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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第101話 変わったところ

 花火が終わったことで、見物客が一斉に帰路に就いている声と足音が聞こえてくる。この丘までくることはないと思うが、それでもそろそろ離れるべきだろう。


 俺はゆっくりと瀬那から離れた。さっき拒絶した時とは違い、優しく、ゆっくりと。「あっ……」と、瀬那が口を開くがどうしようもない。見ず知らずの他人とは言え、抱き合っているのを直接見られるのは、さすがに恥ずかしい。


「念のため言っておくが、人が来るかもしれないからだ。他意はない」

「……わかっています。ただ、少し残念なだけです」


 ヴヴヴヴ……、ヴヴヴヴ……


 瀬那が少し不満を言うと同時に、俺のスマホが鳴った。画面を見ると『前川 浩紀』と表示されている。どうやら浩紀が電話をかけてきたようだ。

 瀬那に目線で了承を取ってから、電話に出た。


「はいよ」

『おー! やっとつながった……人が多いからか、全然つながらなかったぜ』


 数万単位で来場しているらしいので、回線が混雑するのはしょうがないだろう。浩紀たちは何回もかけていたらしいが、こちらに着信はなかった。……かかってきてもそれどころではなかっただろうが。


『人が多いけど、どこかで待ち合わせできねーかな?』

「ならここはどうだ?」


 俺たちがいる丘から、十分ほど歩くところで待ち合わせることにした。人が多いはずの駅よりは大分マシなはずだ。


 俺と瀬那は手を繋いで丘を進んでいく。手を繋ぐのは今まで何度もしているが、今は少し意味が違う。いわゆる恋人繋ぎってやつだ。これからもこの手を繋いでいけるように、俺も変わらないといけない。

 ――だから、そのためには瀬那に言っておく必要がある。


「確かこっちでしたよね?」


 丘の入り口から出て、瀬那が俺の手を引きながら進もうとしていた。ただ、指をさした方向は、全く違う行き先だった。


「……違うぞ、そっちじゃなくてあっち」

「……わかっていましたよ。朔也くんを試したのです。すぐに気づいたので合格点ですね」

「何その、わかりやすいやつ」


 ドヤ顔を向けている彼女にため息をつくが、気にした様子はない。


「お前、……昔からよく迷子になるんだから先に行くなって」

「昔からって何ですかっ。朔也くんの前で迷子になったことないですよっ」

「あるだろ? 俺がいなかったら、シラタマのコラボカフェにも行けなかったし、高校入試にすら間に合わなかったじゃないか」

「そんなことな……えっ!? 思い出したのですかっ!?」


 反省せず先に進んだ瀬那は、素っ頓狂な声を上げて振り返った。


「……あぁ、つい最近だけどな、思い出したよ。最初に会った時は、俺が一番すさんでいた時期だったな」


 少し照れくさくなって頬を掻きながら、自嘲気味に息を吐く。一番荒れていて、一番恥ずかしい時期……


「あの状態の俺によく話しかけたもんだ。怖いもの知らずというか……本当、大したもんだよ」

「偶然が重なったので、意図して話しかけたわけではないのですけどね。結果オーライです」


 当時の俺の姿を思い出しているのか、瀬那はクスッと笑いながら言葉を続けた。


「たしかに、あの時の朔也くんは荒れていたというか、近寄るなという威嚇が凄かったというか……端的に言えば、ふふっ、関わってはいけない『ヤバい奴』でしたね」

「……そこまで言うか」


 『ヤバい奴』か……まあ、間違っていない。当時は、たまたま真壁店長が話しかけてくれたから、アクセサリー作りに興味を持てて、店の人たちには友好的になれた。親身になってくれた須藤先生たちも例外だ。

 だが、それ以外の人間には……うん、今思い出すと当時の行動が本当に恥ずかしいな。まさしく黒歴史だ……


「まあ、今はそんなこと無いので、良いじゃないですか。……それに、あの時に私は救われたので、嫌な思い出はありませんよ」

「そりゃ、迷子だったからな」

「もぅ! そういうことじゃないですよ。ナンパの件もそうですが、あの時のお陰で勇気が持てました」

「?」


 思い出しても、ナンパのこと以外はなく、勇気を持てるようなことは一切した記憶がない。

 俺が疑問符を浮かべているのを察したのだろう、瀬那は呆れた顔をして言った。


「朔也くんからしたら大したことで無かったのでしょうけど、私はあの時があったから今の私がいるのです。帰ったら見せますね!」


 瀬那の言葉で余計に意味が分からなくなりはしたが、そろそろ浩紀たちと合流するので一旦追求はやめておいた。


 集合場所には先ほど電話してきたバカップル二人と、もう一人女性が立って談笑していた。仲が良さそうなのでトラブルではなさそうだが。


「おーきたきた! 無事に着いたようで何より」

「そっちもな。……こちらの方は?」


 とりあえず失礼のないように確認する。俺の目線でわかったのか、愛莉が口を開いた。


「これは私のお姉ちゃん。混んで電車に乗れなさそうだから、車で迎えに来てもらったんだよね」

「これってあんた……。初めまして、愛莉の姉です。いつも妹が勉強でお世話になってるみたいで、ありがとね。……ふふっ、それにしても前情報通りだ。激カワな女の子と、ピアスジャラジャラの彼氏さんね」


 どんな説明をしてるんだよ、否定しづらいのが、いい線を突いている。

 とりあえず浩紀に一瞥だけしておくが、気にした様子はない。


「初めまして、東條です。二人にはいつも世話に……なっているかもしれません」

「朔也くん……。初めまして、南雲です。お二人とはいつも仲良くさせていただいています」


 一通り挨拶をしたところで、すぐに車を出さないといけないためそのまま解散となった。車に乗り込んだ二人は窓を開けてニヤニヤしながらこちらを見て言い放った。


「また今度ちゃんと聞かせてくれよ、それ!」


 浩紀がニヤニヤと指さしたのは、俺と瀬那のちょうど中間。

 ずっと無意識に握りしめていたせいで、完全に麻痺していた。それに釣られて、俺と瀬那の視線が同時に手元へ落ちる。

 ――指と指を絡め合った、完全な『恋人繋ぎ』の部分だった。


「「あっ」」

「じゃあな!」

「じゃあねー!」


 今更のように繋いだ手から熱が伝わってきて、横を見ると、瀬那も耳まで真っ赤にして固まっていた。


 ◇


 真夜中というほどではないが、少しだけ涼しくなった夜道を俺たちはゆっくりと二人で歩いている。喧騒が遠くの方で聞こえる中、とりとめもない会話をしつつ、時間をかけて歩く。……お互いに余韻を楽しんでいるのだと思う。

 たまに会話が途切れることはあるが、それが全く苦ではなく、繋いでいる手から伝わる温かさが、その空白を埋めてくれているのだろう。


 家に着くと瀬那は着替えに部屋に入っていった。その際、「夜遅くで申し訳ないのですが、少しお話したいことがあるので、待っていていただけませんか?」とお願いされた。彼女からの申し出だ。「もちろん」と二つ返事で了承する。


 予想だと、さっき言っていた『何か』を見せるためだろうな。俺は冷蔵庫から冷たいお茶を取り出すと、彼女が部屋から出てくるまで気長に待つことにした。


 少しすると、いつも通りの姿に着替えた瀬那がやってきた。手には小さなリネンの巾着を大事そうに持っていた。幾度か、彼女の部屋で見たことがあるものだ。中身までは知らないが大事にしていたのはわかっていた。


(これを見せたかったのか?)


 てっきり、曾祖父母の二人に関係しているものだとばかり考えていたが……このタイミングで持ってくるということは、そういうことなのだろう。


「丘から出る時に話したことを覚えていますよね? それがこれです。もちろん、中身のことですが――」


 そう言った瀬那は壊れ物を扱うように、優しく巾着の口を開け、中身を取り出した。コロンと音が鳴るような動作で出てきたのは、一対の青い花のピアスだった。

 どこかで見たことのあるそれを見て、どこで見たのだったかと記憶を呼び起こそうとした瞬間――


『すごい、色々あるのですね……あっ、これ、すごく可愛いです!』

『気に入ったんなら、やるよ。俺が作ったやつだから、まだまだ形が変だけど、参考ぐらいにはなるだろ』

『……えっ。でも、良いんですか?』

『構わない。そんなんで良いなら』

『……っ、ありがとうございます!』


 ――脳裏にあの時の短いやり取りが鮮明に浮かび上がった。嫌な記憶ではなく、むしろ良い思い出。まだ不器用で不慣れながらも、一から手作業で作ったものを赤の他人に初めて褒められた瞬間だ。


「そうか……これをキミにあげたんだったな」

「そうです。私にとっては勇気を出すお守りです」


 今見たらどこがダメなのかもよくわかる、まだ(つたな)い出来の代物。だが、それが彼女にとって意味のあるものになっていたのなら、過去の俺を褒めてやりたいぐらいだ。

 単なる偶然だったとはいえ、あの場所で瀬那に会えて良かったと、今なら心底そう思える。


「あの時、あなたに出会って。あなたの生き方を聞いて。……あなたが作った、これをいただいて。私も変わろうと思ったのです」


 瀬那は手の中にある『それ』を大切そうに胸に抱き寄せ、ふわりと優しく微笑んだ。


「昔の私は救われたのですよ、他でもないあなたに」

「そうか……」


 その言葉が俺の心の奥底に、静かに染み込んでいく。

 何もかもに嫌気がさして荒れていた当時、未熟ながらも作り上げたこの小さなピアス。回り回って、目の前にいる愛おしい女の子を救うきっかけになっていたのだ。

 ただ流され、無価値だと思っていた俺の行動が、確かに意味のあることだったのだと証明してくれた。彼女のその一言が、どれだけ俺を救済してくれたのか。きっと、彼女自身は気づいていないのだろうな。


「瀬那――」


 今なお優しく微笑む彼女を、その優しさに負けないように優しく抱きしめる。

 不意の抱擁に瀬那は少しだけ戸惑ったようだが、すぐに俺の背中に腕を回し、ギュッと力強く抱きしめ返してくれた。華奢な体から伝わってくる温もりが、俺の心にある最後の冷たい部分を溶かしていく。


「――ありがとう」

「くすっ、おかしいですよ。お礼を言うのは私の方です」

「気にすんな」


 俺たちは無言のまま抱き合っていた。

 先ほどまでの喧騒が嘘のような、静寂の中で。

補足すると、第一章の段階で瀬那の叔母(朱門)は朔也と瀬那が同居しているのを知っています。

朔也もそのことは知っていますが、瀬那に話せていない状態です。

※ 第48話 ストーカー事件の事実確認②


それなので、伏線でもなんでもないです。

随分前の話なので、念のため補足しました。

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