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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第109話 朔也はダメ人間なのか?

 お盆も過ぎ、夏休みの終わりも近づいてきた。俺と瀬那の夏休みの課題はすでに終わっているので、特に焦ることもなく、いつも通りの日々を送っている。

 墓参りの後、瀬那は少し落ち込んでいたが、今はすっかり元通りだ。今日もバイトに出ている。無理をしている様子はないので、そこは安心している。


「なあ、朔也」


 ただ、瀬那がバイトをしている間、俺は特別なことは何もしていない。

 高校生は勉強が本業とはいえ、俺も何か仕事をした方がいいんじゃないかと考えてしまう。別にお金に困っているわけではない。それでも、なんとなくダメ人間ではないかと感じてしまうのが現状だ。


(アクセサリーの販売はしているとはいえ、趣味の延長線上でしかないからな)


「朔ってば!」


 少し考えてみたが、そもそも俺に合う仕事ってなんだ?

 正直、接客業は向いていない。不愛想だし、目つきも悪い。……あと、面倒な客にキレる自信がある。

 それにピアスをメンタル維持のために外せないとなると、できる仕事も限られてくるだろう。

 これは将来にも関わってくることだ。就職はまだ先だとしても、どこの大学に進学するかを考える時期は、思っているほど遠くない。


(こういう時って、普通は親に相談するんだろうけど……)


 その選択肢が真っ先に消えるあたり、俺の人生もなかなかだ。


「なー、無視するなよー。寂しいじゃないかー」

「……」


 さっき言ったが、俺と瀬那の夏休みの課題は終わっている。

 つまり――。


「……ちょっと考え事してたんだよ。で、何かわからないところがあるのか?」

「ここー! 教えてくださいっ!」


 ――俺の前には、浩紀と愛莉がいる。

 浩紀は課題のプリントを盾のように掲げ、情けない声で俺に助けを求めてきた。

 ……この二人、夏祭り前には余裕があったはずなのに、お盆明けには見事に余裕を失っていた。余裕があったがゆえに油断し、先日、泣きついてきたというわけだ。


 瀬那がバイトに行っている以上、今日は俺一人で教えている。それにしても、少しずつでも進めていればよかったものを……

 ちなみに昨日は和人も参加していた。彼はちゃんと課題を進めていたので焦る必要はなく、ただ単にみんなでやるということを楽しむために来ていた。残念ながら、今日は用事があって来ていない。本当に残念だ……


「お前ら、これで本当に間に合うのかよ。だいぶ進んだけど、家に帰ったらまたやらないんじゃないか?」

「大丈夫! 私、家に帰らないから」

「「は?」」


 唐突な愛莉の発言に、浩紀と俺の声が重なった。

 愛莉は悪びれる様子もなく、にこっと笑う。

 浩紀は口を開けたまま固まり、俺は思わず眉間を押さえる。……お前、家出でもするのか?


「どういうことだよ、愛莉ちゃん。彼氏の俺がそんなこと聞いてないんだけど?」

「あれ? 言っていなかったっけ? 今日、ここに泊まるよ」


 愛莉は旅行の予定でも告げるみたいな軽さで、さらっと爆弾を落としてきた。

 さも『当たり前でしょ』と言わんばかりに、愛莉は至極自然に言う。『ここ』って、俺の家だよな……。


「今度は俺が聞いていないんだが?」

「あー、瀬那に聞いたら『課題を終わらせるためでしたら、私は構いませんよ。ただ、朔也くんが許可したらですよ?』って言ってたよ?」


 愛莉は指折り数えるようにしながら、瀬那から聞いた言葉をそのまま再現する。


「それは『|朔也くん()が許可したら』だろうに……」


 俺が念を押すと、愛莉は「あ」と口元に手を当てた。


「言い忘れてた!」

「おい!」


 信用できる友達が家に泊まるのは別にいい。問題は性別だ。なんで愛莉は気にしていないんだろうか。瀬那(彼女)がいるから問題ないのか? ……解せぬ。


「待て待て。……お前はそれで嫌じゃないのか? いくら友達とはいえ、男の家に自分の彼女が泊まるんだぞ?」

「そりゃ、俺だって他の男の家なら絶対に嫌だよ。でもさ、朔也だからまったく心配してない。そもそも南雲さんも一緒にいるわけだし、それに……」

「それに?」

「……この数か月間、あんな可愛い女の子と同居しておきながら、ずっと手を出さなかった奴だぜ、お前?」


 浩紀がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて俺を見てくる。

 事実なだけに、何も否定できないが……


「……お前、俺のことバカにしてる?」

「違う違う! そんな理性のある奴が友達の彼女に手を出すわけないだろ。お前のこと信用してるんだよ。……それに、どうせ俺も泊まるしな! だから後で、着替えを取りに一度家に帰るぜ!」

「それがいいね。というか、元々そのつもりだったしね!」


 イエーイ! と、ウキウキと騒ぐカップルが目の前でハイタッチをしていた。


「……えっ? ちょっと待て。お前らが俺の家に泊まることは、すでに決定事項なのか!?」


 俺の疑問に答えてくれるやつは、この場にはいなかった。

 ……解せぬ。


 ◇


 瀬那を迎えに行く時間になり、浩紀と一緒に家を出た。愛莉は家に残って課題をしているはずだ……多分。


 夕飯作りを任せる案もあったが、「私が作れると思うの?」と拒否された。……作れないのか。

 せっかくだから、あとで手伝わせようと思う。男女関係なしに、できた方がいいはずだ。断じて、突如発生したお泊まりイベントへの当てつけではない。


 電車内で浩紀と別れ、俺は瀬那を迎えにルナポートへと向かった。時刻はまだ夕方。外も明るいので危険性は低いが、念には念を入れるに越したことはない。

 それに、少しでもナンパされるのは嫌だからな。彼氏として。


 瀬那に連絡だけして、いつも通りの位置で彼女を待っていると、従業員通路から瀬那と……もう一人、桜井さんも一緒に出てきた。


「あ、彼氏さんじゃん。おひさー」


 何度か話をしたことがあるので、顔見知り程度の間柄だ。ただ、この人はフレンドリーなので、こちらが構える必要もない。それに、人当たりがいいのか、嫌な感じもしない。


「お久しぶりです、桜井さん。瀬那、お疲れ様」

「お迎え、ありがとうございます」


 そのまま三人で駅までの道を歩き出す。


「ねぇねぇ彼氏さん、聞いてよー。今日も石田くんが南雲ちゃんのことを――」

「ちょ、ちょっと、言わないでください!」


 「石田くん」……あいつか。

 いつか、俺が迎えに行った時に鉢合わせたことがある。瀬那が来るまで二人だけだったのだが、その時に宣戦布告みたいなことをされた。

 あの時はまだ、仮の恋人関係だったな。

 ……そういうこともあって、桜井さんの言葉は気になる。


「何があったんですか?」

「朔也くんはそんなこと気にしなくていいです、もがっ!?」


 俺は瀬那の背後から腕を回し、片手で口元を軽く覆って言葉を物理的に止めた。そのまま、何事もなかったかのように桜井さんの方を向く。


「わぉ、大胆ね。えっとね、今日も南雲ちゃんの連絡先を聞こうと躍起になってたわよ。南雲ちゃんってメッセージのグループには入っているけど、友達登録は拒否しているからねー」

「なるほど。いい加減、諦めたらいいのに」


 バシバシ。

 俺の腕の中にすっぽり収まったままの瀬那が、抗議するように俺の脇腹を叩いてくる。


 そういえば、以前、瀬那から愚痴を聞いた記憶がある。

 グループメッセージの方は業務連絡があるので、抜けるのは難しい。さすがにグループ上で口説いては来ないらしいが……


「ホントそれよ。毎回、心配だからって迎えに来る優しい彼氏がいたら、他に目が行かないってのにねー。……私もそんな彼氏が欲しい」


 最後の方は、遠くを見るような目をしていた。

 見た目は人気が出そうなタイプに見えるから、少し意外で、なぜかその横顔だけ、急に大学生らしく見えた。


「あ、そうだ! 来月、大学の学祭があるから、よかったら来てね! 芸術学科があるから、いろいろ派手よ。彼氏さん、アクセサリー作ってるんなら、いい刺激になるんじゃないかな」


 バシバシバシッ。

 ……瀬那さん、抗議の圧が上がってきていませんかね。


「いいですね、ぜひ行ってみたいです。……俺がアクセサリー作ってるって、瀬那から聞きました?」

「そうよ。ピアスを開けてたから、そこから話が広がってね。あのヘアクリップさ、あんなに可愛いの作れるなんて、すごいね!」

「いえ、まだまだです」

「謙遜するねー」


 普段使いしたいと言っているためか、瀬那はヘアクリップをよく使ってくれている。大事に手入れをしている姿を見ると、それだけでも嬉しいものだ。


 バシバシッ! バシバシッ!

 なお、脇腹に伝わる抗議のリズムは、会話が進むごとに少しずつ強くなっていた。


 ピアスも、昔あげたものを使っているが、他のピアスもその日の服装によって変えている。

 ピアスホールからもう血は出なくなったとはいえ、まだ安定していないと思うんだけど……楽しそうにしていると、ダメとは言えない。


「最終的に、その道に進むの?」

「あー……あんまり考えていないですね。これで生計を立てようとは考えていなくて、あくまで趣味の一つですよ」

「へー。あそこまで作れても、そっちの道には進まないんだ……」


 バシッ! バシッ! バシッ!


 桜井さんは、どこかへ視線を向けながらそう言った。


「それにしても彼氏さん。いい加減、それ離してあげたら?」

「……あっ」


 言われて視線を落とすと、俺の腕の中には、ずっと俺に口元を塞がれたままの愛しい彼女がいた。

 瀬那は少し涙目になりながら、ぷるぷると肩を震わせている。……しまった。会話に夢中だったとはいえ、よくこんな体勢のまま駅まで歩いていたな。


「ごめん、すっかり忘れてた」

「むぅーっ! 朔也くんはやっぱり、いじわるさんです!」


 解放された瀬那は、頬を膨らませながら俺の脇腹をぽかぽかと叩いてくる。

 その後しばらく、俺は謝罪代わりに彼女の抗議を甘んじて受け止めるしかなかった。

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