商人を追って⑳
生徒会に行くクルル様たちの事は心配だけど、あたしは約束通りクリシュアの案内で目的の店へやってきていた。
見る限り普通の文具店なんだけど……やたら見られてる。まさか、とは思うけど……あたしが可愛いからとか? ふへへへ、あたしってこの世界ではモテるのかも? もう、やだなぁ、あたしにはクルル様って言う超、超、超絶格好い婚約者がいるんだからねぇ~。惚れちゃダメなのぅ~。
足元でノヴァが、横に立つクリシュアが、肩口に乗っているグレイシアが、それぞれ同時に大きな溜息を吐き出した。
『あー、なんつーか……白、それは勘違いだぜ? 多分お前のか――』
『ノヴァ、主様に何ということをっ!!』
『いや、だがよ……。明らかにこいつら……のせ……るだろ?』
まさか、聞かれていたとは……。穴があったら深く深く掘って入りたい。そして、埋まったまま死にたい。ぐはっ。
ノヴァが訂正するように言いかけた言葉をグレイシアが遮る。が、今のあたしにそんな二人のやり取りは聞こえない。だって、聞かれた羞恥心に悶えていたから。ふぅーと息を吐き出し気持ちを切り替える。
やたら見てくる人たちをあたしも気付かれないよう観察した。彼らはチラチラではなく、じっくりと観察するようにあたしを見ている。その中の一人に、顔を向けると視線はさっとそらされた。そして、顔の位置を元に戻すとまた見られると言った状態で、何をどうしたらいいのか全く分からない。
うーん。なんでだろ? あたし何かしたかなぁ? 居心地が悪い。殺気の事を含め非常に買い物しづらいし、調べづらい。むーん。これはダメだよね~。とりあえず、さっさと何か買って帰ろう。
『ハク~。これ、おかしい。これ!』
いつもは明るく元気なはずのニマ君が、どこか焦ったような声をあげる。それにつられ彼の鼻先が指し示すガラス張りの棚を覗き込めば、見た事のある水晶のような透明感のある六面体に金属で装飾が付けられたアクセサリーが複数売られていた。
「な、なんてこんな所に――」精霊のコインがっ!!
周囲の視線に続くはずだった言葉を呑み込み、なんとか声を抑えた。
ガラス越しに見える精霊のコインが、本物かどうかをマジマジと確認する。色味とかは間違いし、形もよく似ている。色とりどりの水晶体は、元精霊の属性により同じ色になる事はないとオリジンは言っていた。これを見る限り似た色合いはあっても、同じ色はない。後確かめるとすれば……六面体の表面に浮き上がった属性を示すシンボルと名前だけど……。売られているこれにも同じように、属性を指し示すかのようにシンボルが浮き出し、元の名前で在ろう文字がローマ字で彫り込まれていた。
これってやっぱり間違いないよね? どうして、こんな街中にこんなものが売ってるの?
ゲームの時には無かった。私が干渉してルートを変えたから、こんなことになっているってこと?
それよりも今一番気になるのは、なんで精霊のコインがこんなにたくさん売られているのか、だ。精霊が見えない人がこれを探し出すことはできないはずだ。そう考えると売られていることもおかしい。…………まさか、あの教会の本当の目的って……これを量産するためだったとか?
『主様、わらわはこれを持ち返ってやりたいのじゃ』
『ハク~。みんなを連れて帰ってあげたいよ~』
グレイシアとニマ君の寂し気な声にハッとして、思考を切ると顔を上げた。売られているアクセサリーの値段は、一つあたり銀貨二枚。少しお高めの設定のようだ。
あたしの手持ち――クルル様から、何かあった時に使えともらった――は、金貨十枚。銀貨十枚で金貨一枚だから、今ここにある全部を買う事はできない。けど、寂し気な顔をする皆のために買える分買おう。
――ごめんね二人とも。今は全部は買えないけど、戻ってすぐにクルル様にお願いしようね。
『うん~。人にはお金がいるって僕わかってるから大丈夫だよ~』
『良いのじゃ、主様。直ぐでなくともよいのじゃ』
『ありがとな、ハク』
『主よ、感謝する』
――ううん。あたしがしたいからだからお礼は要らないよ。
あたし程度が出来る事は少ないけど、嬉しそうに笑う皆にほっこりしながら店員さんに声をかけた。驚いたように何度も確認されたけど、無事に半分ほどのアクセサリー買い込んだあたしは大量の荷物を抱え馬車が待つ大通りへ戻る。
その道すがら、人通りが少なくなる小道でノヴァが不意に足を止めた。
『ハク、そのまま聞け。どうやら我らをつけているバカがいるみてーだ。このまま進むよりも魔法で戻った方が安全だろうから、そこの脇道に入れ。グレイシア』
『任されよ』
突如上がったノヴァの緊張した声に、グレイシアが先に脇道へと飛び立った。つけられていると聞いた瞬間恐怖で足が止まりそうになる。
『ハク~、大丈夫だよ~。僕たちが絶対守るから~』
『主、私が守る』
『オレも忘れんなよ!』
皆、ありがとう。あたしは大丈夫だよ。
皆にお礼をいいながら、大丈夫だと自分にいいきかせる。そうしないと恐怖で足がすくんでしまいそうだったから。
足早に歩きグレイシアが飛び込んだ脇道へ一歩踏み込んだ。足元にはグレイシアと同じ色の淡い光が輝き、眩しさに目を閉じる。僅かな浮遊感を感じ、目を開けるとそこは既に、見慣れたあたしの部屋だった。
次回はちょっと、イチャイチャします(かけるのか!
ぐだぐだと書いたばかりに100話……いい加減終わりに向かわないと……




