帝と会う
このものがたりに出てくる現代的な表現は、ヒメの持ち込んだものと受け止めてください。
ツヌガの湊浜は大盛況であった。
海の国からの補給品、あっという間に始まった交易に向かう商人、管理する役人、港を整備しようとする作業員とそれらへ商いを行う零細商店と水商売、まさにゴールドラッシュであった。
地名はいつの間にか「ツヌガ」となっていた。カンジの被っていた兜の角を見て「ツヌガアルシト」と誰かが言い出し、その将に占拠された港町だから「ツヌガ」となったらしい。
そして、カンジ個人の人気もそれに輪をかけた。
彼とその麾下の精鋭が、稽古用の棒だけで攻め入り、誰も死亡させなかったことが原因らしい。
(相応の重傷者は多数であったが)
「将軍が見えたと思ったら、次の瞬間には、あの棒が目の前に有って、避けられんかった」
「あれは避けるの、無理だろう」
「俺は、受け止めたと思ったが、身体ごと道具ごと飛ばされてしまったぞ」
「本当に鬼だな」
町の津々浦々では、そのような帰還兵同士のやられ自慢が続いていた。
曰く、一度は手合わせをして、負けた事実を末代まで誇りたい。そうだ。
「いらんか~い、いらんか~い、あまんとの食べてる黍だよ。これでツヌガ様が大きくなられたという食べ物だ。おひとつ、いらんか~い」
売り歩きの零細商人が、どうやら軍需品の横流しを売りさばいている。
売り言葉を聴くと、占領軍のご許可のもと売っているように聞こえるから不思議だ。
さて、すっかり人気者になったカンジは、次の行程へと諸将をせかしていた。
「みやこまでは、陸路になるから、軍師様の腕の見せようだが、それもこれも行軍に耐えられる兵どもの動きが肝要となる」
「ツヌガ様、行軍ではなくて使者の護衛です」
副官が諫めるが、カンジは別のことに食いつく。
「お前まで、その名で呼ぶか、我には心の師と分け合った真名が有るのだが…」
「使えない真名よりも、使えて民に畏敬を抱かせることのできる二つ名の方が有益です」
「ぐっ、それはそうなんだが」
すっかり海の民の間でも、ツヌガアルシト様呼びが定着してしまったようだ。
「ツヌガ様ねえ」サクラがつぶやく。
「いいじゃないか、いままでの『火力担当』は意味不明だったからな」
ジダンは剣の手入れの方に夢中になりながらも、答える。
「これからのまつりごとと、みやこへの牽制には役立つ」
シオジは、話をまとめようとする。
そこへ、タジカヲがやってくる。
「おお、勇者様軍師様、帝からの返信が来ましたぞ。お逢いになられるそうだ」
すっかり海の民とも打ち解けた雰囲気を出している。
「そりゃ何より」シオジがそっけなく返す。そう、期待などしていないのだ。
おそらく、みかど若しくはスメロギと呼ばれるその存在自体には権力など無いのだろう。
知らせが届いたのか、ヒメも現れ一堂に笑みを向ける。
「では偉い人に会いに行きましょうか?それでダメな時は、その次の人、それでもダメな時はその次の方で会いまくりますよ」
小さな身体から、溢れてこぼれる元気が彼らに伝播して、
「「「「おう」」」
力のない返事が返った。
「なんですか、皆さん。元気が無さすぎですよ」
ヒメが呆れ、
「本当ですね~、海の国の第一級の冒険者とは思えない、体たらくですね」
タジカヲがもうすっかり臣下気取りで頷く、
サクラが躊躇いがちに、
「ヒメちゃん、あなた、今回何回目の人生なの?」と尋ねる。
そう、時折見せるヒメの政治的な酷薄な判断、それはとても年相応に思えないものが有った。
サクラはその過敏ともいえる観察力で看破するが、他の英雄どもにとっても時折感じる違和感がそこにあった。
「人生なんて志が無ければ何度送っても意味など無いわ。私は師匠に、感情だけで判断してはいけないと、すべてを大義のためにと教わっていますから」
答えのような答えでないようなヒメの言葉。
ヒメは笑みをなお深くして師匠のジダンを見つめる。
「師匠?どうでした。満点の回答で無いですか?」
バンダナを巻きなおしながら、一連の会話を注視していたジダンは自分に振られて一瞬焦ったようだったが、さすがは賢者(笑)、
「まあまあ、じゃないかな、直接に答えず、他の、自分の得意な土俵に誘導するのは上手いな、相変わらず」(黒い、俺の弟子ながら、いや、俺の弟子だからか、黒いなヒメさん)
と返す。
ヒメはちょっと口をとがらせると、
「なんか言葉以外に色々と駄目だしされている気がするんですけど、まあ、良いですけどね。師匠なんだし」ジト目をシオジに向ける。
「でもみかどが、会ってくれるなら、まずはヒアリングですね」
気を取り直し、ヒメは皆に一層の笑みを向ける。
「瑞穂の国の政権にちょっとお伺いを立てましょう。あまんとを返してもらうこと。黄金をちょっとだけ分けてもらうこと。これがマストです」
聞き耳を立てていた周囲の大人たちが騒めく、
「ヒメ巫女様、あの(笑)への執着が駄々洩れなんだが」
「わっかる~さすが、オトマツ」
「なんか、最近二つ名だけでなく、呼び名にも侮蔑が入って居るような気がするんだが?」
「お、今日は鋭いな、そしてやっぱり鈍いな」
「なんだと」
「いきるな(笑)その先ほどの考察なんだが、実はずいぶん前からゴニョゴニョ」
「そうそう、サクラ殿に突っかかるたびに、我らホッコリなんだが…」
近衛の兵まで、噂話に加わる。
「これが、ヒメさまの言う『青春』というやつかのう」
「爺さんの時代は、こんなドキドキなかったろうからな」
「馬鹿者、わしらもドキドキだらけだったぞ、嫁の実家に忍んだ時など・・・」
ヒメの秘密は小出しにしていきます。が、なろう小説を読み込んでいる読者諸兄にはバレバレでしょうね。と言いつつ、ひとひねりしていますから、ご期待ください。ちなみに




