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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第100話 迷子の対処法 ――一緒に進むために紡ぐ言葉

 Side:東條 朔也


「ごめんなさい――いやですっ!」


 俺の身勝手な拒絶を聞いた彼女は、それを否定しながら力強い目で俺を見た。その瞳から『絶対に譲るつもりはない』という、確かな意志を感じる。


(あぁ、やっぱりこの子は強いんだな)


「私の言葉が信じられないというのなら、信じてもらうまで、私が何度でも伝え続けます! 私の想いは、その程度で諦められるほど軽いものではありませんっ!」


 俺と違って、やっぱりこの子は強い。俺は、彼女にそこまで強くて真っ直ぐな想いをぶつけられるほど、大した人間ではないのに。

 彼女は俺が逃げ出さないように、俺の胸元のシャツを両手でしっかりと握りしめている。


「やめろ……っ。好意を疑うような俺と一緒にいたら、いつか必ず、俺がお前を深く傷つけることになるんだぞ!?」

「傷ついても構いません。それに……朔也くんは、私の『異端な瞳』を真っ直ぐに受け入れてくれたじゃないですか。『綺麗だ』って、言ってくれた。あれと同じです。朔也くんの心が過去のせいで歪んでしまっているというのなら、私はその壊れた部分ごと――」


 瀬那は真っすぐな瞳で俺を見る。

 その強い視線に射抜かれ、たとえシャツを握られていなくても、俺はもう逃げることはできそうになかった。


「――朔也くん(あなた)を愛します」


 俺がずっと防いでいた言葉を――彼女は、はっきりと口にした。


「……ッ」

「私の時と同じです。私にとっては『なんだそんなこと』なのです。そもそも、あなたに傷つけられたとしても、私は嫌じゃない」


 頭を軽く振った彼女の顔には、いつもの、すべてを受け入れてくれるような優しい微笑みが浮かんでいた。そのまま言葉を続ける。


「それに、朔也くんが壊れているとは思いません。本当に人のことを思いやることができない、『そういう感情』が壊れている人なら、私のことを大切にしてくれるはずがありません。一緒に暮らしているのですから、それぐらい私にもわかります」

「でも……だけどっ!」

「朔也くん」


 俺がさらに拒絶するための言葉を紡ぐ前に、瀬那は優しくとも芯の通った力強い声で俺の名を呼び、制止した。


「あなたが本当に怖いのは"他人に裏切られること"ではないです。"いつか他人を裏切ってしまうかもしれない、自分自身"が怖いのです。『そういう感情』が無いのではなく、自分の愛し方が信じられない――私には、そういう風に見えます」

「……なっ!」

「違いますか? 否定できないはずです。……酷いことを言いますが、朔也くんはご両親の離婚で、愛情の裏に隠された『嘘』や『裏切り』を見てしまったのではないですか? その上で、好意的な表情で近づいてきた人に、あんな酷い悪意に晒されてしまったから……。だから、『愛し方』と『信じ方』がわからなくなって、迷子になっているだけです」

「……っ」


 それを伝えた瀬那は、もう一度優しく俺を抱きしめる。その腕は優しく、けれどもしっかりと俺を包み込んでいた。


「大丈夫です。わからなくなっているなら、二人で一緒に探せばいいだけですから。……私はもう、絶対に朔也くんを離しませんよ」


 その温もりに触れた瞬間。

 中学一年のあの時から、俺の中でずっと張り詰めていた冷たい何かが、音を立てて崩れ落ちていくのがわかった。

 遠くで、夜空を彩る最後の特大の花火が大きく破裂する音が聞こえた。

 ――だけど、ひどく視界が歪んで、俺はもうそれを見ることができなかった。


 ◇


 しばらくの間、俺と瀬那は抱き合っていた。夜とは言え、蒸し暑いこの時期に抱き合っていても、不思議と何も苦ではなかった。

 長い間、胸の奥で凍りついていたものが、少し溶けた気がしたのもあるが、情けないが瀬那に受け入れられたことも大きいだろう。

 俺は腕の中にいる瀬那に向かって口を開いた。


「ありがとう、瀬那。俺の過去を受け止めてくれて」

「……当たり前です。それよりも私に言わないといけない大事なことがあるのではないですか?」


 俺の胸元から顔を上げた彼女は、俺を真っすぐに見つめ、わざとらしく小首をかしげて言った。

 彼女が何を待っているのか、俺にもわかっている。痛いほど分かっているが……


「……朔也くん」


 無言で固まっていると、下からジトっとした呆れ半分の瞳で睨まれてしまった。……いや、まあ、男らしくない態度になって怒られるのも仕方ないのだけど。あそこまで過去の重い気持ちを吐露しておいて、いざこういう雰囲気になると……無性に気恥ずかしさが勝ってしまうのだ。


 ……だが、ここで逃げてはそれこそ愛想をつかされる。

 俺は覚悟を決め、さっき彼女が俺にそうしてくれたように、瀬那の小さな背中に回している腕に力を入れ、優しく気持ちが伝わるように抱きしめ返した。「わっ!」と、不意のことに小さく声を上げて驚く彼女の反応もまた、堪らなく愛おしい。


「なあ、瀬那。俺は自分に全く自信が持てないやつなんだ。いわゆる、極端に自己肯定感が低い。だから、いつも虚勢を張って生きている。……このピアスがわかりやすい象徴だな」

「そんなことありません。朔也くんほど色々やっていて、ちゃんと結果を出している高校生はほとんどいないと思いますよ」

「そう言ってくれると素直に嬉しいが、これは俺の根幹にずっとへばりついている気持ちなんだ。できないことをスマートにこなせる人間を見ると、どうしても自分の無力さを突きつけられてしまう」


 一度この世界から居場所をなくした人間には、余計にな……とは、さすがに言葉にはできなかった。


「でもだからこそ、達成感で自信を持てるように、できることを少しずつ増やしているつもりだ」

「ふふっ。私はいつも隣で見ていますから、ちゃんとわかっていますよ」

「ありがとう。……自信がないのは理由があるとは言え、そんなやつが人の人生に関わってはいけないと考えていた。でもな、こんな俺でも手放したくないものが最近になってできた。今日、さらにそれを実感したよ」

「はい」


 俺の心臓が、自分でもうるさいくらいに大きな音を立てて、鼓動しているのがわかる。抱きしめている瀬那にもそれが伝わっているはずだから、さらに気恥ずかしくなる。……ただ、胸越しに伝わってくる瀬那の鼓動も、俺と同じくらいに激しく波打っているのがわかって、少しだけ安心した。


「これから、お前の隣にいても問題無い、誰にでも誇れるような存在になるよ」

「私から見たら、朔也くんは今でも十分、誰にでも自慢できる誇らしい人だと思いますよ?」

「それならもっとだな。もっと……自分自身でも納得いくように成長するよ。だから、これからも俺の隣で……一番近いところで、俺のことを見ていて欲しい」

「……はいっ」


 胸元から顔を上げた彼女は、潤んだ瞳で俺の目をしっかりと見つめ返している。

 俺は静かに一呼吸を置き、大切で、純粋な言葉を紡ぐように口を開いた。


「――好きだ、瀬那。俺の恋人になってほしい」


 俺の告白に――。


「はいっ! もちろんですっ!」


 ――満面の笑顔を向けて、思い切り俺の首に抱き着いてきた。



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