悪役王女⑦
緊張感漂う室内は、あたしにとって凄く息苦しく感じる。
……違う。これは、絶対座るとみぞおちに食い込むコルセットのせいだ。
「ではまず、確認させて頂きますが」と横の方に立つ恰幅のいい叔父さんが額に流れる汗を拭きながら話し出す。
――誰、この叔父さん。
『宰相と呼ばれていた男だな』
――あぁ! 思い出した。謁見の時に隅っこの方に居た人ね! ありがとう、オリジン。
「――と言った状況で間違いありませんか?」
悪役王女に攫われた経緯を話す叔父さんが、確認を取るようにクルル様を見た。それに補足を足すようにイリュス様が追加で言葉を加え互いの認識をすり合わせていく。
「アーニセス。何故、そのような事をした?」
怒気を含んだ髭の問いに名を呼ばれた悪役王女はキッとあたしを睨みつける。答える声が聞こえないためか、再び髭が「アニー!」と愛称で悪役王女を呼んだ。すると彼女は、睨むのを止める。
「確かに、無理矢理こちらに来ていただきましたけれど、彼女と二人で話したいことがあってお越し願っただけですわ!」
「話したいことだと? それはなんだ?」
「彼女にはクルル様の婚約者は務まらないとそうお教えしたのですわ」
「私の婚約者が誰であろうと、貴方には関係ないと思うが?」
悪役王女の毅然とした態度は凄いと思う。けど、それが余計にクルル様の癪に障ったようで、語気強めにクルル様からハッキリと無関係だと言われてしまう。
悔しそうに唇を噛む悪役王女はそれでも、自分が間違っていないと主張をした。
「一国の王太子たる方の伴侶として、後ろ盾も無く、見た目も貧相な女性が務まるとは思えませんわ。それに比べて、わたくしはこの国の王女ですもの。将来を見据えるのであれば、わたくしを伴侶に選ぶべきではありませんこと?」
『何という傲慢な女だ。お前こそ見てくれだけではないか!』
『許せませぬな。主様に危害を加えようとしただけでも万死に値するのじゃ』
『こいつの存在消すか?』
『僕こういう子本当に嫌い~~~』
オリジン、グレイシア、ノヴァ、ニマ君の順で言葉を発した精霊さん達は、ハッキリ言ってマジ切れです。そんな彼らに、ここはクルル様たちが何とかしてくれるから、手は出さないでね。と落ちつくように心からお願いする。
確かに、彼女の言う事も最もではあるが、やっぱりムカつくものはムカつく。まぁでも、彼女の気持ちも分からなくはないんだけどね。だって、もしあたし以外の人――主にリーンだけど――とクルル様が好き合ってたとしたら、あたしも嫉妬しちゃう。自分にもチャンスがあればって思っちゃう。
「確かに、彼女は何の後ろ盾も無く、見た目も貧相だし、身体も貧相ではあるが……。それは、クルルが選ぶべきものだ。例え、アーニセスが自分こそ相応しいと思っていたとしても、彼女を無理矢理に近衛騎士を使って、攫うのはダメだろう? それに、クルルの国での事だ。お前が口出しできるようなことではないと分かっているだろう?」
困り顔のアレクがあたしの事をチラッとみながら貧相だと連呼する。それにイラつきアレクをキッと睨みつけた。
アレク自身は、悪役王女へ諭すように言ったのだが、言われた悪役王女は一向に悪いと思っていないのか「だって、会いたいと言ってもお兄様やお父様は、いずれとかそのうちなとはぐらかされたではありませんか!」と、今回の誘拐は自分のせいではないと言いたげな言葉を返した。
『ハク。クルルとイリュスと繋げる。声を上げてはならんぞ』
突然聞こえたオリジンの声にあたしは首を傾げる。そして、直ぐに頭の中で心配するクルル様の声と頭が痛いと言わんばかりのイリュス様の声が聞こえた。
――白、大丈夫か? 顔色が良くないが……。
――アーニセス王女がこれほどとは、このままでは確実に外交問題にまで発展しそうですね。
『もうやっちまおうぜ!』
『この国を塵と貸せばよいのではないかの? 主様はいかが考えておられるのじゃ?』
――いやいや、皆ちょっと待って……。確かに今回の事は許せないし、きっちりして欲しいとは思うけど、無関係の人たちを巻き込まないで~。ちゃんとクルル様たちが片付けてくれるからね? お願い~!
不穏な発言をするノヴァとグレイシアに再度、お願いしつつ、心配するクルル様に「大丈夫だよ」と返せばクルル様が、目を細め表情を緩めて笑ってくれた。
あぁ、クルル様が優しい! こんな状況だけど、心配されるのって嬉しい! しかもあの微笑~~~~そのご尊顔はあたしの脳内フォルダーに永遠に刻みますぅぅ! あぁ、萌えが爆発してしまう。あたしの萌えがぁぁぁぁ!
「……と言う事は、お前はお前の意思で、他国の王太子の婚約者を攫ったと言う事だな?」
「お招きしただけですわ」
髭の問いかけに悪役王女は顔色一つ変えずに平然と嘘をつく。その姿に呆れながらも疑問が浮かぶ。
これが、貴族とか王族なの? あたしにはこんな風になるの無理だわ―。ていうか、わざと嫌われるようにしてるとしか思えないんだけど……なんで? そう言えば、悪役王女ってゲームの中でどうなったんだっけ?
ゲーム時代の悪役王女に関する記憶を漁る。けど、彼女がどうなったのかあたしは覚えていなかった。その事に悶々としながら、再び話し合い――事情聴取へ耳を傾けた。




