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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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幕間 梅沢の思惑

 Side:梅沢 美津


 ドン!


「なんでよ! なんで……こう上手くいかないのよ!」


 文化祭の準備が順調に進んでいる中、私は自分の部屋に帰ってくるなり、苛立ちをぶつけるようにベッドへ鞄を投げつけた。


 今日も和人くんと話すことができなかった。

 それが、どうしようもなく苛立たしい。


 中学の時からずっと好きだった彼と……あの日から、私は一度もまともに話せていない。


 彼は誰にでも優しく、笑顔が素敵な人。

 ……私にとっては、聖人に近い存在だった。


 理由はわからないけれど、中学三年の時に少し落ち込んでいた時期があって、あの頃は心配だった。

 でも、しばらくして、徐々にクラスの中心へ戻っていった時は安心したのを覚えている。


 誰に対しても分け隔てなく接して、悪いことをした人にも、ちゃんと向き合って答えていた。

 ……だから、あんなに怒った表情は初めて見た。


(その彼を怒らせてしまった……でも……)


 あの和人くんが、東條みたいな不良崩れと一緒にいるなんて耐えられない。

 あいつの影響で、また彼が暗くなってしまったら。傷ついてしまったら……。

 そんなのは、駄目だ!


 ――だからこそ、どうにか彼からあのクズを離さないと……。


 そう思って、一学期から今まで行動してきた。

 でも和人くんは、東條と仲良くしていて……それも、中学の頃では見たこともないほど、気を許しているように見える。


 危ない状況だと、私は思っている。

 いずれ、東條は何かをやらかして、和人くんを巻き込むに違いない。


(そうはさせないんだから!)


 最近の東條は、一学期と違ってクラスに馴染み始めている。

 クラスの出し物があいつの得意分野ということもあるのだろうけど、クラスのみんなも、あいつを受け入れ始めているように見える。


(せっかく、噂を流したのに……)


 あいつが手を怪我した時は好機だと思った。

 ちょうどその時、和人くんに近づき始めていた南雲にも、何かトラブルがあったみたいだった。

 だから、一緒に評判を落とせると思いついた時は「これだ!」と閃いたのに。


 あいつらは気にせず、その噂を消すために一緒に行動を始めた。

 それに和人くんも同行することが多く、むしろ裏目に出てしまった気分だった。


 そこまで考えた私は、急にアイスを食べたくなり冷凍庫を開けた。でも、そこにアイスはない。

 多分、弟が食べたのだろう。仕方なく、私はコンビニまで買いに行くことにした。

 家を出ると、夜風は涼しかった。文化祭の準備で浮かれた街の空気だけが、やけに場違いに感じた。


 歩きながら、さっきまで考えていたことを再開する。


 夏休み明けには、あの二人が付き合っている状態だった。それを聞いた時、私は混乱してしまった。

 私には、東條が魅力的には見えない。そう思った私と、一緒にいた友達は、一つの結論を出した。


 南雲が、東條を使って和人くんに近づこうとしているのだと。


 だから、あの時、東條に聞こえるように陰口を言って、彼の心情を揺さぶろうとしたのだ。


(でも、最近の二人を見ていると、本当に好き合っているみたいな気もする)


 二人と一緒にいることが多い前川や倉木さんの様子を見る限り、偽装ではなく、本当に仲が良いように見える。

 同じ女子として、好きでもない男と四六時中一緒にいることや、手を繋ぎ続けたり、ましてや腕を組んだりするのが苦痛なのはよくわかる。


 ――だから、私は思い違いをしていたのかもしれない。


 最近、そう思い直してきた。


(もし、本当に二人が仲が良いのなら、少なくとも南雲が和人くんにちょっかいをかけることはないはず)


 私はそこまで考えて、頭を振る。


 まだ結論は出せない。出す必要もないはずだ。

 その辺りは、学校の一大イベントと言っていい文化祭でよくわかるはずだから。


 仮に、あの二人が本当に好き合っているのなら、後の問題は東條を和人くんから離すだけのはずだ。

 問題が一つでもなくなれば、それでいい。


 そう考えながらコンビニ帰りの道を歩いていると――


「こんにちは、お姉さん」


 暗闇の中から、急に声をかけられた。


 影から出てきたのは、一人の女の子だった。歳は私より下に見える。

 けれど、この年頃の女の子は年齢がわかりづらく、はっきりとはしない。整った顔立ちは、どこか人形めいていて、笑っているのに温度がない。


「誰よ、あなた」

「まあまあ、私のことは気にしないでください。……それよりも、あなたにお願いがあるのです」

「はぁ? 知らない人のお願いなん……て……聞くわ……け……ない……」


 ドサッ。


 せっかく買ってきたアイス入りのコンビニ袋が地面に落ちる。

 その音と共に、私の意識は暗闇へ沈んでいった。


 最後に見えたのは、その子の笑顔だった。

 ちっとも、怖そうには見えなかったのに。

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