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編入②

 門こそ西洋風の学園の建物は、シックなレンガ造りで、テレビで見た横浜の倉庫を思い起させる。見ためだけで中身は全然違うけど。

 中央に一番大きな建物があり、東西南北に走る廊下はそれぞれの校舎へと繋がっている。

 そのため中央棟を囲むように広がる中庭は、至る所に花壇が設置され四季折々の花が等間隔で植えられ見る人を楽しませていた。


「ここが、アストール学園か」

「可愛い感じの造りだよね~」

「お二方、まずは職員棟へ参りましょう」


 中央棟の玄関前で馬車を降りたあたしたちは、イリュス様の声に従い中へと進んだ。

 見た目は、普通の煉瓦造りの建物だけど、中へ一歩踏み込めばそこは別世界だ。ゲームだと大して気にならなかったけど……壊したらどうしよう。とか思うと、緊張する。


 玄関ホールは、赤いふかふかした絨毯が敷かれ、足を動かす度に柔らかさを感じる。白く塗られた壁や柱の間には、いかにも高そうな調度品が嫌味なく並べられていた。


「ほえ~。しゅごい」

「そうか?」


 感嘆の息を吐き出し褒めるあたしに、クルル様が首を傾げる。

 そりゃ、王城に比べれば大したことないかもしれないけど、一般庶民のあたしにはこれはこれで凄い物なの! も~、これだからお金持ってるイケメンはっ!


「行きますよ」


 イリュス様の背中を追って歩き出したクルル様の背中を見ながらあたしは一人思ってしまう。イケメン二人が歩く姿は、学生服なのにこの空間と非常にマッチしていると……。一方であたしはと言えば……合わない! どう見ても合わないよ。チンチクリンが制服着てイケメンの隣歩くとか絶対に合ってない。


 なんて事を考えているうちに、あたしたちは学長室についた。と言っても、結構な時間が経っているわけで……正直、新品の靴のせいで足が痛い。

 学長室は玄関ホールから長い廊下を歩き、三階まで階段を登り、最上階の一番奥にあった。


 学長室の観音開きの扉をイリュス様がノックすれば、中から秘書らしい眼鏡の女性が顔を出す。その女性はあたしたちがどういった生徒なのかを既に知っているらしく「ようこそ、どうぞ中へ」と促してくれた。


 学長室の広さは凡そで、日本のあたしの部屋が二つ入りそうなぐらいだから十二畳? と、結構広い。壁際には、びっしりと本棚が並びギュウギュウに本が詰められている。

 地震とかで、アレが倒れてきたら確実に死ぬ。直感的にそう感じたあたしは、僅かに中央へ寄る。


 中央窓側に置かれた執務机っぽいものは、広々としていて大きい。その机の上には大量の書類が積み上げられていた。

 机デカっ! 三人が座れそうなソファーと大して変わらない大きさってどんだけなの? て言うか、隙間から見える頭の人が学園長なのかな? ぶっちゃけゲームでは、どんな顔してるのかわからなかったからちょっと楽しみ。


「セーグリフ学園長。アストラル王国よりの留学生がいらっしゃいました」

「あぁ、うん。ちょっと待って!」

「皆さまはどうぞ、こちらへおかけください」


 促されるままにソファーに座る。そっと出された紅茶から視線を執務机の方へ向けた。さっき聞こえた声は思ったよりも若かった。

 これはイケメンの予感? なんてくだらない事を考えながら学長が動き出すのを待った。


『ハク、クッキーが欲しいにょだ』

(あぁ、うん。待ってね~、ニマ君とグレイシア、ノヴァも食べる?)

『うん~』

『おう、食うぜ!』

『頂きたいのじゃ』


 紅茶と一緒に出されたお茶菓子のクッキーを四枚手に取り、それぞれに渡す。あたしのとってはいつも通りの行動だった。けれど、人の人には異様に映ったらしく、繁々と見詰められてしまった。

 それを教えてくれたのはクルル様なんだけどね。


 首を傾げて、クルル様たちを見れば少しだけ情けない表情を返される。何がおかしいのかわからないんだけど何? と目で訴えてみればクルル様が、秘書の人を見てあたしを見る。

 意味が、意味が全く分からないよ! と思った途端、頭の中にクルル様の声が響いた。


――ハク、オリジン様たちは今、姿を消しておられる。私にすら見えない状態だ。そんな中、ハクがクッキーを持って渡せば異様に見えるだろうから……。


 最後の方の言葉を濁したクルル様が、引き攣り気味の笑顔で教えてくれた。要はあれですね。マジックみたいなものなんですね? 四枚のクッキーを突然掴んだあたしが、両肩と頭、膝に向かってクッキーを差し出したと思ったら消えましたぁ~じゃぁ~ん。みたいなそんな状態なんですね?! あぁ、終わった。あたしの楽しい楽しい、学園生活はこの瞬間に変人と言うレッテルを張られて終わりを告げた――妄想だけど。


 クルル様の指摘を受けどんよりと暗くなったところで、学園長がガタっと椅子を鳴らして立ち上がる。その音に視線を向ければ、モスグリーンの髪を右に流し三つ編みにした長身の男の人がこちらへと歩いて来る。長い前髪からちらりと見えた目元は優し気で、肌は浅黒くアジア系の顔立ちをしていた。

明日も更新です!

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