続 サーガの丘で
あまんとの王宮にも、シオジの理解者が居るようです。それにしても賢者と呼ばれる宰相一族の者が、料理見習いまで落ちぶれてしまった経緯が興味深いです。後で自然に思いつくでしょうね。
宰相の顔が怒りで赤黒く染まる。テーブルを叩きつけようとした手を、かろうじて王の御前であるという理性が止めていた。
「策略、だと……!? ヒンチ殿、あれの『策略』がこれまで我が国にどれほどの胃痛をもたらしてきたか、忘れたわけではあるまい!」
「まあまあ、宰相閣下、落ち着いてください」
ヒンチはひらひらと手を振りながら、どこか楽しげに、しかし鋭い光を宿した目で言葉を続けた。
「あの『調理人見習い』がただで包囲されるわけがありません。補給船団が逃げ帰ってきたということは、逆に言えば、敵は『補給を断ったことで完全に勝利した』と確信しているはずです。那の津の猛者が大人しく降伏の形を取ったのも、蘇我の民が従ったように見せかけているのも、すべては敵の目を欺く巨大な『舞台装置』。……そう、網にかかったと見せかけて、実は地引き網のロープを握っているのはシオジ君の方なんですよ、きっと」
「……しかし、現に敵中に孤立しているのだぞ!」
宰相の息はまだ荒い。
その時、玉座の陰から、これまで静観していた王妃が鈴を転がすような声で笑った。
「宰相、ヒンチの言うことにも一理あります。シオジはいつも、私たちをハラハラさせますが……最後に持ってくるお土産だけは、一級品でしょう?」
「王妃様……」
「それに、今回の遠征に赴く前、あの子が私に何と言ったかご存知かしら? 『最高の料理には、最高のスパイスが必要だ。今回はちょっと、強火で焦げつく一歩手前まで煮詰める必要があるかもしれない』と。……どうやら、その『一歩手前』が今、来ているのではないかしら?」
王妃の言葉に、場に漂っていた絶望的な空気が、奇妙な緊張感へと塗り替えられていく。
その頃――。
封鎖された本陣のど真ん中、薄暗い天幕の厨房裏で、シオジは呑気に巨大な鍋をお玉でかき混ぜていた。
「よし、良い出汁が取れてきたぞ。那の津の旦那たちも、名演技で腹が減ってる頃だ。……さて、敵さんたちが『勝った』と思って大宴会を始める前に、特製の『仕掛け』を盛り付けますかね」
不敵に笑う賢者の目は、すでに包囲網を逆に喰い破る算段を完璧に捉えていた。
こうして負けて勝つ作戦が実行されました。今後は、やまんとの国の問題点に深くかかわって行くことになるのでしょうか?そのためには、色々と著者も勉強しないといけませんね。




