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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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SS とあるホテルスタッフの話

 私の今日の担当はホテルのフロント。いつも通りチェックインのお客様を捌いていた。

 特に何事もなく終わるはずだった……。


 今日から大学の時からの友達二人が泊まりに来てくれる。

 私がここに就職したことを教えたら、せっかくだからと計画を立ててくれたのだ。

 私の担当時間が終わったら夜に、一緒に食事をする予定。楽しみ!


 そう楽しみだったのに……。


(ない! ない……何度探しても、予約が取れていない!)


 二人の代わりに私が二泊三日の予約を取ったはずだった。それなのに今確認したらその予約がない……。

 私は事前に二人のために、ダブルの広めの部屋を予約しておいたのに……。


(……最終予約の確認メールが送信されていない!?)


 手元に私のスマホが無いので、状況が完全には確認できないが、ホテルの PC を確認する限り、最終確認のメールが送信されていなかった。


(どうして!?)


 もう少し深く履歴を確認すると……仮の確保だけされて最終確認ボタンが押されていない……。このボタンが押されないと、仮の確保は三十分で解放されてしまう。


(やばい!)


 もうすぐ二人がくる! そう思ったその時――


 ウィーーン。


「やあ、石田ちゃん久しぶり!」

「石田、きたよー!」

「あ、ありがとう、 二人とも。待って……お待ちしておりました」


 とうとう二人が来てしまった。

 とっさに出た言葉が、お客様相手の言葉遣いではなかったので、近くにいたフロアスタッフに睨まれてしまった。

 だけど、そんなこと今はどうでもいい。それよりも予約をどうにかしないと。


 二人にチェックインカードの記入をお願いしている間に、この状況を打破する方法を考えた。幸いにもシングル一部屋は空いていたので、もう一部屋さえどうにかなれば、「ダブルが取れなかった」という言い訳で通すことができる。


(どうにか……どうにかしないと……あっ)


 焦る私の眼に入ったのは、明日泊まる予定になっているシングルの部屋。予約名義を見ると、未成年の男が泊まる予定になっていた。……ただの高校生? 生意気にこんな良いホテルに泊まるなんて不相応でしょ。どうせ予約日を間違えたとか、この人の勘違いってことにしてしまえばいい。他の部屋や別のホテルが見つからなくても、男なんだからその辺で野宿でもすればいいし、最悪どうにでもなるでしょ!


(これは名案! 私ってば頭良いわ!)


 一切の罪悪感なくそう考えた私は、その高校生の部屋を勝手にキャンセル扱いにして、友達の部屋に割り振るように設定を改ざんした。

 もちろん、シングルになってしまったのは謝っておくのは忘れずに。


 ◇◇◇◇◇


 次の日。友達二人が海へと出て行ってから数時間後。男女のカップルが入ってきた。

 これが私の運命を変えるとは思いもしなかった。


「もう一度、調べていただけますか? こちらのメールは仲介サイトではなく、このホテルから直接送られています。これがもし偽物だとすると、そちらのシステムの問題になると思うのですが?」

「そんなこと言われましても、東條様のお名前はありません!」


 私の完璧な言い訳に納得しないこの男。可愛い彼女を連れているからって、食い下がるじゃないか。彼女に良い格好をするために私の言葉に納得できないのだろうね。残念! すでに君の予約はキャンセルしているから、どうにもできません! 不良みたいな見た目をしているのだから、その辺で野宿したらいいんだ。


 私は頑なに否定するが、そこに声をかける人たちがいた。

 いかにも裕福そうな身なりをした老夫婦。こういう老後を迎えたいと、密かに憧れていた。

 そう……この老夫婦が私の計画を台無しにした。


「……ふむ、それなら、副支配人の中島さんを呼んでくれるかな。彼が確認した方が早そうだ」

「あ、いえ……」

「良いから早くしなさい」


 副支配人を「中島さん」と呼ぶくらいだ。この夫婦は副支配人と仲が良いのだろう。ここで拒否をするわけにはいかない……でも、大丈夫! ちゃんと手続きをして、ログも消したのだから、問題ないわ!


 ……はい、ダメでした。

 ログが綺麗に残っていました。消したつもりだったのに……なんで!?

 嘘!? 副支配人レベルだけが見えるログが存在しているなんて……聞いていない!

 そこにはちゃんと、私が無断でキャンセルした形跡と、そこに友達を通した履歴も残っていた……。


 その後は何も言い訳も抵抗もできなかった。

 私の計画を狂わせた男子高校生に、意地でも頭を下げたくなかったのだけど……副支配人に無理やり下げさせられて……屈辱。


 そして、そのまま裏で待機させられて……伝えられたのは、解雇予告だった。

 幸いにも友達二人の部屋はそのまま使って良いことになった……幸いじゃないし!


 それにあの老夫婦……まさか、大株主のお得意様なんて知らないわよ!

 どうやっても、副支配人が彼らの言い分を拒否する事なんてできるわけない! 私のやった事さえ、ペラペラ喋るんだから、副支配人も秘密漏洩でアウトよ!


 私はその日、事後処理を行った後、帰宅させられた……。

 何かものすごく惨め……これもあの男子高校生が折れなかったせいよ!

 ちゃっかりスイートルームにアップグレードされているし! 高校生の癖に何様よ!


 ◇◇◇◇◇


 次の日、私は気持ちが落ち着かないので、行く当てもなく散歩をしていた。

 少しでも気持ちを上げるために、お気に入りのワンピースを着て、買うのに並ぶのが大変だった、おろしたての可愛いヒールのサンダルを履いている。

 海で楽しそうに遊んでいる人たちを横目に、海岸沿いの歩道をトボトボと歩いていた。


(これからどうしよう……この辺りで仕事みつかるかしら。……実家には帰りたくない……)


 簡単に調べたけど、私がやったことは業務上の不正行為なのは確定。副支配人の怒りようを考えたら、解雇予告が撤回されるとは思えない。


「はぁ~」


 大きなため息をつきながら、私は足元の石を蹴った。その石が不規則な軌道を描いて、海岸の方へと転がっていく。

 何気なしにその石を目で追って、海岸の方を見た時――


「あっ!」


 ――あのカップルだ。イチャイチャと遊んでいる。青春を謳歌しているその姿に、一晩寝て少し収まっていた怒りが、またふつふつと湧いてきた。


(どうにかして、やり返せないかしら……そうだ!)


 私はちょうど手に持っているカップのコーヒーを、彼らの荷物へかけてやろうと考えた。色々と台無しにできるはずだ。


 彼らが荷物置き場から離れるのを、近くの資材置き場から隠れて待っていた。通る人たちが不審な目でこちらを見ていたが、気にしない。


 少しするとその場から離れたので、気づかれないように歩いて行く――


「きゃっ!」


 砂の中に埋もれていた硬い石か何かを踏み抜いてしまった。バランスを取ろうとしたが、高めのヒールが仇となってしまい、足首がぐにゃっと不自然な方向へ曲がる。


「痛っ……あぁっ!?」


 さらに最悪なことに、手に持っていたコーヒーが宙を舞い、お気に入りワンピースに盛大にぶちまけられてしまった。茶色く染まる高価な生地を見て、怒りと情けなさで一気に泣きそうになる。


「嘘でしょ……最悪……っ」


 全部あの男のせいだ! と八つ当たりで凹む気持ちを押さえつけつつ、激痛の走る足でなんとか立ち上がろうとすると……。

 ぐらっと視界が回り、今度はバランスを崩して真横に倒れ――


 ガツン!


 ――と、近くにあった硬い資材に、強かに頭を打ち付けた。

 完全に暗転していく意識の中、最後に私の目に映ったのは、一万円以上したおろしたてのサンダルのヒールが、無惨にポッキリと折れている姿だった。


 ◇◇◇◇◇


「うん?」

「どうかしましたか、朔也くん?」


 海で遊んでいる朔也は、砂浜の方を見て首をかしげていた。


「いや、なにかあっちで騒いでいるなって」

「本当ですね。怪我人や熱中症とかで倒れた方がいたのでしょうか?」

「そうかもな。まあでも、お店の人とか出てきているし、大丈夫だろ」

「はい、そうですね。……隙あり! えいっ!」


 バシャバシャと両手で水をかける瀬那。意識が砂浜にあった朔也は、それを真っ向から受け止めてしまった。


「うぷっ……瀬那? ふぅん……こういうことするんだな。もちろん覚悟はいいよな?」

「えっ……かよわい私に酷いことするのです……か?」

「だからそれはずるいって……」


 明らかに作った瀬那の顔を見て、朔也は呆れながら言うのだった。



 ― とあるホテルスタッフの話 完 ―



 この話、いつもと違う雰囲気で書いてみたのですが、これはこれでありですね。

 楽しく書けました!

 ちなみに、仮に手荷物にコーヒーをかけれたところで、元々無くなっていいものしか拠点には置いていないので、被害はほぼゼロ。すぐにタオルで汗を拭けないぐらいの問題しか無いという……


 また、明日より更新が 12:00 の一話分になります。

 よろしくお願いいたします。

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