第122話 文化祭:前日①
文化祭が明日に迫ってきた金曜日、どのクラスも準備が最終段階に入っていた。二日間だけだが、それでも高校生活では一大イベントだ。だからなのか、どこのクラスも活気があってすごかった。
うちのクラスも例外ではない。飾り付けから品物のディスプレイまで、かなりこだわっている。どうやら値段は、例の案通りリボンで色分けするらしい。渡す際に取るのも、付け替えも簡単だからという理由らしい。
「マジか……」
「マジだよ」
陳列されている品物の中で、なぜか和人が作ったやつだけプレミア価格になっている。……握手券なんて付いていないよな?
苦笑いをしている和人の肩を、俺は叩いておいた。イケメンパワーってすげー。
「そういや、結局、朔也の特製品はできたんか?」
「もちろん。……最終調整に時間がかかってしまった」
「最終調整!?」
「朔也はこだわるから、見るのが楽しみでもあって……逆に怖いまであるよね」
浩紀の驚きと、和人の意味深な感想を受けつつ、俺はここ数日、放課後に作っていた品物を取り出した。
「まずはこれだ」
「どこかで見たことあるやつだ」
「何故か、空から落ちてきたら光りそうだよね」
太めの雫型に作ったそれは、少し暗い青色をしている。レジンの透明感を活かして、中が見えるようにしてある。ただし、中心から少しずれたところに、不透明な円盤状のパーツが見える。できる限り、全体に溶け込むように工夫はしているけどな。
そして、表面には適当に考えた模様が塗ってある。
「って、朔也! さすがにパクリだろこれ!」
「まあ、そうだな。ちょうど TV でやっていたんだ。……仕掛けがあってな、振ると――」
「「振ると?」」
息を呑む二人をよそに、俺はペンダントを縦に強く振った。すると、中に仕込んでいた振動スイッチが反応して――チカチカと青白く光り出した。
「どうだ」
「『どうだ』じゃねーよ! なに無駄な技術力と遊び心出してんだよ! ……めちゃくちゃ面白いけどよ!」
「そんなところに全力を注ぐとは普通思わないよ。ちなみに電池の交換はできるの?」
「無理だ。完全密封だからな。電池が切れたら……素直に例の滅びの言葉を言うしかない」
ちなみにこれを瀬那に見せたら「朔也くんって、本当に変なところで凝り性ですよね」と呆れられた。
呆れられたが、目は笑っていたので良しとする。
「お次はこれだ」
「なんかテンション高くないか?」
「言ったろ……寝不足なんだ」
連日の作業による疲労で、少しハイになっている自覚はある。
俺が次なる自信作をテーブルに置こうとしたちょうどその時、
「何を騒いでるのー?」
部屋の飾り付けをしていた雫と斎藤がやってきた。
騒ぎすぎたようだ。
「朔也に頼んでいた、例の高級品のことだよ。一品目はこれね」
「わー、キレイ! ……でも、空から落ちてきそうな石?」
「しかも、光るんだよ」
和人が縦に振って光らせてみた。コツがいるはずなのに、一発で決めた。
「……す、すごいね」
「……っ……! こだわりすぎー!」
苦笑いをしている雫と、笑いを堪えている斎藤を置いておいて、俺は次の品を出した。
透明な金魚鉢に金魚が泳いでいるように作ったものだ。
「こっちもキレイだね。中にいるのは金魚だよね?」
「そうだよ。まずは金魚を作って、金魚鉢に何層も透明のレジン液を入れつつ、埋め込んでみた」
「手間かかってるね」
「ああ、それだけに納得したものができたよ」
金魚のオブジェを作るのも大変だったが、水中に見えるようにレジン液を固めるのも手間取った。
わざと気泡を残しておくのも良い味を出すことがわかってからは早かったが。
「よし、次だな。……これは完全に女性向けだ」
俺が取り出したのは、透明な樹脂の中に、青いグラデーションで小花を閉じ込めた直方体のペンダントトップ。
底の方には濃い青が滲み、そこから水色、透明へと色が抜けていく。白い花や小さなキュービックジルコニアが光を受けてきらめき、海辺の涼しさをそのまま形にしたような品だ。
「キレイ! それにかわいい!」
「おい、朔也。俺が求めてたのはこういうのだよ! なんで光らせたんだよっ」
「ちなみに暖色系も作ってあるぞ」
「こっちもいいね!」
思ったよりも好感触だったので嬉しい。
やっぱりキレイ系の方が良かったのか。瀬那もこれの反応は良かったからな。
「これが最後だ。……趣向を変えてリングを作ってみた」
「どうなっているんだこれ?」
最後に取り出したのは、シルバーリングにレジン液で固めたオブジェをくっつけたもの。それも、少し大きめのレジンクリスタルだ。
一つ目は、銀の台座をわざと錆びたように加工して、その上に透明なレジンクリスタルをくっつけたものだ。
中には歯車やネジ、工具を模した小さなパーツを入れてある。狙いとしては、機械仕掛けの遺物……みたいな感じだろうか。
男心をくすぐるというか、こういう意味もなく歯車が入っているものは、なぜか格好よく見える。
二つ目は、シルバー部分を燻して黒くした。
上に乗せたレジンクリスタルは、溶岩流をイメージして作ってある。焦げたような黒い部分と、その間を川のように走る赤。光を当てると、奥の方でまだ熱が残っているように見える。
正直、これは少しやりすぎた気もする。だが、男子高校生が一度は作りたくなるタイプの格好よさだった。
三つ目は、透明なレジンクリスタルの中に、羽根ペンと小さな本のパーツを閉じ込めたものだった。
シルバー部分は古い銀細工のように落ち着いた色合いで、派手さはない。
けれど、光を当てるとインクを落としたような濃紺が奥から滲み、静かな夜の図書室を思わせる作りだ。
派手さはないが、俺としては一番気に入っている。こういう静かな雰囲気のものは、作っていて妙に落ち着く。……誰かさんの影響かもしれないが、それは言わないでおく。
三つとも、展示用の土台もセットで作ってある。どれも、上手いこと表現できたと思う。
「どれも綺麗だけど、これは指輪ってことだよね? サイズっていくつで作ったの?」
雫が恐る恐る尋ねてきたが、その心配は不要だ。
「それは大丈夫。これは指に着けるものじゃなくて、ディスプレイ用の指輪なんだ。……セットで土台も作ってあるから、こうやって……置くと良い感じに飾れるだろ」
「あ、そういうこと!? すっごいゴツいから、これ似合う人限られそうだなーって思っちゃった!」
雫の表現どおり、厳つく作ったつもりなので、そう見えていてよかった。
「さっきのペンダントトップが女性向きだったからさ、どうせなら男性向きの厳ついのを作ってみたんだよ」
「わかる。男ならこっちを選ぶよね。すごい、どれもこれも水晶の中に入っているような……何か幻想的だね。でも気になるのは、なんで青いのは本と羽根ペンなんだ?」
和人の疑問はわかる。
この厳つい見た目なのに、三つ目だけは中身がゴツいものではなく、どちらかというとクールなものだ。
「大した理由ではないよ。少し変化球を攻めてみたのと……俺が図書委員だったからって理由だ」
「そういや、図書委員だったなお前。……売り子するんだよな?」
「あぁ……不本意ながらな。今日もこれから少し手伝いに行くことになっている」
それを聞いた浩紀が、ニヤッと笑って口を開いた。
「しかも、衣装があるんだろ?」
「……っ! なんで知っている!?」
「ちょっと前に生徒会長に会ってさ、『見に来てー』って言われたんだよ」
「あの……規格外生徒会長め……。来るなよ」
俺は浩紀たちを睨んで言う。これが無駄な言動なのはわかっていても、言わずにはいられなかった。浩紀や和人たちは、良い笑顔でサムズアップしていた。
……来る気だぞ、こいつ。




