第121話 文化祭:準備は進むよ、どこまでも
文化祭の準備は着々と進んでいった。うちのクラスも販売用のアクセサリーをいくつも作り始めている。思いのほか沼るクラスメイトが多く、練度も上がってきている。
アクセサリーだけではなく、それ以外のものを作っている人もいる。
市販の透明なネイルチップにデコレーションをして、いかにもギャルが好きそうなものを作っている女子もいれば、アクセサリーよりもオブジェ作りにはまっている男子もいる。宝石風、剣や盾、歯車やコインなど、方向性もさまざまだ。
それはそれで面白く、見ていて飽きない。
ちなみに梅沢たちは、あの一件以降は大人しい。準備の手伝いもしていて、サボることはしていない。……たまに睨まれる程度はあるが、このまま大人しくなってくれたら助かる。
まあ、少なくともクラス全員を敵に回すような酷いことはしないだろう。例えば、作業の邪魔をしたり、余計な揉め事を起こしたりとかな。
予算に関しても、基本の道具はもう揃っているので、あとは消耗するレジン液ぐらい。飾り付けはするだろうが、予算は大丈夫そうだと浩紀は言っていた。
装飾品も百均でほとんど揃うので、そこまでかからない算段だ。
今、問題……と言うほどではないが、悩んでいるのは値段のことらしい。浩紀を中心にどうしたらいいか話し合っている。
俺はその輪には入らず、他にどんなものを作ったらいいか、参考にするための雑誌を読んでいた。……サボっていると言っても差し支えない。
本当はもう帰りたいのだが、制作しているメンバーからたまに相談されるので帰りづらいのだ。
それに、瀬那も今日はクラスで作業しているので、迎えに行く以上、一人で帰っても仕方ないってのもある。
「――ぐらいになると思うけど、結構まちまちの形なんだよな」
「これ、すべて値段を覚えるのは難しくない?」
「そうだねー。うーん」
「こういう時は頼れる奴がいるじゃないか。ちょうど暇しているみたいだし。……おーい、さくえもーん!」
また変なことを言っている奴がいる。
面倒なことになりそうなので、意識して無視をしておきたいが……目の前まで浩紀がやってきた。
「無視できないように、来てやったぜ!」
「さくえもんって言うなよ……で、何が問題なんだ?」
俺は仕方なく輪に入って話に参加した。ちなみに雫や斎藤、そしてその友達と、話したことがあるメンツばかりだったので助かった。
「みんなバラバラのもの作ってるでしょ。だから、値段を同じにしても微妙かなって。別々にしたらしたで、値段を覚えるのが難しいし……って感じ」
斎藤がわかりやすく教えてくれる。
でも、それなら大したことではないと思う。
「文化祭で使う金券って、五十円単位だろ。細かくする必要はないんだから、価格をいくつかに絞って割り振ったらいい。三百円、五百円ってさ。値段は作成者が好きなようにつけてもいいし」
「でも、それだと値段が分かれて覚えられなくない? ディスプレイに仕切りを入れても混ざるだろうし」
斎藤の言っていることはわかる。
仕切りなんてあっても意味ないし、仮に容器ごと分けたとしても、お客さんが混ぜてしまうことは普通にあるだろうしな。
「ああ、それは色分けしてテープやリボンか何かを商品につけておくんだよ。色ごとに値段を決めておいてさ。それなら一目でわかるだろ? 値札をつけるより楽だし、価格表を貼っておけば、お客さんにもわかりやすいだろうしな」
「なるなる! よく思いついたね」
数人がうんうんとうなずいている。雫は何かメモを取り始めた。
「スーパーでも、そうなってる品物があるからな。たまたまだ」
「主婦なの!? 家事に染まりすぎっ!」
それについては……少し自覚がある。家事全般をやっている以上、必要な知識だから仕方ない。
みんなだっていずれそうなるさ……。
「原価ってどうやって計算したらいいかな」
「それなら、まとめてあるよー。これー」
メンバーの一人が、簡単にだがまとめた用紙を出してきた。レジン液や着色用の塗料を使い切った時に、いくつぐらいアクセサリーが作れたのかの表だ。
本当のお店の場合は足りないかもしれないが、所詮高校生の文化祭レベル。これだけでも十分だろう。
「これに人件費を入れればそれっぽくなるんじゃないかな?……でも、人件費ってどうするの?」
「うーん、最低賃金とか?」
「ブラックー!」
場に一気に笑いが広がった。
しょうもない話だけど、笑いが絶えないこの空間は、悪くない。こういう場に俺がいるのも、入学時には予想できなかったことだ。
「なあなあ、二、三個ぐらいめちゃくちゃ高いもの用意しない? 一万ぐらいのやつ。凄い精巧に作って、客寄せのためにさ」
浩紀が、今さっき思いついたであろうことを言い出した。
三百円から七百円あたりで落ち着くだろうアクセサリーたちの中では、たしかに高級品の部類になる。
……金券の単位は『円』ではないだろうけどな。
「……誰が買うんだよ」
「しらん!」
「しらんって……でも面白そうじゃん!」
雫や斎藤を始め、他のメンバーも賛同していた。
「そういうことで、朔也。なにか思いつかないか?」
「やっぱり投げてきやがったな」
「あったりまえだろ!」
「……単純に原価を上げるなら、レジン液を高品質なものにする手もあるが、それだけだとそこまで価格は跳ね上がらないな……」
高いと言っても、所詮レジン液だ。十グラムで何千円もするわけがない。となると、封入するパーツや天然石で付加価値をつけるか、あるいは何層にも重ねて立体的な奥行きを作るか。いや、いっそ異素材と組み合わせて――
「……考えてるな」
「考えているね。朔也くん、凄く真剣な顔で考えてる♪」
「なんだかんだ文句言いながら、こういうモノづくりにはとことんこだわるタイプだからな、こいつ。今頃、頭ん中でメッチャ試行錯誤してんじゃねぇかな」
浩紀、聞こえているのだが。実際にそうだから否定はできないけど、お前にドヤ顔で解説されると無性に反論したくなるのは何故なんだろうな。……これがいわゆる、『当たっているから腹が立つ』ってやつか。
「……うっさいわ。まあ、それっぽい『一点モノ』の演出はできると思うけど、さすがに一万までいくかって言うと微妙かもな」
「いいよ、いいよ。一万ってのはあくまでテキトーな例えだし。五百円ぐらいのアクセサリーの中にドンッと飾ってあって、『うわ、これすげぇ高級品じゃん!』って言わせるようなオーラがあれば良いんだって。……だから、作って♡」
「マジで言ってんのか?」
「マジだ!」
俺は「まったく、面倒くさいことを……」と頭を抱え、苦笑いを浮かべて嫌そうな体を装っていたが……実は、面白いお題を出されて内心少しワクワクしてしまっている。
……まずい。口角が上がりかけている。
これは口元を手で押さえ、このクリエイターとしての妙な熱が、浩紀たちにバレないように努めた。
◇
「と、いうことで何か高級品っぽいものを作ることになったよ」
「朔也くんが好きそうなことですね。前川さんもよくわかっています」
「なんか釈然としないけどな」
「くすっ、それだけ仲が良いってことですよ」
夕方の廊下は、まだ準備をしている生徒たちで騒がしく、どこか浮ついた空気をまとっていた。瀬那と並んで昇降口を出ると、夕風がさっと頰を撫でていく。
家路につきながら、今日起きたことを話し合っていた。話題はやはり文化祭の準備が中心だ。
「瀬那の方はどうなんだ?」
「そうですねー。ほとんど力仕事ばかりなので、男子が中心となって準備しています。女子は装飾の準備だったり、ただ滑るだけでは面白くないので、何か追加できないか話していますね」
「へー、まあ、確かに何か付けたいよな。音楽や効果音だけじゃつまらないし……水しぶきはやり過ぎだから、シャボン玉とか、LED とか使って視覚的に速度を速く見せたり、風を当てたりとかかな」
「シャボン玉は案にありましたが、LED と風ですか……明日、提案してみますね! よくこの短時間に思いつきますね」
視線を落とすと、夕暮れで橙に染まった歩道が続いている。隣で瀬那が感心したように俺を見ていた。
「たまたまだ」
ジェットコースターとはいっても、テーマパークにあるような大掛かりなものは作れないし、速度も安全を考えると極端なものは作れないだろう。それなら、視覚や触覚に働きかけて、速く感じさせることはできるはずだ。
「こう言ってはなんだが……文化祭が終わったら、ジェットコースターをどうするんだろうな」
「……たしかに。あそこまでちゃんと作っていると、壊すのももったいないですよね」
「そうだよな」
とは言っても、そのままにはできないだろうからな……。
話を聞く限り、相当しっかり作っているようだし、壊す姿を見たら少し胸が痛そうだ。
来年に引き継ぐ方法は、ないだろうか。
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