商人を追って④
赤い尖塔が多く立ち並ぶ王城の客室を借りてメアリーさんに手伝って貰いながらお義母様の選んでくれたクルル様の瞳の色のドレスを纏った。装飾品だけでも首から上が捥げそうなほど重いのに……今回のドレスはその何倍もある。
おおおおおおっ、重っ! こんなん来てよく皆動けるなぁ……あたしには無理かもしれない。
「さぁ、白様しっかりと立って下さいね」
支度が終わったあたしは必死に立ち上がる。ドレスの裾に隠れて見えない足はまるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。高いヒールは動かなければなんとかなりそうだけど……これで歩いて謁見の部屋まで行くのは無理!
「オリジン……助けて」
涙目になりながらオリジンに縋る。すると小人オリジンはニマ君と相談を始めた。
そして二つの魔法があたしを包む。
まず一つ目は、オリジンの魔法でピンヒール並みのカカトの高い靴がぺったんに。
二つ目は、ニマ君の魔法で重くのしかかっていたドレスの重さが羽のような軽さになった。
『ふむ。これでよいにょだ』
『ハクどぉ~? 軽くなったぁ~?』
「二人ともありがと! 大好き」
小人オリジンを手の中でナデナデして、ニマ君を目いっぱいモフモフする。二人は気持ちよさそうに目を細めると『これぐらい大したことにゃいにょだ』『わーい。もっともっと』と喜んでくれていた。
着替え用の部屋からクルル様との待ち合わせ場所であるダイニングへ移動する。そこには、裾や襟には紫と薄いグレーで落ち着く刺繍がされた黒い詰襟の軍服に金のボタンの衣を纏い。艶やかな黒髪を後ろに撫でつけ緩く背中で纏めたクルル様がソファーに座りあたしを待っていた。
「…………来たか」
「…………超、カッコイイよ。クルル様!」
たっぷり間を開けてクルル様が立ち上がり微笑む。ほんのりと赤くなっているのはきっとこの部屋の温度が高いせいだろう。
それにしてもクルル様はこうしてみると本当に美しい。男の人の色気って言うか、あの詰襟を軽く外して肌をさらけ出したりされたら……。
「我が人生に悔いなし……」
ついつい漏れ出てしまう本音。
意味が分からないと言う顔をして「何がだ?」と聞き直された。
「あ、いえいえ何もないです! しかし本当にクルル様素敵ですね。鼻血出そうなぐらい色気がヤバイです!」
「……そうか」
歯切れが悪い感じでクルル様は何かを言いたそうにこちらを見る。バッチリとかち合う視線――。
と、そこにグレーのタキシードっぽい服を着たイリュス様が扉から顔をのぞかせ「お呼びです。移動しましょう」と声をかけてきた。
なんとなくいい雰囲気だったのに……残念。
柔らかく赤い絨毯が廊下を覆い、壁際には鎧やら高そうなツボやらが等間隔に並べられている。そんな廊下をクルル様の腕に手を添え歩く。あたしの肩にはオリジンが居て、横にはニマ君がいる。そして、後ろを歩くのはイリュス様と護衛の騎士が二人だ。
「ねぇねぇクルル様」
「ん?」
「王様って、髭の人だよね?」
「ひ、髭って……くくっ」
あたしの中の王様の印象はものの見事に髭だった。そのため素直に髭の人と言ったのだが、どうやらクルル様のツボを押してしまったらしい。
肩を揺らし必死に笑いをこらえようとするクルル様に後ろのイリュス様がゴホンと咳ばらいする。
そんなやり取りをしつつ、謁見の部屋へと到着した。
白に赤い模様が入った両開きの扉の前にあたし達が立つと扉のサイドに居た騎士二人が扉を開いた。
正面に見えるのはやっぱり髭だった。顔はいかつい感じ見えるけど、目元は優しいおじさんって感じ。その右横には、金髪の美女がいる。あの人が多分王妃様だろう。じゃぁ、左に座ってるのがこの国の王太子?
クルル様と中へ向かい歩きながら、壇上にいる人たちを見る。王族とかは許可が出るまで直視しちゃダメって、ドリルさんに言われていたのでコソコソ除くように見た。
王様から五メートルほどの距離を取ってクルル様が立ち止まると胸に手を置いて頭を下げた。そんなクルル様に倣ってあたしも必死にカテーシーモドキを披露する。
ぶっちゃけさっさとしてくれないと……もたない!
「お久しぶりでございます。ビバリーズ陛下。ますます、お美しく有らせられますね。ジェイン王妃」
「うむ。久しぶりであるな」
「あらあらお世辞でも嬉しいわ」
ちょっと、そんな三文芝居どうでもいいから早く早く楽にしてって言って~~~~! もうふくらはぎの限界が近い!
プルプル震えるあたしは必死に耐えていた。正直話なんてどうでもいいから早く、早く楽にしろと言って欲しかった。
「陛下」
「あぁ、そうであったな。楽にしてくれ」
壇上の一個下に立っていたよぼよぼのおじいさんが国王陛下を呼び、漸くあたしはカーテシーから解放された。
心の底からおじいさんにありがとうと言っておく。
「して、そちらの可愛らしい人は?」
視線だけであたしを見る髭王に、クルル様はニッコリ営業スマイルを浮かべる。
そしてゆっくりとした動作であたしの背に腕を回した。
「私の婚約者である。ハク・アマチ嬢です」
「は、はじめまして。ハクです。よろしくお願いします!」
緊張で裏返りそうな声を必死に抑え自己紹介をした。
今回は失敗しなかった! あたしはやればできる子♪
遅くなりました!




