結界魔法の真相
クルル様たちと別れてハーリー先生と二人教室に向かったあたしは今、好奇の視線にさらされていた。何かを期待するような視線の中に混ざっているのは、あたし自身を値踏みするような視線。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。クルル様たちと離れたらリーンがとか思う前に、もっと大事なことがあった。なんで忘れていたの。自分が引きこもりだって事っ!! あぁ、今すぐここから逃げたい。ダメ、怖い。怖いよ。た、助けて、く、くるるさまぁ。
「皆さんにご紹介しますね。こちら、今日からクラスメイトになるハク・アマチさんです。彼女は、アストラル王国からの留学生になります。婚約者のいる方ですので、男子生徒は特にご注意下さいね。では、アマチさん、自己紹介をお願いします」
痛いぐらいに心臓が早鐘を打ち、のどがひりついて上手く声が出せない。何度も深呼吸を繰り返し、必死に前を見ようと思うがそれもできず。あたしはただただ俯いた。
苦しくなる呼吸は、徐々に視界を奪っていく――
ガタッ
「アマチさん!!」
『ハク!』
『ハク!!』
『おい!』
『主様っ!』
『あるじっ!』
朦朧とする意識の中、クリシュアの”あるじ”と言う声が聞こえた気がした。
「……った? どうして、倒れたんだ?」
「お、落ち着いて下さい。ただ、緊張しすぎて呼吸困難になっただけです」
「緊張しすぎて、呼吸困難だと?」
「えぇ、そうです」
「……うっ、うーん
クラスメイトたちの冷たい視線に冷や汗がでる。誰か、誰か助けてと目を開けて、ガバっと起き上がって見えた景色は、あたしの知らない空間だった。
奥の方に見える背中は、クルル様とイリュス様かな? 心配かけちゃった。後で謝らないと……。それは良いとして、ここはいったい……
「……どこ?」
クルル様たちの姿が見えて安心したのも束の間、あたしは周囲を見回し首を傾げた。頭上にパタと降りたグレイシアが、気づかしげに首を捻り頭をつっつく。
『主様、身体は問題ないかえ?』
「あ、うん。だ、大丈夫だけど……あたし、どうしてここに?」
『おめーは、倒れたんだよ。自己紹介しろって言われてな』
『はぁ~くぅぅぅ! 僕、僕凄く心配したんだよぉぉぉ。もう大丈夫なのぉ~?』
「そっか、倒れちゃったんだ。あたし……ニマ君、もう大丈夫だよ」
笑顔になるはずの顔が、引き攣っているのが自分でもわかる。あたしは今、全く笑えていない。きっと醜い顔をしているはずだ。それでもなんとか笑顔を作ろうとしていたあたしの頭を大きくて骨ばった手が優しく撫でた。
たどたどしくゆっくりと撫でる手の持ち主を見上げれば、痛々しそうに顔を歪め涙を流していた。
「ク、クリシュア?」
『……』
精霊は、心の機敏に敏感だとオリジンが言っていた。その事を思い出したあたしは、クリシュアが泣いている理由がわかってしまった。この優しい精霊は、あたしの代わりに泣いてくれているのだろう。なら、あたしに出来る事は――。
ゲームの中で、ヒロインがしていたようにクリシュアを両腕でぎゅっと強く抱きしめた。
「ありがとう」
『……あぁ、もう、いいのか?』
「うん。クリシュアのおかげで、もう、本当に大丈夫!」
心が安らいだところでクリシュアとのハグを解いたあたしは、ニッコリと笑う。するとクリシュアも僅かに口角を上げ『そうか、ならいい』と言って頷いてくれた。
優し気に微笑むクリシュアの顔を見ていたら、フツフツとリーンに対しての怒りがわいて来る。
どうして、どうしてこんな優しい精霊をにリーンは、あんな魔法を使わせたんだろう? あの教会の精霊達を守るため? 守るためって言うのは多分違う。だって、クルル様たちが言ってたもの。カザス夫人の実家にあった籠と同じだって! なら、リーンはどうしてあそこでクリシュアを使ったんだろう? もしかして……盗んだものを隠すためだけに、クリシュアを使い捨てにしたんじゃ?
「ねぇ、クリシュア。教えて欲しい事があるの」
『なんだ?』
「あの教会で魔法を発動した理由は何? リーンになんて言われたの?」
『ハク……、そ、それに、私は答えられない。契約主との会話や契約内容については、契約が切れていたとしても決して他者に明かしてはならないんだ』
「そう。なら、あたしなりに考えたこと言うけど。もしかして……あの教会でクリシュアが、あの魔法を使った理由は、リーンに精霊の存在を隠して欲しいと言われたからだよね? ただ、それだけなら魔法で出来る。クリシュアは、あの籠がとういった物かを薄々わかってたんじゃない? 精霊には危険なものだと理解していたんじゃない? だから、仲間を救いたくてクリシュアは自分をも滅ぼすかもしれない結界を使った。違う?」
『……ど、どうして……』
「答えにくい事聞いてごめんね。でも、簡単に自分を犠牲にしないで。クリシュアが居なくなるのは嫌だよ」
『ハク……ち、違う。私は、私は、ハクの存在を知っていたからこそ、あの結界を発動させた。ハクがいずれこの国へ来るだろうことも、私を救ってくれるかもしれないだろうことも全て、知っていたんだ!』
「は? 知っていたって、どういう事?」
『そういう事か……だから、そなたの存在の証を教会内部に残したのだな?』
『あぁ、そうだ』
「ちょ、全然わからないんだけど?」
『ふむ。ハクに分かりやすく説明するとするならば、そうだな。ハクも知っているだろう? 精霊同士は言葉を交わさずとも、考えが読み取れると言う事を』
コクコクと肯定の意味を込めて首を振れば、オリジンは頷いて続きを話してくれた。
その内容は、精霊と言うのは一所に留まる存在ではないらしい。それ故、自分たちが陥った状況や、その他の事を常に行き来することでお互いに把握しているそうだ。
今回の場合、事前にオリジンたちがカザス夫人の実家の件を解決したため、その情報――籠の事とかあたしのヒロイン張りの回復魔法とか――がクリシュアの元にも届いていた。聖女と呼ばれるリーンの行いが、契約者として失格だと感じ始めていたクリシュアは、仲間の精霊達を守るために結界魔法を使ってその命を繋ぎ、あたしを待つことにしたらしい。
けど、あたしが来たところで自分の存在に気付かなければ何の意味もないと思ったクリシュアは、自分の精力を込めたイヤリング――これにも、精霊との契約者でなければ判らない結界があったみたい――を教会内に残した。そして、イヤリングを持った存在だけに結界魔法を発動したクリシュアが見えるようにしたそうだ。
クリシュアが自分の身を亡ぼすと分かっていても結界を使った理由がわかった。けど、一か八かのカケ過ぎる。それでもクリシュアは助けたかったんだろうな……。
やっぱり、この子は優しい子だ。それなのに、リーンはどうして悪事に加担するのだろう? 本来ヒロインと言うものは、心優しく正義と呼ばれる存在に近いはずなのに……。
「……どうして?」
「白! 目覚めたのか? ホームルームで倒れたと聞いたぞ、無事か?」
「く、クルル様!」
クルル様の硬く引き締まった胸に頭ごと――顔面強打気味に抱きしめられた。ギュウギュウと押し付けられる顔から、なんとかクルル様の名前だけを吐き出した。
すみません~。少し長いです~(;´・ω・)
後、もう少し!




