悪役王女⑨
「何故、この国の聖女にはそう言った精霊は居ないのに……何故?」
ノヴァ君をガン見しながら髭がボソボソと呟く。その声を聴くことは流石にできなかった。
けど、アレクの「聖女……リーンはまだ教会にて聖女認定されたばかりですよ! 父上。彼女こそ本物なのです」と言う発言にあぁ、そういう事かと頭の片隅で思った。
髭やアレク、王妃や悪役王女が、何故ここまであたしをコケにするのか? それはやはり教会が認定した聖女=リーンの存在があるからだ。
いくら教会が認定したと言っても、でもそれはこの国のことであって、この国以外に聖女に近しい存在が居た記録があり、現在進行形で目の前にいる。しかも、聖女=あたしで、クルル様の国での精霊樹に愛されし乙女なのだ。
聖女であるリーンが、未だクリシュアしか連れていないのもきっと何かあるのだろうけれど……。
あぁ、真面目に考えてたら頭痛くなってきた~。ていうか眠い~。
「ジロジロ見てんじゃねーぞ?」
髭の視線が突き刺さりすぎたノヴァが、ギロっと睨みをきかせて髭を見る。肩を大きく揺らした髭は慌てたようにノヴァから視線を外した。
「父上! アーニセスがこのような目にあわされたんだ。責任を追及すべ――」
責任転嫁しようとしたアレクへ髭が「黙れ!」と怒鳴った。その声にビクっとしたのはあたしで、横に居るクルル様とオリジンが頭の中で心配してくれた。そんな二人に大丈夫、大丈夫と言いながら、重い瞼をこする。
「はぁ、まずは今回の件について正式に謝罪させていただきたい」
「すまなかった」と髭が頭を下げる。いきなりどうした? と驚くあたしは眠気が吹っ飛び髭をガン見してしまう。髭の横に立ったままのアレクもまた、自分の父親である髭を凝視していた。
『謝罪のぅ~。主様はそれでいいのかえ?』
『けっ、今更謝ったところで、許せるわけねーだろ』
『二人とも落ち着いて~。ハクがどうしたいかだよ~?』
『ふむ。アーニマの言う通りなのだ。そなたらが決める事ではないのだ』
信じられないと言った様子で、自分の羽根を整えるグレイシアと未だ怒りが収まっていないノヴァは、謝罪を受け入れること自体を拒否していた。それに対し、ニマ君とオリジンは、決めるのはあたしだと庇うような発言をする。
うーん。謝られたとしても今回はちょっとなぁ~。髭の態度も悪かったけど、他の王族の態度も悪いし、ちゃんと反省はして欲しい。このまま無罪放免にしたところであの悪役王女が反省するかと言えばしなさそうだし……どうしたらいいんだろ?
――思惑がありそうですね。
――アーニセス王女を救いたいがために頭をさげたのか? それとも……。
――これまでの事を考えれば、王女の為とは思えませんが?
――とにかく謝罪は受け入れよう。だが、王女をこのままにすることはできん。
――えぇ、そうですね。
――ここからでたら一度、城へ戻るぞ。
――はっ!
一方で悩むあたしの頭の中では、いきなり態度を変えた髭に対してイリュス様とクルル様が髭を疑っていた。その後も続く今後の対応策の会議に入り込めないあたしは、膝の上に頭を乗せたニマ君をもふる。
「ひとまず、頭をあげてください」
仕切るイリュス様の声に髭が頭をあげる。それと同時に突き刺さるような視線を感じてそちらを見れば、意識を取り戻したらしい悪役王女が騎士に付き添われて椅子に座り直していた。
(動きを見る限り怪我とかはしてない……? ノヴァ君に吹き飛ばされたのに、怪我してないってどういう事?)
『ふん。あんなのに魔法なんかもったいないぜ。小さな魔力の塊をとばして吹き飛ばしただけだ。そんなんで、怪我なんかするはずないぜ』
(なるほど~。すごいね、ノヴァ君!)
『べ、別にすごかないからな!』
「国王陛下の謝罪は受け取ります。ですが、アーニセス王女殿下をこのまま何もせず放置する事はできません。その理由は当然お分かりかと思いますが――」
イリュス様の説明の途中でアレクが「なっ! ふざけるな!」と叫び会話が中断された。
「ふざけてなどおりませんが?」
くいっと眼鏡を押し上げ、冷笑を湛えたイリュス様のブリザードが室内に吹き荒れる――本当はなにもしてないんだけど、体感温度が急激に下がった。
机を叩き立ち上がり怒りを露わにするアレクはあたしの方を指さす。
「平民風情と王女がどう――」
「おい、アレクいい加減理解しろ。お前が今指さし平民風情とのたまった女性は、私の婚約者だ。高位精霊四人と契約した人だ」
横から聞こえる地を這うような声に、心臓がドキドキと五月蠅い。机の上に乗ったクルル様の握りしめられた拳が、力を籠めすぎて白くなっている。
小説とかでも良く書いてあったけど、綺麗な顔の人がマジギレするとこんなにやばいんだなぁ~。しかもさっきのブリザードの原因イリュス様じゃなくて、クルル様だったみたい。
怒れるクルル様は秀逸な顔に怒気をのせアレクを睨みる。その怒りをぶつけられたアレク本人は絶句し、たじろいだ様に数歩後ろに下がった。
今回の元凶である悪役王女は悪役王女で、顔を俯かせクルル様を見ないようにしていた。
大量の誤字報告ありがとうございます!
本当に感謝しております。




