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商人を追って⑪

 オリジンから降ろして貰って、思い出したことをどう伝えるべきか考えた。

 思い出した内容と実際に見たものは僅かに違う部分があった。それを、ゲームに似た世界だからと言う一言で片付けていいのかどうかも頭を過る。だけど、今はそんな事を考えている時間はないと思考を切り替える。


 この世界の成り立ちが分からない状態で――と言うかあたしがイレギュラー過ぎなんだけど――この世界の住人である精霊であるオリジンやクルル様達に、この世界はあたしの世界ではゲームになっていたんだよと伝えていいのか分からないし、気付かせるべきじゃないような気がする。

 だからこそ、ヒロインなんて言葉はつかえない。

 ……うーん、うーん。あ! そうだ、夢で見たことにすればいいじゃない? 夢で、ここにヒロイン――って言っちゃダメだから、そう、聖女様が来るって事にすればいいじゃん!


『それで、ハク。何を思い出したのだ?』

「えっとね。ここってこの国の聖女様が来る教会なんだよ!」


 走り寄ってきた三人が落ち着いた頃合いを見計らって、オリジンがあたしに思い出したことを聞いて来る。そんなオリジンにあたしは、ついさっき考えたばかりの言葉を使って話しをした。


『どういうこと~? 聖女って何~?』

「何故、白様がそれをご存じなのですか?」

「え? 今、聖女と言ったか……?」


 あたしの答えにニマ君が、不思議そうに首を傾げ尻尾をふっさふっさと振った。かと思えば、不振顔のイリュス様があたしが一番聞かれたくない事を聞く。そして、クルル様は何故か聖女と言う言葉に反応していた。


 クルル様……って、まさかの聖女様に会いたい派なの? それで会ったら好きになるとかいう落ち? うわー、聖女なんて言わなきゃ良かった……。もしヒロインに会ったら……あぁ、発狂しそう。幸せ気分だったのに、ヒロインのせいで……うわああああ!!


「白、ど、どうしたんだ?」

『ハク~???』

「白様?」

『最近、ハクの思考が読めん、何を百面相していたのだ?』


 突然クルル様、ニマ君、イリュス様、オリジンの順で名前を呼ばれ、複数の眼にさらされている事を知りあたしは考える事をやめた。どうやらすべて顔に出ていたらしい……マジで恥ずかしすぎる……。

 それを取り繕うように「夢、そう夢で見たの! ここに聖女が来てる夢!」と伝えれば、皆が皆何かを考えこんでしまった。


 廃れた教会の前でイケメン三人プラスあたしで難しい顔をしていれば、当然ながらそこを通る人たちが繁々とみていく訳で……。それにいち早く気づいたあたしは、クルル様とイリュス様、オリジンを引っ張りニマ君と一緒に直ぐ側にある食堂へ移動した。その間も三人は、難しい顔でボロボロの馬車を見つめていたように思う。


 夜は間違いなく酒場になるだろうと言う雰囲気を醸し出している食堂は、そこかしこに木製の丸テーブルと空樽を利用した椅子が置かれている。

 今の時間は、暇なのか店内は閑散としており、あたし達を見た女将さんっぽい人――面倒だしもう、女将さんでいいや――は「好きな席に座っとくれ」と言ってくれた。その言葉にお礼をいいつつ、教会が見える窓際の席に腰を下ろす。


 あたし達が座るとそれを見ていた女将さんが、木製のメニュー表と木製のビアジョッキに水を入れたものを持って来る。それを受け取りメニュー表を開き、中を見れば……なんと、日本の食堂メニューが並んでいた。


 メニューを覗き込んだニマ君が『僕、甘いのがいいなぁ~』と言えば、イケメンなのに無表情のオリジンが『ふむ。それならば、我も甘味を望むのだ』と言い出す。


「ハク、どれがいい?」

「ん~。どうしようかなぁ~。ハンバーグ定食かな? でも、から揚げ定食も美味しそう」


 教会を気にしながらあたしに気を使ってくれるクルル様に答えながら、どの定食にしようか悩む。何気にカツ丼も捨てがたい! 本当にどうしよう……。


「それなら、私がから揚げ定食を頼むから、ハクはハンバーグにするといい。おかずを半分にすれば問題ないだろう?」


 ナンデスト! ク、クルル様がっ……イケメン過ぎて辛い!!! 

 半分こしたらいいと提案してくれたクルル様の言葉と笑顔に、あたしの心は再び鷲掴みにされてしまった。幻想だとは思うけど、今のあたしの視界に移るクルル様はまるでゲームのスチルのように煌めき、輝いて見えた。

 あ~、本当に素敵。こんな素敵な人があたしに、馬車でき、きす、キスしたんだよね……。あぁ、ヤバイ。あの顔を思い出すだけで、鼻血出そう。


「ハク、それでいいか?」

「……うん。だ、大丈夫だよ」


 見つめる事に夢中で話を聞いていなかったあたしは、クルル様の問いかけに一瞬迷いながらも大丈夫だと答える。そんなあたしに頷いたクルル様は、イリュス様に女将を呼ぶよう伝えた。


お楽しみいただけましたら幸いです。

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