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商人を追って⑧

 翌朝、メアリーさんに起こされ寝心地のいいベットを後に、浴室へと向かわされる。今日はクルル様と街へのお出かけデート、だからなのメイドさん達も気合十分な様子。

 まずは寝起きからお風呂に入りスッキリとしたところで、待ち構えていたメイド部隊にドレッシングルームと呼ばれる更衣室へ連れ込まれた。


 色とりどりのワンピースがあてがわれては離れていく。

 メイドさん達は、あたしをどうしたのやら? もうそろそろ決めて貰っていいですか? もう着替えるだけで疲れて来たよ。

 なんてことを思いつつ、メイドさんによって着替えさせられた。


 今日は針金? と言うか鉄板? 入りの硬いコルセットではなく、皮を腰で占めるタイプの柔らかいタイプのものだ。これなら楽だな~なんて思いながら遅めの朝食を食べる。今日は、久しぶりにクリームパンだ。あたしが食べたいっていったせいで、食事を用意するシェフさんとお菓子を用意するシェフさん二人が頑張ってくれました。

 本気でありがとう! 美味しく頂きます!


 心の中でお二方を思い出し両手を合わせ、頂きます。香ばしく焼き上げられたパン生地は軟らかくフワフワだ。そんな生地に包まれたカスタードクリームは、バニラビーンズが良く聞いていて高級感がありつつ美味しい。


「うわー。マジで美味しい! これ絶品だよ~」

『それはなんにゃにょだ。いい匂いにゃにょだ』

『うん。すごくおいしそうな匂いがするよ~』


 絶品のクリームパンを頬張りもぐもぐしていると甘いもの大好きオリジンと鼻をスンスンしているニマ君がうるうるした瞳で、あたしをっていうか……あたしの手にあるクリームパンを見つめてきた。

「もう仕方ないなぁ~。今日だけだよぅ~」なんて言いながら、二人にそれぞれひとつづつクリームパンを渡して一緒に頬張った。


 満腹気味に朝食を終わらせて紅茶を一口啜ったところでクルル様が迎えに来てくれた。

 今日のクルル様の服装は、落ち着いたモスグリーンの布地に黒のボタン襟口と袖口に軽く白っぽい緑の刺繍の入ったワイシャツの上に、更に濃いめの緑のベスト。そして下は、黒に少しだけ照りのある色合いのズボン。


 うおおおおおおおおおおおおお、イケメンは何着ても似合う! ヤバイ、これもまたいい! 萌え~~~~~。


 鼻息荒くクルル様を見ていたら、見事に苦笑いされた。その笑顔を眺め立ち上がろうと腰をあげたあたしに、クルル様が手を差し出す。


「準備はいいのか?」

「あ、うん!」

「では行こうか」


 差し出された右手に左手を置いて立ち上がり、部屋をでると馬車に乗るまで腕を組むようにしてエスコートしてくれた。


 馬車に乗りこみ、クルル様によってこの世界の常識を教えられている現在――。

 街に行くのに歩いていく訳はないと思っていたけど、まさかのお勉強タイム。クルル様が言うには、この世界の王族や貴族は基本的に買い物=屋敷に商人を呼ぶ! なのだそうだ。

 どうしても店舗に足を運ばねばならない場合、馬車で移動するようです。何店舗か回る場合も全部の移動に馬車、それが例え歩いて二分のとこでも馬車! なんだって……。


「え? それ本気?」

「そうだぞ? だから、近くだからって勝手に歩いていくのは禁止だ」

「え~~! なんかそれって、全然デートっぽくないじゃないですかー!」

 

 全部を馬車で移動するってなると手つないで歩けないじゃん! どうやってこの世界の貴族はデートしてるのさ? むぅぅ! 恋人繋ぎしたかったのに……。


 考えていたことが顔にでていたらしいあたしにクルル様は「そんなに歩きたいのか?」と聞いて来る。それに対してあたしは自分の本能のまま「だって、デートで恋人繋ぎしたい」と我儘を言いブー垂れる。

 そんなあたしの頭を撫でるクルル様が、珍しいことに少し考えるような素振りを見せて頷く。


「仕方ない。どうしてもと言うのなら、そうだな……今日だけは特別に街を歩いてみるか?」


 いつもなら素っ気なくダメだ。と言うはずのクルル様が、クルル様が……あたしの我儘を聞いてくれた。これって、少しは好きになってるって事? いや、それはあり得ないか~。

 クルル様の表情はいつも通りであたしの思い違いなだけかと嘆息する。


「どうするんだ?」

「恋人繋ぎしてくれる?」


 上目遣いに正面に座るクルル様を見つめれば、短く「あぁ」と返ってきた。


「本当に? 本当にいいの?」


 勢い込んで前のめりに確認してしまう。そんなあたしの行動をギョッとした表情で驚いたクルル様は、そんなあたしのおでこに右手の人差し指と中指を当て、ぐりぐりと回し押し戻す。


「痛い!」

「白は、何をするか分からないからな……」

「え? なんかしましたっけ?」


 なんかしたっけ~? と本気で首を傾げるあたしにクルル様がぼそりと何かを言った。けれどその声はあたしには聞こえなくて、再び何をしたのか聞こうとしたところで、ドンと言う音と共に、クルル様の腕があたしの顔の横に……。

 この状況はっ、ま、ま、まさか……壁ドン!!


足を運んでいただきありがとうございます。

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