商人を追って⑫
注文した定食とデザートが揃うと、クルル様は約束通りおかずを半分くれた。そのお返しであたしも、クルル様におかずを半分渡す。そして、食事を食べ始める。
出てきた定食やデザートは、名前も見た目も味も本当に同じで、箸が出て来た時には、日本に居るんじゃないかと思うほどだった。
「さっきの場所ですが、どうしますか?」
『あぁ~! オリジンずるい。それ僕のイチゴなのにぃ!』
「そうだな。とりあえず出入りを確認して、一番人が少なくなる時間を調べるべきだろう」
『ふん。イチゴは全て我にょもにょなにょだ!』
『ハクぅ~。オリジンがぁ、僕のイチゴ取ったぁ~』
ナイフとフォークで生姜焼き定食を食べながらイリュス様は、真面目な顔で今後の相談を始める。
そこへ、ニマ君に悲しみに満ちた声が上がる。その声につられて見れば、オリジンがニマ君のイチゴサンデーソフトの頂上に乗ったイチゴをパクリと口の中へ入れるところだった。
精霊二人のやり取りには口を出さず、クルル様も同じくナイフとフォークでから揚げ&ハンバーグ定食を食べイリュス様に答えている。
ある意味、カオス……。
「もう、オリジン! ニマ君の取っちゃダメ。ほら、ニマ君あたしのイチゴ上げるからね? これで我慢して、ね?」
保育園とか幼稚園の先生のようなことを言いながら、定職に付いていたデザートのイチゴをニマ君のサンデーソフトの頂上へ置いた。それを見たニマ君は、嬉しそうに尻尾を揺らし『わーい。ハク、大好きぃ~』とあたしの太ももにスリスリする。
そんなニマ君の頭を撫でて落ち着かせて、再び箸を持ちかけた。その時――背筋にゾクっとしたものが走る。
「――!」
「ハク!」
「クルル様!」
『にゃんにゃにょだ!』
(なんなのだ!)
『気を付けて!』
即と食事をの手を止めて、四人がそれぞれに動く。クルル様はあたしを引き寄せ振り返り、イリュス様はそんなクルル様の背後に回る。オリジンは、宙に浮かび可愛い顔をキリリッとさせ、ニマ君は獲物を狙うよう時の犬のように上体を伏せ牙を剥いた。昼下がりの和やかな食堂に緊張が走る。
店内を見回し、入口で視線を止めたイリュス様が眼鏡を持ち上げ、今までに聞いたことのない声で「誰だ。そこに居るのは分かっている!」と言う。イリュス様の声に、全員でそちらを見た。
そこに現れたのは、Love with youのヒロインによく似た女の子を伴ったアレク――この国の王太子だった。
二人の姿を目にしたあたしは、酷く驚き目を見開いた。
ヒロインに凄くよく似ているけど……ヒロインなの? Love with youでのリーン――ヒロインは、もっと明るく、笑顔が可愛い印象だったはず! なのに、今アレクが連れている女の子は、俯き、こちらを見ようともしない。
見た目は本当によく似ている……と言うか同じだよね? プラチナブロンドの髪を腰まで伸ばしサイドを編み込み後ろで纏めているところも、淡い桃色のワンピースも……。
見れば見るほどヒロインそのものなのに、なんだろ、この違和感は?
「すまんな。まさかこんな所に、クルル達がいるとは思わなかったんだ」
「申し訳ありませんでした」
思考の迷宮に突入しようとしていたあたしを他所に、片手を上げたアレクと後ろに控えていた従者と思われる青髪の青年がクルル様達へ気安く謝る。
そんな二人に、肩の力を抜いたクルル様は、イリュス様の肩を叩き横へ移動させると「なんだ、アレクか……何故お前がこんなところにいる?」と問いかけた。
「あぁ、彼女がこの辺りで落とし物をしたと言うのでな、一緒に探しに来たんだ」
隣に居るヒロインに激似の女の子の背に手を伸ばし、トントンと叩く仕草をしたアレクは僅かに微笑みを浮かべる。そんなアレクにクルル様は「……そうか」とだけ答えた。
二人の気安いやり取りを黙って聞いていたプラチナブロンドの彼女が顔を上げる。睫毛が長く、パッチリとした二重の大きな瞳は、どこまでも青く澄み、すっと通った鼻筋。ぽってりと可愛らしい唇……その顔は、間違いなくヒロインのそれで……。
嘘、でしょ……なんで? こんな所で、クルル様とヒロインが会うはずがないのに! なんで、ここにリーンがいるの!?
「……は、ハジメマシテ。私、リーン・セレトスと言います」
庇護欲をそそる様な笑みを浮かべ、甘えたような声音を出すとクルル様やイリュス様にリーンは挨拶をした。
あたしとは全然違う。そう思った途端、この場から逃げ出したい衝動に駆られる。そんなあたしの心中を知らないクルル様が、あたしの腰に腕を回す。
「あぁ、よろしく頼む。私はクルル、こちらは私の従者でイリュス、そして、彼女が私の婚約者でハクだ」
「はい、よろしくお願いいたします」
「あぁ」
「食事中だったのだろう? 私達も休憩がてら寄ったんだ。相席してもいいか?」
アレクの思わぬ提案に、あたしの肩が僅かに揺れる。
断って、お願いクルル様! と酷く動揺した心で願う。
肩に乗ったオリジンと足元のニマ君の二人だけが、今のあたしの心中を察したように心配そうな瞳を向けていた――。
足を運んで頂きありがとうございます。




