第119話 文化祭:D組の試作
文化祭の準備が始まった。
うちのクラスも放課後、時間がある人から少しずつ参加する形式だ。
とりあえず、どんなものが作れるか試作から始めている。
今、教室には俺の他に、龍真と数人の女子だけがいる。名前は知らないが、確か雫や斎藤たちと仲が良かった気がする。つまり、男子は二人。
……気まずい。龍真がいなかったら、何かしらの理由をつけて逃げていただろうと思う。
浩紀は文化祭実行委員会に用事があり、和人や雫は部活でいない。
ちなみに別のクラスだが、瀬那は今日はバイトなのですでに下校している。ただ、別れ際に「……そうですか、女の子が多いのですね」と言っていた時の、いつもの微笑みが何故か怖かった。
「あとは、固まったパーツ同士をくっつけたり、固まる前にデコレーションしたりして、丸カンとかヒートンっていう金具をつけて出来上がり……こんな感じかな」
「へー、結構簡単に作れるんだね」
とりあえず、簡単な作り方だけを実演する。
横で見ていた龍真や女子たちは、物珍しそうにそれを見ていた。
「市販の型を使うなら、こんなもん。自作の型まで作り出すと、もっと時間かかるかな」
「へー」
「朔也はさ、どこで作り方を習ったんだ?」
「うーん、基本はネットだな。あとは独学でトライ・アンド・エラーって感じだ」
こういうのは、一度こだわり始めると終わらなくなる。どうやって効率化するかとか、キレイにくっつけるとか。……大事なことだ。
「すごいね。私ならまず道具を集める段階で挫折しそうだよ」
「うん、うん」
「今ならスターターキットみたいなのあるから、興味あれば買ってみれば?」
「へー、考えておくー」
うん、これはやらないな。興味はあるけど、そこまでって感じだろうな。
でも、そういう人向けがターゲットの店になるのだと俺は考えている。やってみたいが、準備までの敷居が高いので手が出せない、そんな人だ。
あとは純粋に子供向けになるだろうな。
「この感じだと、固めるのに UV ライトはいくつか必要そうね」
「型もいくつも必要だよね。それは百均で売っているの?」
「レジン用のシリコンモールドなら百均でも買える。星型とか猫型もあるし、初心者でも扱いやすいと思う。特殊な形はネットで探さないと駄目かもだけど、そこまで高くないな」
「へー」
女子の一人がスマホを取り出し、みんなで集まって調べているようだ。「こういうの可愛くない?」や「思ったより安いんだ」と喋っている。
その中の一人が何かデザインを始めたが、作りたいものがあるのだろうか。
必然的にあぶれた男子二人は取り残されていた。龍真もあの中には入りにいかないようだ。
「型……モールドって言ったっけ? さっき、作れるって言っていたけど、朔也も作ったことはあるの?」
「何回かだけ試しに作ってみたよ。ただ、思ったような形にはならなかったな」
「そうなのか、どんなやつ?」
「あぁ……これかな」
俺はスマホを取り出し、自作したモールドと、それで作ったレジンアクセサリーの写真を龍真に見せた。
その写真にはデフォルメされたウサギのオブジェが写っている。
「おお! 上手くできてるじゃん。俺からすると何が悪いのかわからないんだけど」
「写真だとわかりづらいけど、微妙に歪んでるんだよ」
「全然、わからん」
「なになにー見せてー」
俺たちの会話が聞こえていたようで、女子たちが俺の周りに集まってきた。あまり、人だかりの中心にいるのは嫌なんだが、拒否することもできない。
片手でピアスを触りながら、スマホを机の上の、みんなに見える位置へ置く。
「えーかわいい! なんでウサギなのかはわからないけど、ウケる!」
「こんな風にグラデーションもできるんだ! 思ったより色んなことできるんだね」
龍真が女子の勢いに押されて、少し離れていた。
おい! 裏切ったな……
カシャ!
不意に、写真が撮られる音がした。
音の発生源を見ると、そこには浩紀がスマホを構えて立っていた。
「……なんで撮ったんだよ?」
「……南雲さんに送ろうと思いまして」
「なぜ!?」
「『衝撃! 東條朔也の浮気現場!』って」
「……マジ勘弁してくれ」
瀬那の性格上、絶対に……ぜっっったいに、やきもち妬いて、不機嫌になる。
浩紀は知らないかもしれないが、あの子は結構嫉妬深いんだからな。
「そうそう、あの南雲さんと付き合い始めたんだよね? いつからなの?」
「私も気になっていたんだよね!?」
「……なんで文化祭の話からそうなるんだよ」
「だって、こっちの方が気になるし」
話題がアクセサリーから恋バナに移行してしまった。
これはこれで、勘弁してほしい。
「で、いつからなの?」
「そんなに気になるか?」
「そりゃね。難攻不落とまで言われていた南雲さんが、夏休み明けでいきなり彼氏できてるんだもん、気にならないわけがないでしょ。しかも、ピアスまで開けているし……お揃い?」
付き合い始めたのはアピールしているから良いとして、ピアスまで気づくのか。……そこまで派手なのは付けていなかったはず。
「お揃いではない。瀬那のはシンプルなものをつけることが多いしな」
「でも、お前が作ったやつだろ、あれ?」
「「「キャー!」」」
黄色い声が一斉に上がり、俺は思わず眉間を押さえた。
「お前、マジで言わなくて良いことを」
「わりぃ、わりぃ」
絶対に悪いと思っていない謝罪をされた。
俺が作ったとはいえ、家に色んな種類のピアスがあるんだ。瀬那もわざわざ買おうとは思わないのだろう。
「ちなみに、どっちから告白したんだ?」
「お前もか龍真……」
「だって気になるしな」
少し距離を取っていたはずなのに、いつの間にか戻ってきていた。
「もう良いだろう……」
「待って待って! まだ聞きたい! ここに居ないみんなだって、気になっているんだから。とりあえず、いつから付き合い始めたの?」
「……八月の上旬だよ。夏祭りがあった日」
「へー。そういえば、一学期に噂になったよね? 東條くんが南雲さんを襲ったって。あれが誤情報なのはわかっているけど、その頃には仲良かったの?」
『東條が南雲さんに無理やりアレコレしちゃったんじゃないか疑惑』は、昼食を一緒に取る作戦が功を奏して、無事に誤解だと広まっている。
この無駄に長いネーミングは誰が付けたのか……
「そうだよ。あの頃には仲良かったさ。そもそも、図書委員で同じ当番だったし、話す機会はたくさんあったしな」
「へー。それなら二人からしたら、いきなりって感じでもないんだね」
たしかに『いきなり』ではないな。その頃にはすでに同居していたわけだし。
これはここでは言えないけどな。
「それにしても、東條くんって思っていたよりも話せる……って言っていいのかな。普通に会話できるよね」
「……不愛想で申し訳ない」
「そういう意味じゃないよー。……正直、初対面の印象は悪かったから、どう話しかけて良いかはわからなかったけどね。前川くんたちや雫と話している姿は普通だったし、それに、南雲さんと付き合い始めてから、なんか変わったよね」
浩紀や和人にも同じようなことを言われた気がする。
会話をしたことがない女子からもそう感じるのなら、本当に変わったのだろうな。
「もし、そう感じるなら瀬那の影響だろうな」
「ふーん、そういうことをストレートに言える人だったんだ。本当に見る目変わるね。それと……なんかご馳走様って感じ?」
「ほんとそれだよ! いきなり惚気やがって! やれ、龍真!」
「なんで俺なんだよ……でも、良いよね。あんなに可愛い彼女できてさ」
……いや、お前はそれを言えなくないか?
俺としては、お前たち三人の関係の方が気になるんだけど。
「人のことは良いとして、龍真はどうなんだよ? 九重とか二階堂先輩とか」
「由香と真紀ねぇ? うーん、よく言われるのだけど、そういうのじゃないんだよね」
「はぁ?」
「待て、龍真。それは俺もおかしいと思うぞ。どう見てもお前らって……え? マジなの?」
「まあ、良いじゃないか。俺たちは特殊なんだよ」
俺も人間関係をとやかくは言えないけど、龍真たちの関係って何なんだよ……
「そうだ。兄貴がまた憤慨してたよ。『俺の評判を落としやがって』って怒ってた。話を聞く限り自業自得だけど……いい気味だ」
最後の言葉に、何か闇を感じた。
人の良さそうな龍真がそんな毒を吐くとは思いもしなかった。
そんな、微妙に後味が悪い状態で今日の文化祭の準備は幕を閉じた。
ちなみにいつも通り、バイト終わりの瀬那を迎えに行ったら、
「前川さんからこんな写真が送られてきたのですが?」
と、負のオーラを纏った笑顔でスマホを見せてきた。そこには『朔也が女子に囲まれて、うきうきでウサギの写真を見せてる』というメッセージと一緒に、例の写真が添えられていた。
『ウキウキ』では断じてしていないが、帰ったら久しぶりにパフェを作ることになりました。
なお、パフェの上には、やたら豪華にホイップとフルーツを盛ることになった。
……謝罪の気持ちは、形にするのが大事らしい。




