商人を追って⑱
『クリシュア、良いのか?』
『構わない』
『そうか……』
意味深なオリジンの問いかけに、クリシュアは大きく頷いた。心配そうな瞳を向ける他の精霊たちに、あたし自身もオリジンの『契約主に関する情報は話せない』と言う言葉を思い出しクリシュアが心配になる。
「クリシュア、無理しなくていいんだよ? 店の名前はわかってるんだし、あたし達で探せるから……だから、ね?」
「白?」
『これは契約の禁忌にかかる事はないから、心配は無用だ』
「白様?」
「本当に?」
突然精霊たちと話し始めたあたしをクルル様とイリュス様が呼ぶ。けど、今はそれどころじゃないと、二人の呼びかけを無視してクリシュアを優先する。
見つめるクリシュアの瞳は、浅瀬の海のような色合いをしていてとても綺麗だった。じゃなくて! しっかりとした意志の強そうな瞳に見える。
うーん、精霊の瞳って正直人間と違うからわからん! 嘘をついている訳じゃなさそうだけど、本当に大丈夫なのかな?
『心配せずとも好いのじゃ主様。この程度で、禁忌に触れる事はない』
クリシュアを援護射撃するように、グレイシアが補足する。その言葉を信じるよ、と言う意思を込めて、あたしはクリシュアに頷いた。それから、蚊帳の外に追いやられていたクルル様とイリュス様に向き直るとクリシュアの言葉を伝える。
「そうか、クリシュア殿が」
「店の場所もご存じなのですか?」
言葉を濁したクルル様と情報があればそれでいいと言わんばかりのイリュス様の声に、クリシュアがその姿を現すと、二人に頷いて見せた。
『店の場所は知っている。案内もしよう。だが、そこで契約者が誰と会いどのような会話をしていたかは、教えられない』
質問に答えたクリシュアの言葉は、かなり限定されていたけど店までの案内を買って出てくれる。それにイリュス様とクルル様が頭を下げお礼を言い。
「場所がわかれば十分です。今日の放課後にでも、参りますか?」
「そうだな。授業が終わり次第店に行く事にしよう」
学園の授業が終わり次第向かうという方向で話が決まった。
そこへ授業開始の鐘が鳴る。流石に授業が始まってまで保健室で授業をさぼる訳にはいかないクルル様たちは、先生の呼びかけに慌てて教室へ戻って行った。
クルル様たちを見送ったあたしは、先生に促され再びベットへと潜り込む。
『ハク、ゆっくり休めよ!』
『僕はここ~。寝てる間は僕が守ってあげるから安心して寝てね~』
『主様、警護は任されよ』
『我らにかかれば、何が来ても問題ない。ゆっくり寝ておけ』
「うん。ありがとう~」
頑張ると決めたばかりなのに、さぼっていいのかな? と言う罪悪感が半端ない。まぁでも、先生にも寝ておきなさいって言われたしいいかと思い直し、目を閉じる。すると直ぐに、眠気が訪れあたしはまどろみの中へと沈んで行く。
あ、クリシュアにお礼言わなきゃ……。
「ク、りしゅ、あ、あり、がと……」
『気にするな、お前に仲間を救って貰った礼だ』
優しい手があたしの髪を梳くように撫でる。
あぁ、気持ちいい――。
*******
質問です。目が覚めた途端、推しの顔がドアップであったらあなたはどうしますか?
答え、冷静になろうと思いながら、身体はキョドり口についた涎と目ヤニを拭き取る。デス。
現実逃避するように視線を遠くに向ける。そんなあたしにクルル様は申し訳なさそうな表情を向けると予想外の言葉を発した。
「白、起こして悪い。実は、生徒会に入る事になってしまって、共に雑貨屋に行くことができなくなったんだ」
「ふぇ? なんで、クルル様が生徒会に?」
ゲームでクルル様は生徒会に入っていなかった。なのに、なんで生徒会入りしてるの? 意味が分からないんだけど……。生徒会と言えば、アレクとリーン。そして、セシル・オリバーンと言う魔法が得意な攻略対象の辺境伯家次男ともう一人の攻略対象であるアラブ系の王子――名前忘れた……えーっと、やたら長い名前で、何だっけ?――が居たはずだ。
「その実はな、アレクの推薦だからと学園側から打診されてしまってな……断れなかったんだ」
「え? やだよ。どうして? リーンの側にいっちゃダメ」
リーンとクルル様が近づく事に気付いたあたしは、軽いパニックを起こす。
わかってる。これはあたしの一方的な我儘だ。だけど、リーンにクルル様たちが近づくのが怖い。
あの食事処で、リーンの使ったラブリィポーションをクルル様たちは回避できなかった。あたしよりリーンをあの時確実に取っていた。
わざとじゃない、そうわかっていても、リーンと楽し気に会話するクルル様たちの姿がどうしても嫌で駄々をこねた。
「白、落ち着け。リーンに関しては十分に注意する。だから――」
「気を付けたところで、リーンはアレクが居る限り、ポーション使うじゃん! クルル様たちは前に、ポーションで……ぐずっ」
クルル様の言葉を遮り、あたしは感情のまま叫ぶ。
余りのも感情が高ぶりすぎて、最後の方は言葉に出来なかった。
「白……」とあたしの名前を呼んだまま沈黙したクルル様は、眉根を寄せ耐えるような表情をした。
長いような短いような沈黙が破られる。
「大丈夫だから、私を信じてくれ」
「本当に? 本当に大丈夫なの?」
「今回は前回のようにはならない。なんせオリジン様に協力して頂くからな。だから、心配するな」
『うむ。我が協力するにょだ。ハクは心配せず、クルルの帰りを待っておればよにょだ』
両腕を組み、小人オリジンがふんぞり返る姿に不安がほんの少しだけ和らいだ。
また来週~!




