商人を追って⑯
馬車の側に降り立ったあたしとオリジンにクルル様たちが心配そうな顔で駆け寄ってくる。そんな二人の後ろから『だから大丈夫だって言っただろ~』とぼやきながらノヴァ君がライオン姿でゆったりと歩き、尻尾フリフリのニマ君は『おかえり~』と笑顔? で迎えてくれた。
「それで、白様どうだったのですか?」
「ん~。ちょっとここで話すのは微妙だから、後で話すよ~」
そうやって言葉を濁したあたしは、この事態をどう説明したらいいかない頭をフル回転させながら考える。
今一番危機感を持って欲しいのはアレクなんだけど……アレクと話したいとは思えないしなぁ。そうなるとクルル様経由で、髭に伝えて貰う方が良いけど。なんでそうなったかの説明がめんどくさい。それとやっぱ、どう見ても神殿が邪魔なんだよなぁ。
『主様、戻ったぞえ』
教会の地下を調べに行ったはずのグレイシアが肩に止まる。そうして、神殿の内部について教えてくれた。
グレイシアが見る限り、地上にクリシュアらしき痕跡はないらしく彼女はそのまま地下へ。そこでグレイシアは進めなくなったとか……。
『ふむ、観る事も出来なかったのか?』
『そうじゃ。主様と契約を交わし、強くなったはずのわらわですら観れなんだ』
『グレイシアでダメならオレらも無理だなー』
『地下に何かあるのは間違いなさそうだねぇ~』
グレイシアの報告を聞いていたオリジンが当然のことを聞く。
見れないのは扉閉まってたりしたからじゃないの~? なんて考えていたらオリジンから『視覚を使ってみるのではなく、そうだな……人の言葉で言うところの魔力の感知を観ると言うのだ』と、偉そうな上から目線で勝手に返事が来た。
イラッとしながらブー垂れたあたしの両脇を、イリュス様とクルル様がガシっと掴むとそのまま馬車へ連行された。
馬車のドアが閉まると同時に二人があたしに顔を寄せる。
クルル様の睫毛が長いのは知ってたけど、イリュス様も眼鏡にかかりそうなぐらい長いじゃないか! これは眼福もの……なんて考えていたら
「グレイシア殿は何と言っていた?」
「洗いざらい吐いて下さい、さぁ!」
と、同時に詰め寄られていただけでした……トホホ。
グレイシアたちの会話が聞こえていないらしいクルル様たちはやきもきしていたようで、あたしはそんな二人にグレイシアたちが話していたことをそのまま伝える。伝書鳩なみの実直さですよ!
「――ってな感じらしいです。みえるって言うのは、オリジンが言うには気配を感じるとか魔力を感じるとかそう言う意味合いらしいから、人間だとわからないらしいですよ~?」
一通りの説明を終えたあたしの最後の言葉を聞いているのかいないのか、クルル様たちは二人揃って眉間に皺をよせている。そしてあたしの両肩と膝の上では四人の精霊が、未だに難しい顔をして今後どうやって入り込むかと言う話をしている。この空間に沢山の人が居るのに、誰もあたしの存在を気にしていないように思う。
まぁ、それでいいんだけどね。なんてどこか諦めた気分で、外を眺めていたあたしはたまたま教会の入口から出てくるリーンを見つけてしまう。
「はっ! なんで?!」
小さくつぶやいたつもりの声は、意外に大きかったらしくクルル様とイリュス様、そして精霊四人にも聞こえていたようで……。あたしが据わった右の窓に張り付く面々に潰される形で、リーンの背中を見送った。
リーンがあの教会で何をしているのかはわからないけど、多分あの地下にクリシュアがいる気がする。あたしの勘がそう言っている! ならば、調べるしかない。と、勝手に腹を括ったあたしは、その日皆が寝静まった頃合いを見計らい、オリジンたちを起こさないようベットを抜け出す。
ソロリと気付かれないよう歩いてみたけれど、流石精霊と言うべきか一歩目を踏み出した時点でオリジンに『どこへゆくにょだ』と言われてしまった。
ちょっと、トイ――あの教会に用があってね。オリジン達は寝てていいよ。
言い訳がましくトイレと言いかけたのだが、四人全員にジト目を向けられたため素直に白状しましたとも……ぐふっ。
『一人でゆくにょはだめにゃにょだ。我らもゆくにょだ』
一緒に行ってくれるらしいオリジンがフワフワと浮かび大人の姿になった。ニマ君も、グレイシアもノヴァも皆大きい姿に変わると見慣れた魔法陣が部屋を包み込んだ。
ちょ、まって、あたしまだ、ねま――。
寝巻から着替えるまで待って欲しいと言う間もなくあたしは、例の廃れた教会の前に立っている。あたしを囲むように佇み教会を見ているオリジンたちを尻目に、あたしはがっくりと項垂れる。
あぁ、綺麗な月だなぁ~、って違う! そうそう、流石精霊だよね。言ってすぐに現地着って、これも違う! せめて、着替える時間ぐらい欲しかった。これじゃぁ、あたし夢遊病者の深夜徘徊みたいじゃない! あー現実逃避したい。
『主様は何をたそがれおいでなのじゃ?』
『ふむ。よくわからぬが、きっと我らの魔法に驚いているのだ』
『はく~、いかないのぅ?』
『ふーん。そうか、で、どうやって中に入るつもりだ?』
人通りの少ない教会付近は、耳が居たくなるほどの静寂を保っていた。
そんな中、冗談めかして敬礼しながら誰もいない虚空へ向かって「アマチハクです。現在寝巻姿で教会の入口に棒立ちです。うちの精霊さんたち出来る子なんですけど、そのかげで現実逃避できませんでした!!」と報告の声をあげてみるも、虚しさだけが胸を通り過ぎて行った――。




