商人を追って⑮
クルル様の指示で廃れた教会に向かった馬車は、そのまま走り続けている。ポーション屋から真逆の方向だし、すぐには着かないのは分っているけど……この空気どうにかして欲しいデス!
クルル様は、あたしの隣に腰掛けて何かを考えている様子だし! イリュス様は、イリュス様で窓の外に目をやっているように見えるけど、眼が据わっているしで非常に空気が重い。
「そう言えば、白。何故あの教会に行きたかったんだ?」
思い出したように顔を上げるクルル様に、あたしはこの空気を壊すべく出来るだけ明るい声で答えようと心に決めた。
「えぇ~とですねぇ~」
「……普段通りに話してくれ。今その間延びした声を聴くとカトレアさんを思い出してしまう……」
なっ!! こんなところで何故カトレアさん! ってそうか、王子であるクルル様には相当に鮮烈でしんどい経験だったのかも! 嫌そうな顔してるから多分間違ってないはず……気を付けよう。
気を取り直したあたしは、廃れた教会に行く目的をクルル様たちに説明する。本当なら、精霊誘拐を誑かした商人を追うためって言わなきゃいけないのかもしれない。でも、なんだろう? リーンに対する違和感とか他にもいろいろなものが混じって、今は商人よりもあの教会にあるはずのクリシュアの痕跡を探すべきだと思ってしまった。
前に来た時に、クリシュアの痕跡があるとオリジンは言っていたけど……。それが絶対ではないと思うんだよね。
このまま放置しておいてもしリーンが教会を訪れていないとなれば……あたしの知るゲームとは全く違うストーリーになっている可能性が非常に高くなってしまう。
「――と言う訳で、水の精霊クリシュアをちょっと探そうかと思って」
「探す?」
「探せるのですか?!」
「あぁ、うん。探せると言うかまーそれについては、グレイシアにお願いするつもりだよ」
『任されよ主』
水の上位精霊である氷のグレイシアなら、クリシュアの痕跡は簡単に探せる。
本筋を通っていれば、この国のアレクを落とす時にクリシュアが捕えられて仲間になったグレシアが探しだしてそれを救う的なイベントもあったし大丈夫なはず。
なんだろ、最近凄く真面目に攻略してる気がするけど……ん???
『どうやら到着ようだの』
澄んだグレイシアの声に窓の外を見れば、廃れた教会の壊れかけた尖塔っぽいものが見えた。
それから数分後、ゆっくりと馬車が止まる。
馬車を降りて早々に、グレイシアが飛び立ちクリシュアの痕跡を探し始めた。心配するクルル様とイリュス様をなんとか宥めすかし、オリジンが居るから大丈夫と言う一言で黙らせる。
そんな二人には、ニマ君とノヴァが護衛に付いてくれる事になりリーンが着たらすぐに逃げるように伝えた。
オリジンに捕まり空中に浮いたあたしは、噴水の跡地へ向かうようお願いする。
「オリジン、あそこに行って」
『ふむ。よかろう』
何の抵抗もなくスイーと移動したオリジンが、噴水跡地に降り立ちあたしを下ろす。そして、どこからか取り出した葉っぱをふわりと仰げば、薄青に輝く光の幕が中庭一帯を覆うように現れた。
「ちょ、ナニコレ、ナニコレ?」
興奮してオリジンに詰め寄るあたしに、オリジンはさも当然と言わんばかりのドヤった顔で『結界のようなものだ』と一言。ようなものと言う言い回しは気になるけど、凄く良い物だと思うことにした。
『ここに何があると言うのだ?』
「ん~。ちょっとね~」
不思議そうに尋ねてくるオリジンの声に答えながら、六角形になった噴水の跡地の中心部を、ゴソゴソと掘り返す。カツンと言う音と共に掘り返していた手を止めて、優しくそれを取り出した。
黒く錆びついたようにくすんだ流水のコイン。
「やっぱり、クリシュアはここに来てないんだね……」
『それは……! 何故ここにあると思ったのだ? そなたは一体どこまで我らの世界の事をしっているのだ?』
流水のコインを眺めていたあたしの横から、オリジンの切羽詰まったような声が聞こえる。けど、今はそれに答える余裕はない。
だって、これがここにあると言う事は――。
オープニングの後、リーン――ヒロインは、ここでこれを見つけて旅の途中で出会ったクリシュアに与える。流水のコインを与えられたクリシュアは、それに感謝してヒロインに好意を抱きヒロインを守る精霊となったはず。
リーンもクリシュアも本筋のストーリーを歩んでいないと言う事になってしまう。
「まずは、クリシュアを探さなきゃ! グレイシア、クリシュアの痕跡は見えた?」
『ここにクリシュアの痕跡は残っておらぬぞ、主様』
『水のの痕跡か……そう言えば、この地下にも精霊がおるかもしれんとクルル達が言っていたのだ』
「あぁ、そう言えばそんなこと言ってたね~」
『我が中に入ってみてくるとしようぞ、主様』
待ってと言いかけたあたしの言葉よりも早く、上空を旋回していたグレイシアが言葉を残し姿を消した。
『仕方ない奴なのだ。とりあえず我らは戻るぞ』
そう言ってあたしを抱き上げたオリジンが浮かび上がる。慌てて渦巻く水の流れが両面に描かれ、元は青々としたものだったであろうそれをあたしはポケットにしまい込み、オリジンの首に腕を回した。
追います~!




