商人を追って㉑
「ほえぇ~、凄いねグレイシア!」
『主様のためとあればこれぐらい、容易き事じゃ』
羽の柔らかな質感を確かめながらドヤるグレイシアを撫でる。ドヤった顔も可愛いから許すけどね? それよりも、ノヴァとニマ君の姿が見えない。
『二人なら、主を狙った者を突き止めるため追跡者を追っているようだ』
きょろきょろと部屋を見回したあたしの考えが伝わったらしいクリシュアが、窓辺に寄りかかりながら教えてくれた。それにありがとうと伝えつつ、そう言えばクリシュアはこれからどうするのだろう? と疑問が浮かぶ。
あたしとしては傍にいてくれた方が嬉しいけどさ、クリシュアは救ったあたしに遠慮して、リーンの元へ戻りたいって言えないんじゃないかな? うーん、どう伝えたらいいかな? あたしとては何にも気にしないでいいんだけど……。
「まぁ、白様、何時おかえりになったのですか?!」
突如上がった声にそちらを向けば、出来るメイドさんメリア―が、掃除道具を持ったまま扉を開けた状態で驚いていた。あぁ、そう言えばまだただいまって言ってなかったな~と、反省したあたしはあたらめてただいまと伝えた。
「そう言えば、メアリー。クルル様たち帰ってきてる?」
「いえ、まだおかえりになっておりませんよ。ただ、もうすでに学園を出たと言う報告は頂いておりますから、もう少ししたらおかえりになるかと思います」
「そっか~、わかった~」
「それよりも白様……」
未だ掃除道具を持ったままもメアリーにずぃっと近寄られ、その迫力にあたしは一歩後ずさる。
「ど、どど、どうしたの?」
「白様……淑女として……。いいえ、クルル様のご婚約者様として、その恰好はいかがかと思いますわ! 直ぐにお風呂の用意をいたしますから、お着換えいたしましょうね?」
そう言ったメアリーが鏡を差し出すと、何度も頷いた。鏡を受け取り自分の姿を見れば、本当に酷いありさまだった。
朝、整えたはずの髪はボサボサだし、制服は皺が寄りよれよれ、挙句……薄く化粧した顔は、表現するのも悍ましいほどの状態で。
これは誰が見ても酷いと思うはずだと納得する。
「アハハハハ……はっ、待って?! あたし、この顔でクルル様にあったの? て言うか、あの時の視線は……まさかっ!!」
店での視線を思い出したあたしは、羞恥心じゃなく恥辱にまみれた。これはもう、本気で穴を掘らなきゃだめだ。生きていけない……まさか、この顔で王都を歩いていたなんて、ありえない! て言うか、クルル様も少しぐらいあたしの顔のおかしさにツッコミを入れてくれてもいいと思う!!
『なるほどな~。その顔だったからあの店の奴らは見てたのか~』
『ただいま~。ハクはいつでもかわいいと僕は思うよ~?』
『主様の美しさは、その程度では消えぬのじゃ。安心されよ』
『主……すまない』
いつの間にか帰ってきたノヴァとニマ君。美しさとか可愛さ褒めてくれるのは嬉しいけど、今じゃない! 唯一、謝ってくれたクリシュアだけど、気づいていたってことだよね……。はぁ、もう埋まりたい。埋まってしまいたい。
ドーンと凹んだあたしの両脇を抱え、メアリーとアマンダがお風呂場へ直行する。まるで重犯罪を犯した犯人のようだと思いながら、お風呂に入れられ隅々まで洗われスッキリとした。
お風呂から上がり、クルル様たちが帰るのを待ちながら、のんびりと交換日記を書き過ごす。王妃様の日記には、お茶会や舞踏会の話題が多い。クリスティアちゃんは、真面目に勉強を頑張っているらしく、第二王子ともそれなりに仲良くやっているそうだ。
「入るぞ?」
「お邪魔致します」
『戻ったにょだ』
動かしていた羽ペンを止めて振り返れば、少し疲れた表情のクルル様が視界に入る。
「クルル様! 無事だったんですねぇ~。良かったぁ!」
緩みそうになる涙腺を気合いで抑えこむ。ここで泣いていてはダメだと必死に耐えて、両手を広げてクルル様胸に飛び込んだ。トスっと軽い音を立て胸いっぱいにクルル様の匂いを吸い込む。そんなあたしをいつもなら、デコピンで追い払うクルル様が何故か今日はぎゅーっと抱きしめてくれた。
柔らかい――いや、違う、これあたしのこと飛ばす気だ。これ完全にホールド状態ですよ? ギシギシと骨が鳴りそうなほどの締め付けに気が遠くのを感じながら、それでもめいっぱい甘え――いや、無理。痛すぎて無理。ちょ、流石に失神する。無理無理無理無理無理ムリ……。
『クルル……主がソロソロ気を失いそうだ』
クリシュアの助言が効いてクルル様のホールドが弱まった。抜け出すのは今しかない! と力いっぱい抜け出したあたしに、クルル様がオロオロと言い訳めいたことを言い出した。
「うおっ、すまない白……。ちょっと落ち込んでいたから、お前の顔をみてついな、つい。それに、その少し話したいことがあってな……あぁ、今時間は大丈夫か? もし、時間が無いようなら出直――」
「大丈夫です! あたしもクルル様にお願いがあって、待ってましたから」
珍しいと言えるクルル様の醜態を前に、冷静さを取り戻したあたしはニッコリ微笑みながらクルル様をソファーへと誘った。
いちゃいちゃはこれから(ぉぃ




