商人を追って⑩
買った二冊の手帳をイリュス様に預け、クルル様と二人……じゃなくて、オリジンとニマ君と一緒に四人で歩く。気分はデートなんだけど、聞こえてくる声が既にデートじゃない! オリジンがお菓子屋さん見つける度に、買えと五月蠅いとだけ言っておく。
街を歩いていると古い教会のような建物の前に、幌馬車が止まっているのが目に留まった。その馬車は長い旅を終えたばかりなのか、帆の部分が大きく破け車輪がかなりすり減っていた。
「あの馬車、どこから来たんでしょうね?」
「あぁ、かなり遠い所から来たのだろう」
「でしょうね~。だってあんなボロボロだし……あの馬車で走ってきた人ってすごいですよね~」
「確かに、アレで移動は流石にな……獣にでも襲われたのだろうか?」
何気なく指をさし示してクルル様と会話を楽しんでいるとニマ君が鼻をヒクヒクさせたかと思うと突然大きくなった。
『クルル、オリジン! アレ、匂い同じだよ!』
『にゃんだと?』
自信に満ちた声を上げるニマ君に、すぐ近くのお菓子屋の方へ意識を向けていたオリジンがちょっと噛みながら驚きの声を上げる。
「それは本当ですか?!」
「えぇっ!」
一拍遅れて驚いたクルル様とあたしは、幌馬車を見てニマ君を見てを繰り返した。
今更だけど、商人の動向を探るためにアリュスートに来たんだった。浮かれすぎてと言うかアリュスートの王様達の態度のせいで、目的を忘れてたよ。ていうか、この建物、どこかで見たことあるような、無いような……うーん。思い出せない。
教会の見た目に、何か引っかかるものを感じて繁々と上から下までをマジマジと観察する。視線だけで何度目かの往復をしてみたものの、やはり思い出せない。
『匂いは同じだけど……知らない人間の匂いもする。後……多分、仲間もいると思う』
鼻の頭ををヒクヒクさせて、嫌悪感を表すように牙を出したニマ君。その声すらも本当に嫌そうな感じで聞こえた。小人から大人になったオリジンが顎に手を当て、何かを探るように目を眇め動きを止めた。
クルル様の喉仏が僅かに上下したかと思うとあたしの方を振り返る。
「白、馬車へ――「やだ!」」
「白様……」
クルル様の言葉はきっと馬車へ戻っていろだと思う。それはあたしを心配しての事かもしれない。でも……今回はすごく、すごく嫌な予感がする。こういう時は絶対離れちゃダメだと思うから我儘を押し通す。そんなあたしの肩を掴むのはイリュス様だ。クルル様から離されそうになり、必死で抗った。
「ダメ。今は離れちゃダメなの! お願い、お願いだから聞いて!」
「白様、こんな所で我儘はおやめください」
「だめなの、イリュス様。お願いだから……今は離れちゃダメ」
必死にイリュス様に懇願しつつ僅かな隙をついてクルル様の服を掴む。掴まれたクルル様は困り顔だ。そんなあたし達のやり取りをぶった切ってオリジンがあたしを呼ぶ。
『ハク』
「……なに?」
『ここがどういった場所かわかるか?』
「……うーん。思い出せないけど知ってると思う」
曖昧過ぎるとは思った。だけど多分知ってると確信が持てた。だからそのままに返すと頷いたオリジンが『ふむ。クルル、少しハクを借りるぞ』と言うとあたしをお姫様抱っこして空に浮かんだ。
ぐんぐん上るオリジンに抱えられて見た協会のような建物は、今にも倒壊してしまいそうなほど崩れた協会だ。建物の奥には、元は庭だったであろうぽっかりとした空間が広がっていた。
「ん?」
『どうかしたのか?』
「オリジン、ちょっとあっちに行って」
庭だったであろう場所を指しオリジンに飛んでもらう。
この形どこかで見た気がするんだけどな……。記憶を呼び起こすように、元庭の中心部にある六角形に掘られた場所を見つめ思案する。
なんか違う気がするけど……元が分からないから分からない! なんだろ、モヤモヤするぅ!
『ふむ。この形……水のか?』
あーでもないこーでもないと繰り返し思い出していたあたしは、オリジンの言葉にハッとした。
そうだよ、ここってlove with. youのオープニングで流れる場所じゃん! 聖女の儀に参加するために王都に来たヒロインが、水の精霊と二人肩を寄せ合って眠る場所だ。
そして、ゲームの中でもここは度々登場する。そう、ヒロインが、意中に相手と密会する場所として……。
「思い出したぁぁぁ! オリジン思い出した、思い出したよ!」
『は、ハク、ま、まつのだ! ちょ、お、落ちる!』
思い出せてスッキリすると同時に興奮したあたしは、オリジンの首に回した両腕を激しく揺さぶった。必死にあたしを止めようとするオリジンは、余りの激しさにゆっくりと下へ降りることが出来ず急速下降した。
ふわっと感じるあのエレベーターがついた時のような浮遊感に、身体がゾクッとして興奮が一気に止まった。
降りてきたあたし達に駆け寄ったクルル様は、「無事か?」と心配そうに声をかけてくれる。いつの間にやらイリュス様がクルル様の側へ、ニマ君はあたし達二人の側へ来てくれていた。
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楽しんでいただければ幸いです。




