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悪役王女⑧

 悪役王女の態度に流石の髭も大きな溜息を吐き出した。頭が痛いと言わんばかりに眉間を揉み揉みする。そんな髭の横でアレクは肩を竦めてみせた。

 

「先ほど見たが、彼女は眠っているところを連れてこられたようだが? 本人に、王城へ来てくれと確認を取った上での事なのか?」

「わたくしが現地へ行ったわけではありませんから存じませんわ。騎士が勘違いして無理矢理連れてきただけのことですわ!」


 髭、ナイス質問。って、うわー。今度は騎士のせいにしたよ。この子本気で性格ひねくれてる。あたしも人の事言えないかもだけど、そう言うのはダメだよね。


――イリュス。

――はぁ、仕方ありませんね。


「知らないと仰いますが、貴方の指示で近衛が動いたのでしょう? それに、あんな時間に騎士が来るのもどうかと思いますよ?」


 クルル様に名前を呼ばれて顔は平静を装いながら、イリュス様が会話に割り込んだ。


「お話しするため来ていただけるように申し付けましたわ。けれど誘拐して来いとは言っておりませんし、まさかあんな早い時間に寝ているだなんて思ってもおりませんでしたもの」


 悪びれる事もなく、イリュス様の質問に自分は悪くないと悪役王女は答え。

 いや、あんたも寝てたじゃん! と内心ツッコミを入れた。


――オリジン様。ハクはどのような状態でここに運ばれたのですか?

『ふむ。寝ているところを複数人で拘束され、馬車の足場になる部分に寝かされ移動させられたな。城に着くと袋に詰められ、あの部屋へ運ばれた』

――なるほど。ありがとうございます。


 イリュス様の問いかけにオリジンが見たままを答え、それを聞いたイリュス様と悪役王女の確認作業が始まる。

 言った言わないの応酬が続き、いい加減諦めればいいのに。そう思いながら眠い目をこすりなんとか話し合いに集中していた。


 置時計がボーン、ボーン、ボーンとかなり大きめな音でなる。その音に夢の世界へ旅立とうとしていたあたしは、ビクっとしながら覚醒する。

 あぁ、ヤバイ。眠い……ていうか寝てた! いい加減、ごめんなさいって謝ってくれればいいのに……。


「彼女が王太子妃には、絶対なれないとクルル様にもお分かりになっているのでしょう? ならば、それをわたくしがお教えして何が悪いのですか!」

「だからと言って、刃物を持ち出し脅すのはどうなのでしょうね~?」


「イリュス。そこは否定しろ」と強めの口調でイリュス様を呼んだクルル様が、二人の会話をぶった切る。

 そして、ボーっと話を聞いていたあたしの右手に自分の左手を乗せ、握った。

 暖かな手のぬくもりを感じてクルル様を見れば、万人を萌え死にさせるほどの色気を垂れ流した表情であたしを見ていた。


 ぐはっ! も、もう……これ以上は……あぁ、蜂蜜が全身から吹き出しそう。クルル様ってここまで――――あぁ、甘かったわ。最初は凄いツンツンなんだけど、ツンデレになって、最後はデレデレになるんだったー!


「アーニセス王女、貴方は誤解しているようだが、彼女は、私の婚約者であり、わが国の王太子妃になる娘だ。彼女に限って言うならば、その存在こそが王太子妃に相応しいのだから」


 真面目な表情で真っすぐに悪役王女を見たクルル様が、あたしを肯定してくれる。その姿に嬉しくなってクルル様を見上げれば、クルル様の視線があたしに向いて「それに……私自身、ハクがいいと望んでいるんだ」と耳まで赤くしながら言ってくれた。


 デレデレのクルル様の言葉に嫉妬もりもりの悪役王女は、机を強く叩き立ち上がり「ふざけないでくださいまし。こんな女の何が――」と言いかけるも、その体が突如吹っ飛び壁に叩きつけられた。


「いい加減、うっせんだよ。小娘」

「うっ、うう」


 突如乱入した赤毛の男――ノヴァにあたしと精霊以外の全員が固まる。吹っ飛ばされ、呻く悪役王女の元へ悠然と歩を進め、その腕を掴み持ち上げた。

 このままじゃ悪役王女がヤバイと慌てるあたしは、椅子から立ち上がる。


「ノヴァ君。ぺっ、ぺっしなさい!」

「でもよ~ハク。こいつ、気に入らねー! オレの契約者を蔑みやがって」

「ダメ。殺したりそういう事はしちゃダメ!」

「ノヴァ、ハクが望んでいないのだ。それを放してやれ」

「チッ!」


 あたしとオリジンの説得でノヴァが王女を投げ捨てる。お願いを聞いてくれたノヴァ君にありがとうと言えば「別に、契約者なんだから当然だろ」とぶっきらぼうだけど暖かな言葉が返ってきた。


 そこへ慌てたように駆けつけるアレクがノヴァ君をきつく睨む。だが、ノヴァ君はどこ吹く風で、アレクを全く相手にしていなかった。


「ハク。彼は……?」

「あぁ、えっと。クルル様たちも見たよね? さっきのライオンさんで多分、高位の炎の精霊ノヴァですよ」

「高位精霊だと?」


 クルル様に聞かれた事に答えたら、驚いたように髭が声を上げてノヴァ君を見つめる。


 まぁ、高位精霊は滅多に姿を見せないし、オリジンみたいにほいほい出てきたりしないから、髭が驚くのも分かるんだよね~。

 多分と言うか、ゲームの知識を思い出す限りここにいる四人の精霊は、全員が人型になれる。オリジンは元から人型だけど……ね。


 高位精霊になれば、自分の属性の下位の精霊たちを従える事が可能だったはずで、ヒロインはその力を使って推しを救いゲームをハッピーエンドに持ち込む。ただし、精霊も気性が激しい分、相手が気に入らないと邪魔したり、一切協力してくれないわけなんだけど。


 オリジンの隣に座ったノヴァ君は、不機嫌そうにそっぽを向いた。

お、終わらなかった……orz

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