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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第104話 男同士のイチャコラ

 一人の時に食べる昼飯ほど、どうしたら良いかわからないものはない。瀬那がバイトに行ってしまったため、今日の昼食は俺一人だ。

 瀬那と同居する前はそれなりのものを作っていたが、一緒に住み始めてからは、俺一人のためだけに作るのが面倒になってしまった。


(……残り物でいいか。カップラーメンを食べると、また瀬那をぷりぷり怒らせちゃうし……)


 瀬那は曾祖母の方針で、カップラーメンを食べたことがなかったらしい。その事を聞いた時、「せっかくだから食べてみようぜ」と食べさせてみたのだが……まさかあんなことになろうとは……この孔明でも予想できなかった。


 マンガなら効果音付きで過去編に入る――ちょうどその時、スマホが震え、浩紀からメッセージが来た。


『急にごめんな、今日暇か? 和人がやっと時間できたらしいから遊べないかなって。昼めしも食おうぜ!』


 そういう事で、今はルナポート近くのファミレスへと足を運んでいる。夕方には瀬那を迎えに行くって伝えたら、「じゃあ、ルナポートの近くでいいな」ってこととなった。


「久しぶりだな、和人。用事はもう大丈夫なのか?」

「うーん、ギリギリかな。たぶん、また忙しくなると思うよ……」


 向かいの席に座る和人は、ストローでアイスティーを啜りながら苦笑した。


「何しているか教えてくれないけどさー。もし俺らに手伝えることがあったら言ってよ。朔也のおかげで夏休みの課題は順調だし!」


 浩紀と愛莉は、花火大会以降はまだ来ていないが、あの後もほとんど毎日俺の家に来ていた。瀬那がバイトの時は、俺一人が浩紀に勉強を教えるという状態だった。


「それはずるいね。朔也、俺も今度参加していい? ……少しずつはこなしているから大丈夫だろうけど……モチベーション維持のためにね。ダメかな?」

「いや、別に構わないよ。あーただ、これから言うことを他では黙ってくれるならな」

「何のこと? 秘密にしてって言うなら、もちろんそうするけど」

「実はな――」


 俺はハンバーグの乗った鉄板を脇に除け、瀬那と同居していることや、ストーカー事件についてまだ和人には話していなかった部分を説明した。もちろん、和人への報告についてはすでに瀬那から了承を得ている。

 ただ、そのやり取りをしたのは数日前――


 ◇◇◇◇◇


 ― 数日前 ―


「そういや、いつか和人にも一緒に暮らしていることを話したいと考えてるんだが、大丈夫か?」

「もちろん大丈夫ですよ。というより、私としては勉強会の時に話すつもりでしたから、むしろ広めてもらった方が牽制になるのでよろしいかと」

「さすがに同居……同棲か。広めるのはまずいだろ。まあ、でもたしかに瀬那に変な虫がつかないな」


 俺の『同棲』発言に少し頬を染めていた瀬那だったが、すぐに少し不満げな顔をして俺を見た。


「……朔也くんもですよ?」

「なにが? 俺に虫なんてつかないだろ」

「やっぱり気づいていませんでしたか……。入学当初に比べて、一学期終わりの朔也くんの評価は上がっているのですよ。体育祭の活躍もそうですが、成績も上位を維持しています。さらに、人柄もバレ……皆さんが理解されてきていて……」


 若干呆れた顔をしつつも、瀬那は少し口をとがらせてみせた。


「朔也くんが正当な評価を受けるのは嬉しいのですが……」

「何か不服そうだな」


 俺が尋ねると、瀬那はばつが悪そうに苦笑いをした。


「……初めから朔也くんの本当の優しさをわかっていた私としては、なんだか複雑というか。他の人たちにも『外見だけで判断していたことをちゃんと反省すべきです!』って言いたくなります」


 ぷんすかと怒るように、一人でうんうんと力強く頷いていた瀬那だったが――ふっと、その表情に少しだけ暗い影を落とした。


「……ただ、もし最初から朔也くんの魅力がみんなに理解されていたとしたら、今、私がこうして独占できていなかったと思うのですよね……たぶん、前川さんや森田さんの影響もあって、クラスの中心人物になっていたでしょうし」


 そう言って、照れ隠しのようにぷいっとそっぽを向く彼女の様子に、俺は少し面食らってしまった。

 まさか、あの瀬那が、俺が他の誰かに取られる『かもしれない』可能性を想像して、露骨に独占欲を見せてくれるとは。……純粋に、男として嬉しいものだ。


「ちなみに、私が聞いた話だと……『ピアスの数には驚いたけど、つけているピアスのセンスは良い。目つきは悪いけど顔も整っていて、むしろ格好いいかも? 見た目に反してチャラいわけではなく、むしろ紳士かも?』という評価です。ちなみに、私はお顔も好みですよ!」


 格好いいかどうかの是非は置いておいて、チャラくはないが……紳士か? 女子とあまり関わっていないだけな気がするが。


「……はぁ」

「なんですか、その気の抜けた反応は!?」

「いや、瀬那にとって好みなのは安心したけど、他の奴からの評価が良いのがわけわからんと思ってな」


 本当になんでなんだろうな。特段良いことをした覚えはない。むしろ、悪い噂の方が多かったはずだ。


「予想ですが、学校で『何も悪いことをしていないから』じゃないでしょうか。最初の印象がマイナスからのスタートだったから、後はもう上がるしかないのですよ」

「そういうもんかね」

「そんなもんですよ。木内さんも金森さんも高評価ですよ」


 木内と金森……。テスト明けの打ち上げ以降は、廊下や教室で会えば挨拶を交わすくらいの仲にはなっていたが、高評価なのか。……いや、金森に限ってそんなはずがない。顔を合わせる度に面白がって弄ってくるあいつが。


「木内はともかく、金森は絶対違う。あいつは単に、俺をからかいがいのあるおもちゃ扱いしてるだけだろ」

「くすっ、そうかもしれませんね」


 ◇◇◇◇◇


 ― 現在 ―


 ――そういうやり取りがあったのだ。

 俺の評価が上がっているのは嬉しくはない。面倒な奴らが近づいてくる危険がある。正直、今の仲が良い奴らだけで十分だと思っている。


「――と言うことだ」


 説明を終えると、和人は納得したように小さく頷いた。


「ストーカーが思ったよりやばい奴だったんだね。でもね、朔也の家に女性の気配があったのは気づいてたから……まあ、いるとしたら南雲さんかなって薄々ね」

「マジかよ……いつから気づいてたんだ」

「中間の勉強会かな。隠していたみたいだけど、以前なかった女性物のアイテムが増えていたり、よく使う食器が低い位置に移動したのに気づいたんだ。俺も背が高い方だから、朔也の身長でわざわざ下の方に移動しないなっと思って。踏み台も増えていたしね。その辺りに違和感があったんだ」


 たった一、二回しか遊びに来ていない家の配置を、そこまで詳細に覚えているものだろうか。名探偵かよ、凄すぎるだろ。


「……俺も姉が二人いるからさ、家の中のそういう細かい違いは、なんとなく『女性のための変化だな』って気づいちゃってね。さすがにその時は、相手が南雲さんだとは思わなかったけど」

「……お前、マジで洞察力えぐいな。和人の言った通りだよ。瀬那は身長が低いから、どうしてもよく使う食器とかは下の方に置いてしまうんだ」


 和人の探偵顔負けの推理力に、俺は思わず天を仰いだ。

 そんなやり取りを聞いていた浩紀が、軽い調子で尋ねてくる。


「どうして言わなかったんだよ?」

「俺たちに言わないんだから、隠している理由があるだろ? 浩紀じゃあるまいし、簡単にはつつかないよ」

「俺の評価がひでぇ!」

「仕方ないな」

「仕方ないね」


 俺と和人で声を揃えると、浩紀はムスッとした後、ニヤニヤと悪巧みをするような顔で俺の方を見てきた。……嫌な予感しかしない。


「で? 結局付き合ったんだよな? マジであの時驚いたんだからな」

「えっ!? まだ付き合ってなかったってこと?」

「和人も驚くよな。三ヶ月近く一緒に住んでてこれだぜ。どんだけ奥手なんだよって!」

「悪かったな、お前には言っただろ。……理由があったんだよ」


 浩紀の茶化すような声に、俺はため息をついた。


「それはわかるけどさ……一緒に住んでたのは知らなかったけど、南雲さんが朔也のこと好きなのはわかりやすかったから、傍から見ててモヤモヤしてたんだよ。お前もまんざらではなさそうだったしさ」

「確かに、南雲さんはわかりやすかったね。……朔也も気づいていたんだろ?」


 和人の問いに、俺は出会った頃の記憶を少し遡った。拾った当初はともかく、ストーカーに遭った時ぐらいから、ぐいぐいと距離を詰めてきていた。当時は、拾われた捨て猫が懐いているようなものだと考えていたけれど。


「……そりゃな。あそこまで露骨なら、嫌われてないとは俺も思っていたさ。……ただ」

「ただ?」

「あいつの場合、家に住まわせてもらってる恩とか、ストーカーの恐怖から守ってもらったとか……そういう特殊な環境下での、一種の吊り橋効果もあるって思ってたんだ」

「『思ってたんだ』……過去形なんだね」


 和人が面白がるように、言葉尻を捕らえて相槌を打つ。……今は違うと確信しているからな、自然とそういうニュアンスにもなる。


「……そうだよ、わりぃかよ。……あとは俺自身の問題。俺は、人の無条件の好意ってやつがわからないんだよ」

「これが意味わからんのよな。なんとなく、昔に何かあったのは予想つくけどよ。……まだ、俺たちにも教えてくれないんだろ?」


 浩紀の真っ直ぐな問いかけに、俺は無意識に左耳のピアスを握った。

 過去の記憶がフラッシュバックして、少しだけ心がざわつく。だが――瀬那にある程度打ち明け、彼女に受け入れてもらったからだろうか。いつもみたいに精神が不安定に揺らぐことはなかった。


「……すまん、もう少しだけ待ってくれ。最近、瀬那に話して……自分の中でも、少しずつ消化できるようになってきているから」

「……まあ、進展があったんならいいわ。でも、南雲さんには言ったんだろ?」

「あぁ……言うつもりはなかったんだけど、言わないと納得してくれなかったからな。やむなしだ」

「照れてるだろ?」


 浩紀のニヤついた顔が目に入る。


 ゲシッ!


「イテッ!」


 俺はテーブルの下で、遠慮なく浩紀のすねを蹴り飛ばした。


「順番はおかしいけど、付き合い始めてからもう同棲状態だろ? ……はげみすぎるなよ?」


 ゲシッ! ゲシッ!


「だから痛いって!」

「今のは浩紀が悪いよ。……付き合うのはおめでたいけど、あまり家に行けなくなったのは残念だね」


 すねをさする浩紀を放置して、和人が苦笑交じりに言う。


「そこは気にするな。たぶん、このバカップルは普通にくるぞ」

「うん、行くよ? そりゃ毎日じゃないけどな、そこは大丈夫だろ」

「そうそう、事前に連絡があれば大丈夫だけどさ……お前が言うなっ」


 ベシッ!


「イテテ……」


 今度は頭を叩いてやった。

 浩紀は頭を押さえながら、どこか嬉しそうに俺を見た。


「なんか、お前感じ変わったよな? これも彼女のおかげ?」

「……っ! ……まあ、そう思うなら瀬那の影響だろうな……色々あったからな」

「ふーん」

「ふふ、いい意味で影響受けていいじゃないか」


 和人も優しく微笑んでいる。

 うるさい悪友たちだが、こいつらとこうしてファミレスでくだらない話をしている時間は、俺にとっても悪くないものだった。


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