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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第117話 彼女が選んだ隣

 現在、下駄箱前で、俺と和人は龍真の兄――『一葉虎真』先輩に絡まれている。


「お前が東條か? 瀬那ちゃんと付き合っているって噂は本当か?」


 あからさまなけんか腰で問うてきた。事実だけに否定する必要はない。だから俺は、ただ事実のみを淡々と返すことにした。


「東條は俺だし、瀬那と付き合ってるのも本当だけど。……で、あんた誰?」


 そう言って、首を傾げてみせた。

 もちろん誰かは知っているが、瀬那に告白した男として知っているのが、なんとなく気に食わなかった。


 どうでもいいが、先輩の『瀬那ちゃん』呼びは嫌だと、瀬那が言っていたと思うのだが、覚えていないのだろうか。……本人には言ってなかったっけ?


「ふざけるな……話は聞いてるぞ。お前みたいなグズが瀬那ちゃんと付き合えるはずがないだろ? お前が脅したのか、泣きついたのか知らんが、どちらにしろ相応しくないだろ!」


 そんなことはしていな……いや、あながち間違いではないのか?


「お前じゃあ、彼女のことを泣かせることになるからすぐに別れろよ。どうせ振られるんだから、早いに越したことないだろ」


 たしかに、すでに何回か泣かせているな……もちろん、嬉し泣きの方が多いけどな!


「なんだよ、さっきから黙ってばっかりで。なんとか言えよ」

「あー、すんません、考え事してたわ」

「朔也……余裕そうでなによりだよ」


 俺たちのやり取りを見ていた隣の和人に、なぜか呆れられた。……解せぬ。


「とりあえず、別れる予定もつもりもないですね。これでも色々あっての交際なので、『ほれ、別れろ』って言われて簡単に別れられるような間柄ではないですから」

「なっ……」

「第一、先輩には関係ないでしょ。俺と瀬那が付き合っていようが、なかろうが。……振られている先輩にはさ」

「お前っ!」


 虎真先輩が俺の襟首を掴んできた。

 周りで見ていた生徒たちも、「なんだ、なんだ」と注目してきている。この状態で評判が落ちるのは虎真先輩の方だと思うが……なぜか、嫌な予感がする。


「手荒な真似はやめましょうよ。無意味ですよ。先輩の評判に影響ありますが?」

「……っ」


 少しだけ手の力が緩んだ。

 隣にいる和人が「お前がそれ言うの?」って顔をしているが、気にしない、気にしない。

 これで落ち着いてくれるといいのだけど。


「お前たち、何をしている!」


 俺と先輩の睨み合いを止めたのは――


「赤口先生! いえ、この一年が……」


 ――赤口だった。

 最悪のタイミングで、最悪の相手が来た。

 俺は内心でため息をつきながら、左耳のピアスに触れる。


「何をしているんだ、……東條、またお前か。一葉、何かこいつにやられたのか」

「ええ。なぜか知りませんが、因縁をつけられましたね……それに、一年の南雲瀬那さんを脅しているっていう噂ですよ」


 そんな噂あるのかよ!

 心外だな。俺たちの関係性を考えたら、俺の方が立場が低いまであるのに。


「やっぱりか! 聡明な南雲が、不良のお前なんかを好きになるはずがない」


 俺は「ああ、またか」と呟いた。先生(赤口)が俺の言うことを聞くわけがない。もう諦めているとはいえ、こちらの意見を聞かないのはどうかと思うが。


 ピアスにかけた指に、少しだけ力が入る。さあ、どうやってこれを打破しようかと考える。事実無根である以上、最終的には勝てるだろうが、騒ぎになっているのが面倒だ。

 ……また、変な噂が流れそうだな。いや、すでに流されているか。


「赤口先生。口を挟ませてもらいますが、朔也は何もしていません。一葉先輩が彼に一方的に因縁をつけてきただけです」

「森田か……友人を庇いたいのはわかるが、一葉がそんなことをするわけないではないか。お前も付き合う友人を選んだ方がいいぞ。こいつは何かと人に絡む、酷い奴なんだから」


 それはさすがに言い過ぎじゃないかと、いい加減頭に来る。

 むしろ俺は、人に関わりたくないのに。


「……朔也はいい奴ですよ。あなたが何を知っているのですか」


 和人が彼らしくない低い声で二人に言う。

 瀬那もそうだけど、普段そんな声を出さないイケメンの低い声は、一気に寒気がする。あれはなんなんだ。


「……森田、何を言っているのかわかっているのか」

「えぇ、わかっていますが」

「落ち着け和人。それ以上はいいって」

「……朔也も、いい加減文句を言っていいと思うけど」


 俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、和人まで巻き込まれるのは申し訳ない。


「はん、そいつは暴力か罵倒しかできないから無理だろ」

「先……輩……!」

「――その言い方は、あまりにも失礼ではありませんか?」


 和人がさらにヒートアップしそうなところに、ふと、凛とした声が割り込んできた。……同時に、俺の心が一番安心する声でもある。

 その声が届いた瞬間、ざわついていた空気が嘘のように凪いだ。まるで誰かが、冷たい刃をそこへ差し込んだみたいに。


「下駄箱の前で騒いでいるのが気になって来てみれば……。森田さんの言うとおり、あなた方は朔也くんの何を知って、そんなひどいことを言っているのでしょうか?」


 いつの間にか瀬那が、俺の隣に並び立っていた。その瞳は、俺に見せる柔らかなものとは全く違う、冷たい光を放って二人を見据えている。


「瀬那ちゃん、良かった。君は東條に脅されているんだろ? 助けてあげるから言ってごらん」

「そうだぞ、南雲。先生もついているから安心しなさい」


 瀬那はあからさまに「はぁ……」と深く呆れたため息をついた後、二人に見せつけるように、俺の右腕にギュッと抱きついてきた。

 それも軽く腕を組む程度ではなく、大事なおもちゃを絶対に奪われないようにホールドする、子供のような硬い抱擁だ。

 腕に押し付けられた柔らかい感触に、内心、テンションが上がったことは内緒だ。


 再開していた周囲のざわめきが、一瞬だけ消えた。そして次の瞬間、誰かが小さく「うわ、見せつけた」と呟いた。

 横の和人も「大胆だねー」と、先ほどとは打って変わって、のほほんとした声で言っているのが聞こえる。


「脅されてなどいません。私が朔也くんを選んだのです。他の誰でもなく、彼を、です」

「いや、そんなはずは……」

「むしろ、どうして先輩が私の交際相手について、そこまで気にされるのでしょうか? 先輩には全(・)く(・)関わりのないことですよね?」

「……っ!」


 瀬那さん……それはエグいっす。

 夏休み前にあなたに公開告白して振られたんですよ、この人。

 ……今の口ぶり、絶対わざとだよね? まさか、ガチで忘れてたから『関わりない』って言ったんじゃないよな?


 虎真先輩が顔を真っ赤にして絶句しているのをよそに、瀬那は俺を見上げてとろけるように微笑み、腕に抱きついたまま手の指を深く絡めてきた。


「それに、私は朔也くんの隣にいる時が一番安心しますので」

「確かに、俺も瀬那の隣が一番安心するな」


 せっかくなので俺も追撃しておく。事実とはいえ、俺がこんなことを言えるようになるとはな。


「いや……そんな……」

「では、誤解が解けたようなので、私たちは行きますね。さあ、行きましょう、朔也くん、森田さん」


 赤口が何か言いかけたが、周囲に集まった生徒たちの視線に気づいたのか、口を噤んだ。ここでさらに俺たちを引き止めれば、今度こそ自分たちの方が目立つと判断したのだろう。


「あはは、そうだね。行こうか」

「あぁ、ではお二人とも」


 俺は彼女に引っ張られ、付いていくしかなかった。

 去り際に、またしても虎真先輩に睨まれたのは言うまでもない。


 ◇


 校門を出る頃、


「とりあえず、あとで浩紀と倉木さんに『バカップルぶりが凄かったよ』って言っておけばいいかな? ご馳走様」


 と、和人に言われてしまった。

 否定したかったが、瀬那に腕を抱き込まれたままでは説得力がなさすぎた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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