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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第107話 再会・瀬那への悪意

 Side:南雲 瀬那


 振り返った先に居たのは、見知った二人と見たことのない女の子が一人。

 その後ろにいるのは数人の付き人。

 その光景を見た瞬間、以前の記憶がフラッシュバックし、自然と体が震え始めました。


 私には四つ上の兄が一人と、一つ下の妹が一人います。兄には会ったことがありますが、妹には会ったことがありません。お祖父様の横に兄がいるなら……女の子の方は、妹の『海澄(みすみ)』でしょうね。


 せっかく朔也くんと楽しい会話をしていたのに……タイミングが悪すぎます。

 兄が鋭い目で私を睨んでいるのがよくわかります。ほとんど会ったことがない兄でさえ、両親から言い含められているのでしょう。会った時は私のことを邪魔者のように、邪険に扱われていました。

 兄がそうなら妹も同じだと思います。私はこの兄妹に……いや、血の繋がった両親にさえ何もしたことがないのに。


(……理不尽なものですね)


 この震えにもそうですが、そうならざるを得ないこの状況に。


 お祖父様はどういう表情なのかわかりません。久しぶりに会った孫に、もちろん喜んでいるわけでもなく、兄や妹と同じく、邪魔扱いしているわけでもない……以前から、お祖父様の動向がよくわからないのです。


「なんでお前がここにいる! ここはご先祖様が眠っている神聖な場所だぞ!」


 憤慨している兄の声に私は反射的に委縮してしまいます。怖いことはないと、頭ではわかっているのに、子供の頃に受けた仕打ちは体から抜けていないようで……自分に失望しました。

 兄がドカドカと前に出た瞬間、朔也くんが私の前に身を乗り出しました。


 ……不謹慎にも数か月前の帰り道に、ストーカーと遭遇した時と重なって見え、守ってもらってると自覚して『きゅん』としてしまったのは内緒です。


「誰だお前は!」

「誰だって良いでしょ。ここが神聖な場所なのは同意ですから、騒ぐのはよした方がいいのでは?」

「なっ!」


 朔也くんがいつもの調子で言い返していました。それを聞いた兄が絶句する姿を見て、少し胸が晴れたのも内緒です。


「貴様……! 俺を誰だと――」

「黙りなさい、貴臣。彼の言う通りここで騒ぐのではない」

「は、はい……」

「……ふっ」


 お祖父様に嗜められた姿を見て、朔也くんが鼻で笑っていました。……ここまで煽っていくスタイルの朔也くんは、初対面の歳上に対して礼儀を尽くすタイプの彼にしては珍しいです。


「ぐぬぬぬ」

「まったく……どこのどいつかわからんが、お主もあまり煽るではない。瀬那、久しぶりじゃな。見た感じ元気そうでなによりだ」

「お久しぶりです、お祖父様」


 ……「元気そうでなにより」、一般的な関係なら普通のこと。でもお祖父様が私にかけるその言葉に悪意は無いように感じるも、素直に喜べない私がいます。


「相馬も久しぶりじゃな。こやつはお前の知り合いか」

「……っ!」


 いつの間にか私たちの横に戻ってきていた五条さんに驚きました。でも、朔也くんは気づいていたのか、気にした様子もなく前を向いたままです。


「お久しぶりです、景時様。彼は――」

「五条がいながら『忌み子』どころか部外者を入れるとは何事だ!」


 兄が五条さんの話を遮って、噛み付く勢いで叫びました。


「……チッ」

(えっ!? ご、五条さんが舌打ちをしています!)


 小さい音ながらもはっきりとした音を出していました。

 立場的に南雲家の下に入る家系なのに、直系の兄に向かって舌打ち……。

 もちろん兄にもそれは聞こえています。


「うっ……」


 その舌打ちを聞いた兄はたじろいでいました。

 それを見た朔也くんと五条さんは、顔を見合わせて『やれやれ』といった様子で肩をすくめています。この二人、こんな状況でそんなに堂々としているのか謎です……。


「はぁ、お前は……それでお主は何者だ?」


 その光景を見たお祖父様はため息をつき、朔也くんに向かって言葉を発しました。

 声をかけられた朔也くんはお祖父様の方を向き、はっきりとした声で答えます。


「初めまして、景時様。私は朔也……鳳朔也と申します。瀬那さんとはお付き合いをさせていただいています」

「「「……っ!」」」


 三者三様の驚きを見せていますが、それを無視して私は朔也くんの方を見ました。私の関係者……しかも、恋人とわかればどう考えても面倒なことになるのに。彼がそれをわかっていないはずがないです。

 それに、なぜ旧姓を名乗ったのでしょうか……?


「そうか……」


 一言。本当に一言だけお祖父様は言葉を発していました。

 何か深い意味があるのかと思い、


「お祖父様、どうかし――」

「はっ! 忌み子に恋人か! つまりお前もそいつに呪われたんだな! 知っているか? そいつがどんな奴かを! お前は死ぬんだぞ!」

「……っ」


 兄の言葉に私は言葉を止めました。呪いのことや忌み子のことはすでに朔也くんには話しています。話して受け入れてくれていますが……とっさに朔也くんの裾を摘まんでしまいました。


「はぁ……何言ったんだお前。その話は聞いているけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。馬鹿か?」

「ばっ……貴様! はっ、知らないんだろ? こいつと暮らしていたから曽祖父母が亡くなられたんだぞ」

「……っ」


 私が……私が恐れている真実……ひいおじいちゃんたちが亡くなったのは私が――。


「いや、だから馬鹿だろお前。亡くなった時は百歳近かったんだろ? どう考えても老衰で大往生だろうが。もし本当に呪いなんてもんがあるなら、もっと前に亡くなってるだろ。違うか?」

「お前は、さっきから馬鹿だ、馬鹿だと……南雲の家がどういう家か知って言っているのか? うちが口を出せばお前の――」


 カツン!

 お祖父様は手に持った杖で石畳を叩き――


「……貴臣、黙れ」

「……えっ!?」


 ――兄の言葉を止めました。


「これ以上この場で言い争いをするな。聞くに堪えん。……朔也とやら、少し二人だけで話をしようか」

「お祖父様!? なんでこん――」

「黙れと言っただろう!」

「申し訳ございません」


 黙って下がる兄。お祖父様は朔也くんを見て問いかけました。


「どうじゃ、話す気はあるか」

「……はい。五条さん、申し訳ありませんが、瀬那のことをお願いします」

「お任せください」


 その後、朔也くんとお祖父様はしばし二人で話をしていました。途中、妹が朔也くんのそばに近寄った時、血の気が引きましたが、割り込もうとすると五条さんに止められ、朔也くんも拒絶していたので見ていることしかできませんでした。すぐにお祖父様に怒られていましたが……なんとなく、釈然としません。


 五条さんは私の隣に立って、私を睨んでいる兄を牽制していました。……戻ってきた海澄の口元が少しにやけていることが気になりましたが……


「もうお前たちはここを去れ、これ以上、ここで騒ぎを起こしたくない」

「はい、わかりました。……お祖父様、お元気で」

「瀬那……お主もな」


 最後に一言言葉を交わし、私たちはお祖父様や兄妹と別れて墓地を後にしました。

 墓地の入り口で蓮源様にあいさつをして、帰りは来た道を三人で歩きます。


「瀬那、念のために言っておくけど、本当に呪いなんてあったとしても俺がどうにかするから大丈夫だからな」

「ふふっ、朔也くんが言うと本当にどうにかしそうですね」

「ああ、安心しろ。だからそんな理由で俺から離れるなよ」

「……!」


 バシバシバシ!

 本当に最近の朔也くんはストレートに感情を言ってくれるので、嬉しい反面……恥ずかしすぎます。


「くくくっ……朔也様……いや、『朔也』。お前、本当に面白い奴だな。南雲家がどういう家かわかっているくせに、その跡取りのあいつに、あそこまで真正面から啖呵を切って……いや、清々しいほどに馬鹿にできるとはな」


 五条さんがいつもの完璧な秘書の口調ではなく……昔、私と遊んでくれた時と同じ、少し砕けた荒っぽい口調で笑い始めました。

 私はこの口調の五条さんを知っていますが、朔也くんにしては珍しく、驚いた顔をしています。……これまた、彼にしては非常に珍しいレアな表情です。


「どうした?」

「……いや、急に口調が変わったら、誰だって驚くに決まっているじゃないですか。そちらが素ですか」

「ああ、これが素だよ。……お前に敬語を使う必要はもうなさそうだからな」

「……そうですか。それは嬉しいですね」


 ……何か、男同士で勝手にわかり合っています……むぅ、何かずるいです。朔也くん風に言うなら、まさに「解せぬ」というやつです。


「五条さん、私にも素の口調で良いのですよ?」

「瀬那様は別です。立場的に難しいですね」

「えぇ……」


 先ほどの兄に対しての行動を思い出してほしいです。

 私たちは来た時とは違い、談笑して朱蓮院の入り口まで戻るのでした。


 朔也くんがお祖父様に旧姓の『鳳』を名乗った理由はあとで知ることになります。


 そして、今日のこの対応が近いトラブルこそ避けたものの、少し未来のトラブルの起因となることを――この時の私たちには、まだ予想できていませんでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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