンが校内まで詰め寄ることはなく、騒ぎにはならなかった。……校内はな。


「お! 朔と南雲ちゃんがいたぞ、冴」

「ほんま? あっ、せなやん!」

「えっ?」


 ここにいるはずのない、人たちの声が聞こえた。

 俺は驚き、凄い勢いでその方向に振り向く。


「真壁さんに冴さん……なんで!?」

「お前、なんで文化祭あるのに言わねーんだよ。酷いぞ!」

「いや、単純に言い忘れてただけですけど……なんでいるの?」

「そりゃそうやろ。せなやんに呼んでもらったんやし」


 瀬那の方を見ると、笑顔なのに何か『してやった』と言うような顔をしていた。

 やられた……これを隠していたのか。


「いつの間に話してたんだよ?」

「朔也くんがいくつか作品を家で作っていたでしょう。それを見せてもらった時にちょうど冴さんから連絡をいただいて、雑談から文化祭がありますよって話になったのです」

「そそ。せなやんが『せっかくならいらっしゃいますか?』って誘ってくれてん」


 なんだかんだ、瀬那と冴さんは仲がいいらしい。連絡を取り合っているのを見たことが何度もある。話によると、俺の恥ずかしい過去話も聞いているらしいので、さすがにそれは釘を刺して止めておいた。……守られている気はしないが。


「そうだ、そうだ。あの厳つい指輪作ったのお前だろ?」

「あーやっぱりわかりますか。そうですよ、三つとも俺が作りました」

「三つ? 一つしかなかったぞ?」

「えっ!?」


 冗談半分で作成したので、指輪の値段設定は高めにしてある。千五百コウから、二千コウぐらいにしたはずだ。要は、円に換算すると一万を超える。

 高校生の文化祭で買うようなものではない。


 売り場に行くと、残っていたのは歯車や工具などの小さなパーツを入れた指輪。つまり、溶岩流をイメージしたものと、図書室をイメージした指輪は売れたってことになる。


「あ、東條くん、すごいよ! 指輪とペンダントトップが売れたよ!」


 売り場にいたクラスメイトの女子が俺を見て興奮した様子で教えてくれた。

 展示だけのつもりだったのに、本当に売れたのか……。

 ペンダントトップは、寒色系の方が売れていた。


「マジか……たぶん、俺が一番驚いてると思う。どんな人が買ったのかわかるか?」

「えっと……。溶岩流の指輪は、歌手の人……ってわかるかなその人が買ってたよ」

「あー、SNS にアップした人か」

「そうそう。それで、ペンダントトップは四十代か五十代ぐらいの女性。そして、図書室の指輪は――生徒会長が買ってた」

「はぁ!?」


 何しているんだあの人。

 生徒会長がそんな高い物を買うなよ……。ネタで作ったのわかるだろうに……。


「なんであの人が……」

「なんか、『文芸部に置いてあったらばえる!』って言っていたよね」

「そうそう、そんな感じだった」


 他の女子もそう言うなら本当に生徒会長が買ったのか。

『ばえる』ってなんだよ。もう死語だよ、確か……。


「なんか、大事(おおごと)になってるん?」

「いえ、大事って程ではないのですが……この指輪たちはネタで作ったものだから、買われるとは思っていなくて、驚いてしまって」

「他にはどんなもん作ったん?」

「これですね」


 俺はスマホで取った写真を二人に見せた。


「まーた、ゴツイの作ってるな。……俺もこういうの好きだから気持ちはわかるけどな!」

「ペンダントトップは女性向けに作ってあって、ええ感じやのに、指輪との落差が面白いなぁ!」


 二人ともアクセサリーを作るプロだ。

 その二人がどう判断するか怖かったが、悪い印象は無さそうで良かった。


「東條くん、知り合い?」

「あーなんて言うか……うーん。アクセサリー作りの先輩かな」

「なるなる。そんな感じする!」


 どんな感じだよ、とツッコミたい衝動に駆られるが、何とか受け止められた。

 その様子を見ていた『The Foundry Attic』の二人が、しみじみと言い出した。


「それにしても、朔がちゃんとクラスで浮いていなくて良かったぜ」

「……どういう意味ですか」

「いやー、朔の見た目から高校だと浮くんじゃないかって心配してたんだけどさ。南雲ちゃんはともかく、他に友達がいるのかお兄さんは心配してたんだよ」

「いらん、心配を……」


 ……中学の頃のことをある程度知っているからな、この二人。だから余計に気になっていたのかもしれない。

 瀬那からある程度は話を聞いていると思うが……クラスでは浮いているが、少ないけど友達はいるから大丈夫だと言いたい。


「お兄さんたち東條くんと仲良いんですね」

「そらなー。さくやんが中学からの付き合いやもん」

「そうなんですね。……ここだけの話」


 彼女は少し声を落とした。


「本人の前で言うのもなんですが、この学校だと東條くんの容姿って目立っていたんです。……怖いからって。だから、クラスでもどう接していいか、微妙な空気でしたね」


 マジで本人の前で言うことか、それ……。

 事実だけに否定もできないし、悪気がないのがわかる分だけ、余計に反応に困る。


 ふと、瀬那が不安そうにこちらを見ているのに気づいた。

 目線は俺というより、俺の左耳へ向いている。


 どうやら、無意識に左手でピアスを握っていたらしい。

 それに気づいた瞬間、ようやく手のひらの感触が戻ってきた。ピアスの端が、指に少し食い込んでいる。


 ……いつからだろう。

 体が正直すぎる。……なんとも、不愉快だった。


「でも、文化祭で一緒にアクセサリーを作っていたら、『この人、ただ不愛想なだけだ』ってわかってきて、一緒に作ったメンバーはもう気にしていないですね。それに、南雲さんと一緒にいる姿がなんて言うか……」

「なんて言うか?」


 少し言いよどんだ彼女の顔に、悪意はなかった。

 俺と瀬那を交互に見てから、彼女は続ける。


「ただ、ただ甘いのです! 南雲さんが可愛いのはよくわかっているのですが、それにしても接し方が甘いの!」


 そこまで言って、彼女は少し照れくさそうに笑った。


「だから……『怖い』というよりは、その……バカップルの片割れ、みたいな印象の方が強くなってきたと言いますか……。だから、今は普通ですね」


 良いことだと、頭ではわかっている。

 第三者から見れば、クラスに馴染んできているという意味なのだろう。

 それでも、素直に頷けない自分がいた。


 ――また、裏切られるのではないか。


 その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

 俺自身に向けた、問いかけとも言えない問い。

 ……何度目だろう。


 正直、関わりを避けたい。

 だけど、瀬那のことを考えると……乗り越えたい、とは思う。

 思うのだが。


 その時、温かい感触が俺の右手を包んだ。

 小さくて、けれど確かな重さだった。


「朔也くん、そろそろ行きましょうか?」

「……あぁ、そうだな」

「すみません、私たちは行きますね」

「えっ? うん、いってらっしゃい」


 俺は瀬那の手に引かれて教室を後にした。

 彼女にしては少々強引な流れだが、それだけ彼女から見た俺が危ないように見えたのかもしれない。


 その後、瀬那はそのことには触れず、愛莉のクラスへと足を運んでいった。

 ただ、握られた手は、離してくれなかった。

 それが今は、少しだけありがたかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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