食の改革
ついに始まった瑞穂の国の大改革。ですが、まずは形から、いや「味」から入るのが海の民流です。そして、あの子からの定期便が届いたようです。
瑞穂の国の都、その一角に設けられた「変革特別参与庁」——という大層な看板の掲げられた建物の裏手から、今日も香ばしい匂いが漂っていた。
「……硬い。硬すぎる。やまんとの土壌を耕すには、まず鉄製の鍬の大量導入が不可欠だが、それ以上にこの、民の『心の頑なさ』をどうにかしないと、新しい種を受け入れやしねえ」
シオジは、あまんとから取り寄せた最新の農耕書と睨み合いながら、大きな寸胴鍋をかき混ぜていた。
「師匠ー! 本国からリサちゃんの手紙と、例の『試作品』が届きましたよ!」
部屋に飛び込んできたヒメの目は、文字通り黄金(あるいは砂糖菓子)のように輝いていた。
「おお、リサのやつ、無事に王都の厨房を死守してるみたいだな。で、何が届いた?」
ヒメが厳重に梱包された木箱から取り出したのは、小さな白い塊だった。
「『シュガー・キャンディ』ですって! 疲れた頭にはこれが一番って、リサちゃんが噛み噛みの手紙を添えてくれました!」
「おい、それをまず誰に食わせるか分かってんだろうな、ヒメさん」
「もちろんです! まずは帝の側近の、あの偏屈なおじ様たちです。あの人たち、いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていますから、これを口に放り込んで、脳をウィンウィンに蕩けさせてあげるんです!」
「……お前、本当にたまに悪魔みたいな顔するよな」
シオジはため息をつきながらも、ヒメの差し出してきたキャンディを一つ、指でつまんだ。
「ほら、師匠もどうぞ。甘いものは、意地悪な心を優しくする特効薬ですから」
「はいはい。……ん、悪くない。これなら、やまんとの頑固な連中も胃袋から落ちるな」
二人がそんな風に一つの菓子を分け合っている姿を、窓の外から覗いていたオトマツとサクラが、いつものようにヒソヒソと囁き合っていた。
「ねえ、オトマツ。ヒメちゃん、自分の口より先にシオジに食べさせたわよ」
「だなー。本人は『美味しいものの毒見』くらいの感覚なんだろうけどさ」
「本当に、自覚がないって罪よねえ……」
「リサの甘味」がやまんとの最高級の通貨になる
まだ精製糖の技術がない瑞穂の国において、リサが送ってくる「甘味」は、どんな黄金よりも価値があるものとして扱われます。これを利用して、シオジは地方の頑固な豪族たちを「接待」で次々と懐柔していく、裏の『胃袋ハッキング政治劇』が展開します。




