悪役王女⑩
髭のごめんなさいはあったものの当人からのごめんなさいは無い。その上、どうもアレクは聖女であるリーンに恋心を持っているらしい。彼女があたしの存在のせいで蔑ろにされるのではないかと思っているようで、話し合いは難航していた。
別にリーンがクルル様に何かしない限りあたしは邪魔しないんだけどな~。そんな必死にリーンの立場とか言われても困るし。
というのがあたしの感想だった。
「私から要求する事はふたつだ。今後アーニセス王女並びにアレクが、私の婚約者に近づかない事。そして、今回の件を心からハクに頭を下げて謝罪し反省する事だ!」
もうそろそろ陽がのぼりそうな時間です。クルル様もいい加減アレクの戯言にうんざりしているようで、ハッキリと要求をつきつけた。なのにオリジンが「ふむ。クルルよ。謝罪だけでは到底我らは納得せぬ」とか言い出して、また振り出しに……。
寝てないし頭回らないのはわかる。あたしもいい加減ちゃんと寝たい!
『ハク、そなたはどうしたいのだ?』
整った無表情があたしを見る。いい加減眠くて頭が働かないながらも必死に考えた。
はっきり言えばムカつくし、嫌いではあるんだけど……断罪とかにはしたくない。うーんどうしたら反省を促せるんだろう? て言うかクルル様にここまで言われたんだから、もうすでにベッコベコな気がするんだけど?
チラっと悪役王女の方へ視線を向けた。相変わらず俯いてて表情はわからない。だが、その肩が僅かに揺れている。
「クルル殿の言い分は分った。どちらにしても今回の件を、国家間での大事にしたくない。そこで、アレクには二週間の謹慎を、アーニセスには三か月の間、母上の元へ行かせると言うのはどうだ?」
「っ、なぜ、私が謹慎なんですか!」
「――お父様!! お婆様のところは嫌ですわ!」
疲れ切った顔の髭の提案にアレクは怒り、悪役王女は悲壮感を漂わせ叫ぶ。
余程、お婆様と言う人の所に行くのが嫌らしい。ゲームに出て来たかと言われれば全く出て来てない。なので私にはその人がどんな人か、想像がつかなかった。
――なるほど。アルステリア様のところか。
突然割り込んだクルル様の声にあたしはついつい、どんな人なのか聞いてしまう。するとクルル様が実に楽しそうに教えてくれた。
アルステリア様と言うのは、国王の産みの母でこの国の元王妃様だそうだ。
質素倹約が好きで、実直な性格のアルステリア様は王宮暮らしが本当に肌に合わなかったらしく。現国王が戴冠すると同時に、国内の北にあるピーヨセル――は年中気温が低く、冬場は雪に覆いつくされる地方にある氷双月離宮に移動したとか。
「行かせるだけでは、何の意味も無いかと思いますが?」
「勿論、今回の事を母上には手紙で知らた上で、アーニセスを向かわせる。三か月と一応期限は切るが、母上の事だまず間違いなく、アーニセスが反省するまでは返さないだろう」
「という事のようですが、ハク様、精霊様方いかがですか?」
イリュス様の疑問に髭が苦笑い気味に答える。
最終決定権はあたしに丸投げされるらしい。縋るような眼であたしを見る悪役王女には申し訳ないけど、そんぐらい嫌ならいい薬になるよね。
『ほほほ、面白そうじゃの』
『まー、本当は殺してやりたいところだけど、ハクに危害を加えられないところにいくならいいんじゃねーか?』
『ふむ。悪くない案なのだ』
『僕は賛成かなぁ~』
グレイシア、ノヴァ、オリジン、ニマ君も賛成のようなので、あたしも頷く。その様子を見て取ったクルル様が代表して、最終決定を下す。
「では、陛下のご意見通りに。謝罪に関しては今後会わせるつもりはないので、手紙でお願いしたい」
「わかった。そのように取り計らおう」
クルル様の決定に、髭が感謝を述べ宰相様が頭を下げた。アレクは悔しそうに唇を噛みしめ無言のまま部屋を出ていき、アーニセス王女はメイドに支えられフラフラと出ていった。
その後、いくつかイリュス様と髭、宰相様との間でやり取りがあり、イリュス様の頑張りで学園には三日後に編入できる事になった。
アーニセス王女は、今日の夕方にでもピーヨセルに旅立つ予定。アレクは、本日より謹慎となりその間は騎士団で一般兵と同じ訓練を受けるそうだ。反省が見えない場合は延長もありえると髭が言っていた。
馬車に乗り込み、城の門を抜けるとオレンジ色の朝日が目に入り、眩しさに目を眇める。
長い長い一日が、漸く終わったと心の底から安堵の息を吐きだした。
「ハク。今日行く予定だった店だが」
「あぁ~。うん。ポーション屋でしょー?」
「一度寝て、昼過ぎからにしよう」
「はーい」
「それと……、危険な目に合わせてすまなかった。元凶はアーニセス王女だとしても、上手く対処できていなかった私の責任だ」
眉尻を下げたクルル様が少しだけ情けない顔をする。
ゲームの時にも同じような事があったな~。あれって確か……? うーん。頭が働かない。ま、とにかくクルル様が上手く対処したところで、あの悪役王女は変わらないと思うし。
「クルル様。多分だけど、クルル様がどんなに上手く躱したりしたとしてもあの子は変わらないと思う。だからね――」
クルル様の頬に両手を添える。そして、勢いのまま掠る程度のキスをした。
「――これで許してあげる」
目を見開き固まったクルル様の顔が、徐々に赤みを増していくと呆れたような溜息をついた。プイっと窓の外へ顔を向けたクルル様がボソボソと何かを言っている。だが、その声は車輪が回る音にかき消されあたしには聞こえなかった。
次回から、またもや商人を追います~(死




