生徒会②クルル視点
『クルル!』と言うオリジンさまの厳しい声にハッと意識が覚醒した間隔を覚える。肩に居たはずのオリジン様が、本来の姿で横に立っていた。一体何が?と、疑問を持たずにはいられない。
――わ、わたしは……。
『漸く覚めたか? あの聖女とやらに飲まれていたぞ?』
――まさか?!
ただ姿を見て、声を聴いただけでこれほどまでに意識を呑まれるとは……。私は一体何をしていた? オリジン様に呼ばれるまで私は、何を考えて……。
――オリジン様教えて下さい。呑まれている間に私は、どのような状態でしたか?
『憎しみの籠った形相でアレクを睨みつけていたのだ。そなたがまるで、あの女を好いているような、そんな感情だった』
オリジン様の言葉にハッと息を呑む。白の言う強制力とはここまでの威力なのか、と恐怖を感じずにはいられなかった。
目の前に立つこの聖女と呼ばれる女は危険だ。頭では十分にわかっていたはずの言葉が脳裏を過ぎる。どんなに用心しようと心掛けていても、一度ならず二度も飲まれてしまったのだ。抗う術がない。どうすれば……いいんだ。
『クルル、抗う術と言う訳ではないが、可能なら心音を落ち着け、思いを寄せる相手を思い浮かべるのだ』
――わかりました。やってみます。
「アレク? えっと、彼は?」
「クルルだ。覚えていないか? 以前街で会っただろう?」
「ん~?」と可愛らしい声をあげ悩む彼女の表情に、私は違和感を覚える。今の彼女は以前会った彼女とは違い、実に表情豊かで愛くるしい。
白とは違う赤い瞳が私を見て、自然と視線が合うと心臓がドクンと跳ねた。
「あ~。あの時の! お隣の国の王子様でクルル様ですよね?」
「……あぁ」
「二度目ましてかな? 私、リーンって言います。どうぞよろしくお願いします」
ニッコリと微笑みペコっと頭を下げて見せる彼女から視線が逸らせない。それを無理やり逸らし、瞼を降ろす。早くなった心音を整えるように、ゆっくりと深呼吸をひとつ。
思い浮かべる存在は、心を寄せる白の姿だ。天真爛漫で、クルクル変わる表情が好きだ。好き嫌いがハッキリと顔と態度にでる。苦しむ人や精霊を見捨てておけず、己の身を顧みない。初めて口づけを交わした時の熟れた顔、生徒会へ行くと告げた時に聞こえた――嫌だ、行かないでと縋る声。伸ばされた白の手が、裾を掴む。
あぁ、やはり白がいい。聖女ではダメなのだ。私の心を湧き立たせ、癒すのは彼女しかない。
うるさいほど聞こえていた心音が落ち着きを取り戻す。大丈夫だと自分に言い聞かせ、瞼を開いた。アレクと共に居る聖女の姿が、異様なほど惹きつけられていたはずなのに、突然、色を失ったように気にならなくなっている。
白にまた、助けられたのだろう。帰ったら、少しだけ甘やかすとしよう、と考え気持ちを切り替えた。
「アレク、先ほどの話だが」
「……先ほどの話?」
「あぁ、生徒会を手伝う日数についてだ」
「あ、あぁ、そう言えば、そんな話をしていたな……すまない。少しぼーっとしていた」
呆然とした表情で答えていたアレクが、頭を振り思い出したように答える。
「気にするな。それでだな、私としては婚約者と相談した上で日数を決めたい」
「え? 生徒会に入るのに婚約者様に聞かないといけないんですか? クルル様大変ですね」
アレクとの会話に聖女と呼ばれる魔女が口を挟んだ。それを無視する形で私は「明日、返事をする」とだけ伝え、未だ惚けた顔で魔女を見るイリュスを引っ張り生徒会室を後にした。
扉を閉め、イリュスの額に衝撃を与える。バチンとかなりいい音が鳴った。
「私は……あれ? 何故外に?」
「ふぅ、戻ったか?」
「……まさか?」
『そのまさかだ。見事に二人とも呑まれていたな』
「え? クルル様もですか? 大丈夫なのですか?」
オリジン様の言葉にイリュスが慌てた様に私をガクガクと揺らす。それを跳ね除け「私は大丈夫だ」と伝えれば、安堵の表情を見せ大きく息を吐き出した。
離宮へ戻る馬車に揺られながら、イリュスが何とも言えない表情で「怖いですね」と零す。その気持ちが良くわかる私は、彼の肩を叩くことで同意した。
「あれほど気を付けていたのに、全く手も足もでませんでした。いつの間にか、彼女から目が離せなくなって、気づいたら外にいました」
「あぁ、私も同じだった。正気だったはずが、いつの間にかだ」
「どうにかして防ぐ方法を考えなければなりませんね……」
「それなのだが……少し、思いついたことがある。帰り次第、白にそのことを相談するつもりだが、マリシュにも確認しておこう」
「わかりました。オリジン様にはご迷惑でしょうが、門を開けて頂きましょう」
「あぁ」
白に相談する内容をどうやって伝えるか思い悩む。なぜなら、白自身に、心を寄せる白の事を思い浮かべたら魔女に対抗できたなどと言うのは流石の私でも、恥ずかし過ぎて言えない。
その点、マリシュにはそのままを伝えられるので問題ない。
マリシュ・ホークスには、以前購入したポーションの効果効能を調べさせている。彼自身、我が国において彼を凌ぐ者なしと言われるほど高名な魔法士である。彼ならばきっと、ポーションを解明し、その効果を受けない薬がつくれるはずだ。
次は商人を追います~。




